第三十章 謎の楽器
「お疲れ様。今日はこれで終わりにしましょう。アポロもきっと一人で楽器に向き合う時間が必要でしょうし……そうですね。後はゆっくりしてください。それではまた」
そう言うとルディさんは会釈をしてこの場を後にする。プロジェクト・ゼウスのことが頭をよぎるが、そのことを深くはルディさん達も分からないのかもしれないしなあ。
楽器、かあ。指が音楽を覚えている……? でもなあ、これって適当につまびいてもいい音がでそうなんだよね。自分では経験がないけれど、ラッパとかの吹奏楽器とか、ヴァイオリンとかの弦楽器楽器はきれいな音を出すのも難しいみたいだけれどな……これは簡単にいい音がでるんだな……
「アポロ、よかったらその楽器を貸してくれないか?」
俺がぼんやりしながらハープをいじっていると、マルケスが俺に告げた。俺は少し驚きながらも、あまり考えずにそれをマルケスに渡した。マルケスはハープを受け取ると、小さな楽器を撫でるように点検して、絃をつまびいてみた。良い音が辺りに響く。
絃を撫でるようにマルケスが指を動かすと、豊かな音が心地良く耳の中に届く。ぼそりとマルケスが言った「これは、普通の楽器なのか? そんなはずはないのだが……」
「うーん。それは分からないよ。だってルディさんだって分からないみたいだし。アーティファクト反応だってないしさあ」
そう言った、俺に食い気味にマルケスが言う「アポロ! この楽器を貸してくれないか?」
「え、何で?」
「調べてみるんだ。勿論損傷の危険性があるような行為は絶対にしない。あくまで研究対象として、だ。君は明日出発するというわけではないんだろ? 出発までには必ず返す。それまでこの不思議な物質を調べたいんだ。お願いだ」
物凄い熱意だ……不思議な物体っていうけれど、ただの楽器かもしれないんだよなあ……まあ、ただ楽器なわけではないとは俺も思うけれども……
少し迷ったが、俺もこの楽器についてもっと知りたかった。それにマルケスがこれを悪用するとは思えないし。というか、万が一何かの力を引き出せるならばそれは俺だけなのだという根拠ない確信もあった。
マルケスに貸し出しを許すと、彼は軽く微笑み「ありがとう」と告げるが早いが俺を置いて颯爽とこの場から出て行ってしまった。そうか。俺がいついなくなるか分からないし、調べるのにどれだけ時間がかかるのかも分からないし、一刻も早く調べたいのだろう。
楽しそうなマルケスのことを思い浮かべながらこの空間から出る。ふらふらと歩きながら、楽しそうに談笑するアカデミーの生徒達とすれ違う。俺の知らない単語で何やら難しそうな話をしている。
ふと、エドガーの言葉を思い出す。もしも、俺がこのアカデミーで学ぶことができたら。
それもきっと楽しい生活なんだと思う。でも、今はそれ以上に気になることが多すぎる。やらねばならないことだってある。
プロジェクト・ゼウスかあ……
もし、俺がそれに関わっていたとしても、そうでなくても、もしかしてゼロを復活させることは危険なのではないだろうか。そんな怖い考えが頭をよぎった。
でも、それは確定していることではないし、プロジェクト・ゼウスの話しだって憶測の範囲内のこと……だと思う。気分転換に、ちょっと楽器の演奏でもしてみようかな……って、さっき貸しちゃったしなあ……恐らく今日中に帰ってくるということはないだろうし……
そういえば、「同期」って何だっけ? 確か、俺はアーティファクトの力を引き出す力があるのに、それが強すぎて? 情報量? 魔力? にうまく反応ができないということだよな?
うーん、わからん!! 色々なヒントや次への道しるべがあるはずなのに、どこに行けばいいのか何をすればいいのか余計に迷っているような状況だな……
「おい、なにぼさっと歩いてんだ?」




