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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第七巻 空中都市のアカデミーと運命の三姉妹
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第三十九章 卵の中の試練

翌日、僕はエドガーとアカデミーの地下にいた。そう、あの実物提示教育が行われた場所だ。扉は開かれており、中にはマガタ教授がいた。エドガーは大股でずんずんと中に進むという「じゃあ、よろしく頼む」


え? こんなに気軽でいいのか? 俺がそう思いマガタ教授の顔を見ると、教授はゆっくりと頷き、手を高く上げる。その手のひらには、奇妙な光が集まっていた。光……? そこにあるのは、生命体のようなうねり。そこからは魔力を感じるけれど、俺が知らない何かが生まれているような、生きて活動しているような、妙な感覚を覚えた。


マガタ教授が小声で何かを口にした。すると、俺の足元がゆらぐ。頭の中に何かの映像が生まれた、と思ったのだが俺はそれを覚えていない。どういうことだ? 


困惑する俺をよそに、ふと、前にいるエドガーの姿が変化していることに気が付く。ゆっくりと身に着けている鎧や大剣が発光し、溶ける。そして、龍の姿になり、巨大化する。


そこにいたのは俺が知っている龍人のエドガーではなかった。五メートルは軽く超えるだろうか? 悠然と大きな翼を動かす、青銀の鱗に覆われた龍の姿だった。彼が息を吐くと、吹雪が巻き起こる。俺は右手の紋章を起動していて、冷たい身体を撫でていた。心に生まれる小さな恐れ。目の前にいる、美しくも強大な存在。俺は思わず「エドガー」と声を上げていた。


「へへへ。何だかこれはこれで、いい気分だな」


 そう、エドガーの声がした。確かにいつものエドガーの声だ。と、マガタ教授の詠唱の声がして、それと同時に寒さを感じなくなる。


「時の翁よ夜の駆り手よ


 新しい軌道を告げよう


 天の書物のほころびを結び


 夢魔の脳髄をすすれ


お前の旅は終わり始まる


アスターニャ・ケッヒ・ロウド・リテーニェ


お前は望み 忘れ たまゆらの旅の虜だ


オーケンス・アーニャ・オウランド・ラクシーチャ


ペディ・ユース・キノー


お前は眠り 目覚める


ユクリフ・ソイ・マステーノ」


 目の前にいたはずのエドガーは、子供の頭部程度の銅色の球体に変わっていた。そこからはアーティファクト反応がした……


「それで、なにか質問はあるかね?」マガタ教授が穏やかな口調でそう言うんだけど……


「ええと、あの……質問が思いつかない位びっくりしているというか……何の説明もせずにこんなことが起こってしまったというか……」


「そうか。でもお連れさんにはちゃんと説明をしたのだが。しかし彼は、今は卵の中だ」


 うう、いや、それは分かるんだけどさ。って! 俺がちゃんと聞かなきゃいけないんだよ。この卵の取り扱いの注意などについて説明してもらおうとすると、教授はほんの少し笑みを浮かべ、


「壊れないよ。安心して持ち運べる。シビチーヌ火口に投げ込んだら分からないけどね。時が来たら勝手に割れる。君はアーテイファクト使いだから、もし望むならば頭の部分を念じて叩けば、強制的に卵を割り彼を目覚めさせることもできる。しかしそれをすると再び卵に戻ることはできないから気を付けて。私としては彼の試練を見守って欲しいんだ。よろしく頼むよ」


「あ、はい。でも、その……そんなアバウトな感じで大丈夫なんでしょうか……」


「弱った。そこまで深く説明するようなことがないのだ」


 そうマガタ教授が口にすると、なんと、頭部程度あった卵がみるみるうちに小さくなり、五センチ位の大きさになると、真っ黒になり、わずかに発光する。闇の力を持つ宝石のようなそれを、僕は用心深く手に取った。


「戦いが始まったようだ。この中で彼は夢魔と戦っている最中だろう。外からの干渉は、この卵を壊すことしかできない。しかし彼ならうまくやってくれるだろう。それじゃあ、次に講義があるからそろそろ失礼するよ」


 マガタ教授はそう口にすると、ゆっくりとその場を後にする。深く説明することがないと言うなら、そうなんだろうな……俺も、いつまでもここにいても仕方がない。ええと、今日の朝に、この後ルディさんと会う約束をしたんだよな。俺は小さな卵をポケットに入れ、約束の場所へと向かった。


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