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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第七巻 空中都市のアカデミーと運命の三姉妹
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第三十二章 若き日の勇士 神妙な時間

「あ、忘れてた。蓮もお前に用があるって。蓮っていうか、トカシアっていう男みたいな女がお前に用があるらしい。すげーなあのトカシアって女。素手でインゴットを曲げてたぜ。とんでもねー握力か、何かの術がつかえるのか知らねーけど。普通の女じゃねえ……ああ、ここにいる教授はとんでもねー奴らばっかだったわ。ははは。俺らの代わりにここの教授全員で悪い奴を退治に行って欲しいもんだぜ。はは! まったく勇者様はつれーわ!」


 蓮さん、ではなくトカシア? 優れた工匠っていう人だよな。何だろう。さすがに刀鍛冶について、俺は何もできないはずだけど。碌典閤には魔力反応とか、アーティファクトの力を感じることはないし。


 俺らの代わりにここの教授全員で悪い奴を退治に行って欲しいもんだ、ってエドガーが冗談っぽく言ったけど、言われてみたらそうだなあ。ここの教授達が一時的にでもパーティに加入してくれたらどれだけ頼もしいだろう。現実的に考えて彼らは冒険者ではないし、この空中都市での仕事もあるし無理なのは分かっているけれど。


 でも、少し気になったことがあったから俺はエドガーにルディさんとの出会いを聞いてみた。するとエドガーはふと、真顔になり、どこか遠くを見つめるような素振りをしてみせた。


「出会ったのはレイトホルムの街だった。夜の街で男にからまれてる美人がいてよ、最初は飲み屋のねーちゃんか、踊り子か何かかと思ってよ。助けた後で話をしてみたら神官だって言うんだ。でもよ、その時のルディは俺らが空中庭園で出会った時の、あの肌の露出の多い衣装だったから半信半疑なわけ。俺の知ってる神官とか聖職者ってのは基本的に肌を見せない恰好をしているし、そもそも戦闘能力がないのに、なんで一人で行動してるのかって。そしたら『修行の途中で旅をしている。腕の立つ信頼できる冒険者を探してこの街に来ました。貴方なら信じられます。私の旅に同行してください』って言うんだぜ」


 そしてエドガーは軽く笑い、


「そりゃーうさんくさいぜ。その頃の俺も若いとはいえ、それなりのレベルにはなってたしよ、顔がいい女性の中にとんでもない悪人もいること位知ってた。まあ、騙されてもいいわって気分でルディと同行することにした。どうせすぐに別れるつもりだったしな。それがな、案外長く旅をすることになるんだ……まあ、長くなるし今はいいか。おい、何ぼさっとしてんだ。トカシアに呼ばれてるからさっさと済ませてこいよ」


「何だよ、急にそんなこと言って!」と俺が抗議すると、エドガーは何か物思いにふけっているようだ。勝手な奴! とは思いつつも、今は一人にしてあげようと思ったし、トカシアに呼ばれたというのも気になる。蓮さんにも会って話しておきたいけれど、とにかくあの工房に向かおう。


 俺は足早にその場を過ぎて工房へと向かう。大きな建物の正面にある、大きな金属製の扉の前に立つと、何かの燃える匂いがした。そうだよな、中で何かしているんだろう。ってことは、勝手に入っていいものだろうか?


 俺が周囲を見回していると、運よくここの職人、工匠らしき、動きやすそうな恰好の男性を見つけた。俺は駆け寄り、トカシアに呼ばれたことを告げると、彼は「なら来て」とぶっきらぼうに告げるとゆっくりと歩き出す。俺はその後について行き、大きな扉ではなく、建物の裏側にある扉から中に入つた。


 そこには大きな樫の椅子に座り、何かの本に目を落とすトカシアの姿があった。彼女は俺達をちらと見ると、そのまま読書を続ける。あれ、俺は彼女に呼ばれてるんだよな、って思っていると、先程案内してくれた男性は早々に帰ってしまっていた。


 少し狭い部屋には不釣り合いな大きな机。その上と床には何かの部品やら布袋やらが山積みになっている。でも、椅子はトカシアが座っている丈夫そうなのが一つだけ。ここは、休憩室というわけではなさそうだけれど……


「何の用だい?」少し不機嫌そうに、彼女はそう言った。俺は自分が呼ばれたはずだと説明をした。すると彼女は本を閉じ、ゆっくりと立ち上がる。


「ああ、そうだね。この場所なら誰もいないし都合がいい。あんた、アポロだっけ。あんたが鳳来蓮の腕を再生させたんだね」


 言葉に詰まった。これって、蓮さんがあの事実を知っているってことなのだろうか。アイシャが犠牲になっていることを、蓮さんは知っているってことなのだろうか……


 でも、今更嘘をつく理由もなかった。俺は簡単にいきさつを説明した。トカシアは黙ってそれを聞いた後で、どっしりと椅子に腰を下ろした。


「何かがおかしいって思ったんだよ。あの男はアンドロイドのようでアンドロイドじゃない。かといって普通の人間でもない。刀を振るってもらって確信した。刀の禍々しい気と、腕を再生したアーティファクトの力とは相性が悪いようだ」


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