第三十八章 君と一緒に
エドガーは冷静に言う「そんでさ、スクルドが死なないってのはどういう意味でだ? アーティファクトの力で不死状態になってるってことか?」
「私たち三姉妹の身体の中にはアーテイファクトが埋め込まれています。アーテイファクトが依り代、適合者を選ぶのです。そしてそれが身体に宿っている間は不老不死になります。アーテイファクトが何らかの理由で砕けない限り。しかし、私たちの身体にそれがある期間は限られています。歴代の姉妹の記録で言うと、おおよそ十年から五十年といったところでしょうか」
ルディさんがそう説明をした。一時的にアンドロイドになるアーテイファクトという理解でいいのだろうか。そして、その間だけ強力な力を得ることが、預言を聞くことができるという……僕がそんなことを考えていると、エドガーが言葉を続ける。
「つまり三姉妹は、アーテイファクトに選ばれている間は戦闘で死亡しないということなのか?」
「はっきりとは言えません。私たちは表に出て戦うことが少ない、そういった記録もほとんど残っていません。しかし、スクルドが言いたいことは伝わっているかと思います。私たちは足手まといにはならないはずです。エドガーが私と一緒にいた時、お役に立てましたよね」
ルデイさんはそう口にした。確かに、彼女やスクルドがパーティに加われば、戦力面でも冒険面でもきっと力になってくれるだろうという気はする。ただ、その不死とか死なないとかアーテイファクトの力について詳しい説明をしてくれてないのがひっかかってしまう。説明したくないのか、そこまでの説明は必要ないと判断しているのか、それとも彼女たちにとっても未知なものなのか……
うーん、これ以上は考えても仕方がない。心配をしたらきりがない。でもリーダーの立場ならしなきゃいけないことも分かる。僕は素直な意見を言うことにした。
「エドガー。僕もスクルドをこの冒険というか、ミッションに同行することは危険が伴うと思うんだ。でもさ、スクルドだって子供じゃない。足手まといになると判断したら自分で身を引いてくれると思うし、俺がちゃんと言うよ。ああ、でもさ、多分俺よりしっかりしてると思う。今の俺らのパーティに足りない力というか、知識とかが彼女にはあると思うし。それで、カヴァーできる点は俺が助けるから。どうかな?」
そう告げると、彼は俺に視線を向けた。少し硬いエドガーの表情が、丸くなった? エドガーは大きなため息をつく。
「あーあ。アポロ大先生がそういうなら仕方ねえか。幾らスクルドが優秀なアカデミーの学生だとは言っても、冒険者としたら素人だ。お前だって俺から見たら似たようなもんだけど、それでもここまでたどり着くことができた先輩冒険者だ。助けてやれよ。俺がいない間はしゃーないが、蓮がリーダーだ。蓮が帰れって言ったら必ず従うこと。スクルド、いいな」
いつもの偉そうなエドガー様の演説ではあるけれど、その表情や口調は柔らかく、彼がスクルドを受け入れているのがはっきりと分かった。
「ありがとうございます。役に立ってみせます。改めてよろしくお願いします」とスクルドが会釈をした。
「そんな固くなることはない。よろしく」と蓮さんが口にした。すると「はい」とスクルドは明るい顔を見せた。
そして何事もなかったかのように食事が再開される。俺は何だかほっとして、言葉少なにスープを口に運ぶ。
ルディさんの反応が淡白に感じられたのは気のせいだろうか。スクルドがこういうことの相談していたのかは分からない。もしかしたら預言なのか予知なのか、いや、姉妹同士でこういうことは了解し合っているのかな。そんな気がした。俺の知らない、彼女たちの繋がりがあるような、そんな気が。
食事を終え、俺が食器を洗っていると、皿洗いなんて一度もしないエドガーがなぜか俺の後ろに立っていて、どうしたのか聞くと、
「期待してるからな」とだけ言って去ってしまった。ん? どゆこと? まあ、いいかと手早く洗い終えた食器をまとめている、と。また気配を感じた。それはスクルドだった。
「あ、皿洗い終わってあとは乾燥させるだけ。だから手伝ってもらわなくても平気だよ」
「ううん、あのね。嬉しかった。無理を言ってるのは分かってる。でも、アポロがそう言ってくれてすごく気持ちが楽になった。自分でも分からないけれど、気を張っていたみたいなんだ。この先は楽じゃないし、不謹慎かもしれないけど、アポロ達と旅に出られるのは楽しみなんだ。ありがとう」
「そんな! いやいや、もうパーティの仲間だから。気にしないでいいよ」
面と向かって言われると少し照れくさくて、俺はそんなことを口にしていた。スクルドはまたねと言ってその場から離れて行った。そうだよな。まずは目の前のことを楽しまなくっちゃな。心配をしたらきりがないけれど、今できることをやる。今を楽しむ。それだけできたら十分なんだ。
あー俺って心配性のくせに結構単純なのかもなー。あ、でもさ、スクルドの力が一年しか持たない、かもしれないってのはどういう話なんだっけ?
それがあるから、俺達がいるこの機会を生かさねばならないってことなのか? というか、その力を失った後の彼女はどうなるんだ? 単純にアーテイファクトの力だけを失うってことでいいのかな?
怖い考えが頭をよぎる。だとしたら彼女の口からそれを聞くことができない気がした。
説明ができないのかしたくないのか、そういうことは分からない。でも、今は彼女の力になりたいと思った。そして、朱金の天人の問題を片付ける。それだけ考えればいい。
そう思いなおすと、俺も多少疲れているような気がしてきた。ベッドでしっかり寝なくちゃと思う。