第三十四章 調律
「気づいていると思うが、鳳来蓮はアーティファクトの力で腕を再生したことによってアンドロイドに近い存在になった。でも再生をする力を与えた天使と、鳳来蓮の禍々しい力とは折り合いが悪い。ここまでは先程説明した。だが、普通はこういった存在はとてもレアなケースなんだよ。アンドロイドではなくても、例えば聖なる秘術で闇の者を蘇生したり、その逆でも、命は戻ってもそれを維持するのに難しいケースもある。明言できるわけじゃあないが、この先、もし奴の腕の調子がおかしくなったら、その時はあんたが奴の腕をどうにか修理する必要があるかもしれない」
「それは、どうやったらできるんですか?」
するとトカシアは机の上の工具箱から、短い木の棒の先に細長い金属の棒がくっついた物体を取り出した。ええと、これってドライバーって奴だよな。ネジを回したりする道具。俺は触ったことがないけれど、こういうのを使う人にはありふれた物だと思う。
トカシアにそれを手渡され「調律してみせな」と言われた。俺は思わず「調律?」と聞き返した。トカシアは何も答えず、床に転がっていた何かの機械らしきものを手渡す。四角くて、銅製だろうか。外側にはボタンがあり、扉を開くと中は空洞。アーティファクト反応はないようだが、何の道具なのかは分からない。
要するにこれを直してみろってことなんだよな。まるで試験……あ、この人も教授なんだよな。でも、アーティファクトではないからなあ……俺が適当にドライバーで箱の横にある小さな穴やらをいじってみるが、全く反応がない。俺、修理人じゃないんだけどな……
修理人じゃなくて、アーティファクトの力を引き出す古代魔術師なわけで。でも、これって引き出す力がないような……力の源? アーティファクトが持つ力というかエネルギーというか、そういう物を感じない。機械にだって、普通は動くんだから、何かしらの力? 動力? みたいなのがあるはずなんだけどなあ。
でもそれって、今俺に出された試験を通過する才能がないって言ってるみたいじゃないか?
俺は少しむきになってこの機械をいじってみるが、やはり何も動かないし反応もない。何もない……俺はちょっと迷ったが、落ち着いた声を作って言う「これ、完全に壊れているか、何の力もないジャンクですよね」
「そうかい。ちゃんと分かるようだね」
トカシアは平然と言った。俺は文句を言いたくなるのをぐっとこらえて、さも知ってましたよって顔をして黙っていると、今度は小さな棚に並んでいた、これまた小さい箱を手渡してきた。木の皮のような模様がある灰色の小箱。これ、何か変だ。最初はアーティファクト反応が無いような感じがしたけど……
と、俺が少し力をこめてその箱をつかむと、箱の外側がはがれ、青白く発光する。そして、何かの音楽が流れる。不思議な曲だ。なんて言ったらいいんだろう。耳を刺す、機械の放つ高音がメロディを作っている。ピポピポがちゃがちゃピーピー機械が合唱しているみたいだ。やかましいけれど、耳が慣れてくると、案外これも悪くないかも。
それと、やはりこれもアーティファクト反応がある。音と共にそれをはっきりと感じた。
「これが調律だ。乱れたものをあるべき姿に戻す。特に、楽器を適切な状態に調整することを調律と言う」




