第三十五章 おとぎ話
トカシアが俺の眼をはっきりと見て言った。
「調律、ですか? でも、俺、普通にいつもみたくアーティファクトの力を開放しただけなんですけど」
「アーティファクトの力を開放したというのは間違いではない。そしてアポロにその才能があることも。ただ、アーティファクトの力を引き出す者達にも、それぞれの適正というものがある。アポロのそれは、調律の才能のようだ」
とは、言われても、エドガーやスクルドの小箱の力を開放した位しか……あ、アカデミーに入る時にもしたっけ。
その時、思い出した。朱金の天人と会った時のことだ。ただの幻かと思っていた。でもその幻の中で俺は、大樹に背をもたれかかりながら、ハープを奏でていた。俺は楽器なんて一つも演奏できないはずなのに。それを機械が聞いていて……
俺はそのことを思い出しながら、自分で確認するようにトカシアに話していた。するとなぜかトカシアは軽く笑い顔を見せた。
「なんだい、運命の三姉妹に導かれるようにして、音楽に関わる者たちが集うなんて、てっきりおとぎ話かと思っていたんだけどねえ」
「おとぎ話?」
「そう。古い大樹の記憶の一編。大樹は太陽の恵みを地上に満たすために、若き青年を天から招いた。青年の元には巨大な龍、獣使いの男、神の声を持つ天使が集い、大樹の精と共に地上に熱を教える。これで「灯」が地上に生まれたと言われている。あまたの神話の内の一つさ」
その言葉にはっとした。エドガーはとても歌がうまいし、古代の歌を歌える。でも、これは呪歌のような特殊な能力ではない気がする。でも、何かの力を秘めているのかもしれない。
蓮さんは、確か、エドガーと違って歌が下手だと言っていた。でも多分それは嘘で、自分が父である四式朱華と同じ和歌の力を使うことをためらって、嫌っていたんだ。
そして俺は、アーティファクトの力を引き出すことが、調律ができる。そして、ハープを手にした。それなら大樹の精は、三姉妹の誰かってこと? そして、天使って……アイシャ? それともあの倒そうとしている天人? 俺の未だ会っていない誰かのこと?
俺が興奮して、軽い混乱状態になっていると、それをトカシアが笑い飛ばす「あんた、これはただの昔話だ。あんまり真に受けるんじゃないよ」
「そうは言っても、この状況でそれを言われたら普通意識するよ!」