第二十六章 プロジェクト・ゼウス
「正確には学生であり、教授の試験もパスしたといった所かな。アカデミーの教授会にも参加しているし、一コマだけだが講義も持っている」
そうなのか……自信満々だしすごい人間だとは思っていたけれど、俺とはあまり変わらないはずの年で、このアカデミーの教授の資格? みたいなのをもっているのはさすがに驚いた。俺がそれを口にすると、マルケスはいつもの通り「僕は優秀なので」と平然と返した。そして咳ばらいをひとつ。
「ともかくだ。後で清めの儀を行うとして、学長から許可を得ているからプロジェクト・ゼウスについて話をしたいと思う」
「ん? 清めの儀って? それにいきなりプロジェクト・ゼウスって言われても何がなんだか……」
「それは君が首から下げている緑の宝石の話だよ」
俺は思わず首から下げている宝石、ゼロを掴んだ。そして恐る恐る口にする「なんで、そのことを……」
「君たちは学長に旅の詳しい話をしたんだろ。そして僕は学長の相談を受けたんだ。学長はもう少し後で話すつもりだと言っていたが、まあ、いいだろう」
「いやだからなんだって言うんだよ! もったいぶってないで話してくれよ!」
「ならば率直に言おう。その宝石、君がゼロと呼んでいるアンドロイドは、古代に作られた神の似姿として作られた存在だ。完璧な人間を目指して作られた、極めて高性能なアンドロイド。プロジェクト・ゼウス。それは神が人間を高次な存在として生まれ変わらせる計画。そういった古文書が残っている」
話が、ぴんとこなかった。幾つかの質問が生まれて、こんがらがって消えた。ただ、言葉が勝手に出てくる。
「神って……人間を滅ぼして、新しい優秀な存在を作ろうとしていたってこと……?」
「補足が必要だったな。あくまでもこれは一部の神、或いは神の名を語る存在による計画だ。しかし、それを計画したのが神でないとしても、高性能アンドロイドを大量に生産するという時点でかなりの突飛さと力を持った人物だろう。勿論、古文書に残っている記述を信じるとするならばな。ただ、こちらとしてもこれまでの研究から導き出した推論であるんだ。決して夢物語ではない。そして君は、そのアンドロイドに選ばれた。これが何を意味するか分かるか?」
急なことで俺が黙ってしまうと、マルケスは言った。
「君が、プロジェクト・ゼウスの発案者である可能性があるということだ」
「ちょっと待って! 幾ら俺が捨て子だからって、年は十代なはずだよ。そんな壮大な計画の記憶なんてないし、それは流石にありえない……と、思う……」
興奮して口から出た言葉だが、語尾は弱々しいものだった。俺は、俺のことを、飛陽族のことをあまりにも知らない。
するとマルケスは少し穏やかな声で言った。
「申し訳ない。一方的に話し過ぎた。おそらくこうなるから、学長はもう少し時間をおいて、自分も同席した場で話すということを言っていたんだ。僕が先走ってしまった。すまない」
マルケスはそう言うと軽く頭を下げた。ただ、未だ少し頭の中が混乱状態だ。もしかしたら自分が何かの計画を行おうとしていた。でも俺はそのことを何も覚えていない。鍵を握っているのはゼロと、リッチだ。でも、その二人と今すぐ接触することは難しいはずだ。