第三章 馬車に揺られて、港町へと
「鳳凰の儀式? 元々魔法みたいに使えるんじゃないの?」
「いや、これは召喚士が召喚獣、幻獣と契約するのと似ているだろう。儀式の中で心技体を一目で試され、鳳凰の御眼鏡に叶わなかったものは、その場で焼け死ぬ」
「えええ!! 確か、蓮さんは、そういう鳳凰の加護を受けた家系? 一族なんですよね?」
「そう、だからこの儀式を受けない者もいる。ただ、若い頃の僕は力に憑かれていた。それと、エドガーの数分の一ではあるが、世間知らずで自信家だったからね」
いつも冷静で博識な蓮さんの口から、世間知らずで自信家という言葉が出るのは意外だった。でも、十代ってそういうものなのかなあ。後、蓮さんも、エドガーも若い頃からめちゃめちゃ強かっただろうからなあ、自信家でもおかしくないかも。
「俺、若い頃の、同い年の蓮さんがどんな人だったか会ってみたいです!」
「ははは、案外今とあまり変わってないかもな。それより、アポロの成長が見られるのは、中々楽しみだな」と微笑む。俺は恥ずかしくなって、
「いや、俺は未だレベルも12だし、なんか、皆に助けてもらって本当に運が良くて」
とくちごもる俺の言葉をさえぎって、
「古代魔術師も飛陽族も才能や可能性の塊じゃないか。自分を悪く言うのはよくない」
「すみません。ただ、俺も、早くみんなの役に立てるよう、頑張ります!」
「もう役に立ってるよ」と言って、蓮さんは微かに微笑み、瞳を閉じる。
なんで、なんてこの人は優しいのだろう? 遺跡でも感じたが、この人と話していると、あの、一瞬会った父さんのことを思ってしまう。勿論蓮さんと別人なのは分かる。でも、こんなに強くて優しくて、暖かい人、俺は知らない。たまに修羅だけど。
まあ、それを言ったらエドガーや、この前別れたジェーンだってみんなクールだけど優しかった。だから、あの三人は強さ以外の面でも、パーティを組めていたのかな?
俺がガラクタウンやシェブーストについた時の大人は、みんな「ガキ」を見下したり、労働の道具としてみる人ばかり。もちろん普通にいい人もいたけど。
もしかしたら、一度だけとはいえ、冒険に一緒に行かせてもらって、俺も役に立てたという体験も大きいのかもしれない。自分の力、家族や仲間を探すという自分の使命。俺も、レベルだけじゃなくて、大人になっていってるんだ。
あと、背が伸びて欲しい2,3センチメートル。
ふう、俺も、とりあえず、瞳を閉じて身体を休めようかなあ。
ちょっと寝よう、と思ったのだが、途中で馬車が止まった。何事か、と思ったら、ただ単に食事やトイレ休憩の時間だったようだ。一日走る長距離の馬車だとこういうのもあるんだっけ。
馬車が止まった小さな村はブレニー。これといって特徴がない、ような気がする、のどかな村だ。食堂もそんなに大きくないのが一つしかないから、三人とほかの乗客や馬車を運転する、御者の人らも集まると、ぎゅうぎゅうになる。
それで、味の方なのだが、うう、上手くもまずくもない、もっと別の味付けをしたら美味しくなるのに! 俺はよくないことだけど、今後のトイレのことを考え、マーニー鳥のから揚げを半分くらい残してしまった。
一足先に食堂を出て、ふらりと八百屋の前を通ると、トマトもピーマンもヤーゴーヤーも、みんな色が濃くて重量感があっておいしそうだ。なんであの店はここの野菜を使わないんだ、もったいない!
ここは土がいいのかな? 久しぶりに何か料理したいなーって! すっかり忘れていた、俺の手の甲にある二つの力! ちゃんと練習して使えるようにならなければ!
ここで、今やっても、いいかな? ちょっとだけね。ちょっとだけ。
試しに左手の鷹の紋章に力を込めるが反応がない。翼を広げ、上空に浮かんで、再度力を込め、拳を振るうと、俺は、力に持って行かれるような。実際俺は、拳を振るった方向に吹き飛んでいた。しばし、自分の力に呆然としている。
これは、力をセーブして使いこなさなければ。攻撃にもなるが、瞬時に移動することもできるはずだ。
試しに力を弱くして拳をふるうと、「短い距離を瞬時に飛ぶ」ような動きができた。おーこれは練習すればきっと戦いの役に立つ……でも、俺、魔法使い……
でも、ギルドリングを見ても分かるけど、紋章を父さんからもらってから、魔力もそうだけど、今まで低かった腕力の数値が高くなった。そして体力は低いまま。ということは、やはり、この鷹の紋章か太陽の紋章の力を引き出すと、その時だけ腕力の数値がかなり出る、ということなのだと思う。
寝る前に修行しなきゃな。でも、寝そうだな。そう言えば船旅って何日だろう?
「おい、なーにふわふわしてんだ! 行くぞ!」と、エドガーの大きな怒鳴り声。一応結構高く飛んだんだけど、よく見つけられるな、さすがだ。
俺は下りて、蓮さんと一緒に馬車に乗る時、蓮さんが小声で
「ここではまあいいが、あまり人の多い所で飛んだり力を使うのは控えなさい」
それは、その通りだ。日中、街中で魔法の練習をする魔法使いみたいなものだ。
俺は少し反省をする。やっぱそうだよね、やるなら人目のつかない場所と時間だ。
そして、馬車に乗る、のだが、また、しばらくして俺も寝入ってしまったようだ。
起きて窓から周囲を見ると、あ、あれ? まだそんな暗くないのに、気のせいか、独特の香り、海の香り? がするというか、明らかに今まで走って来た森とは風景が違って、開けているというか、木々が少ない平地らしく、
「あれ? もうそろそろ港町シュクート?」と独り言のようにつぶやくと、蓮さんが、
「ああ。かなり早く着きそうだ。途中リザードスライムの奴らに会わなかったのも大きいな」
「リザードスライム?」
「そう、名前だけ聞くと弱そうだが、固い甲羅状の皮膚を持った上に分裂速度が速い、強いというよりも、面倒な敵だな。ここいらの森にはよく出るらしいが、そうでなくてよかった」
「本当ですよ! お二人のような剣士と乗り合わせたのはラッキーですが、会わないに限ります」と他の乗客も言う。
そっかー。スライムって、ごく一部を除いて弱いのばかりだと思ってたけど、色々いるんだなあ……。そういうモンスターの勉強もしなきゃな。うう、やることが山積みだ!
それから小一時間程度だろうか、夜中に到着するよていだったらしいのだが、俺らは幸運なことに夕方には到着できた。港町シュクート!
海の匂い、人通りが多くにぎやかな町並みは、家の壁は白レンガに屋根は色とりどりの彩色で、見ていてとてもわくわくする。俺が目を輝かせながら街中をきょろきょろしていると、珍しくエドガーが、
「おい、アポロ、船に乗るのは明日だが、古道具屋にでも行ってみるか? こういう所には掘り出し物があるかもしれないぞ」
お! それは嬉しい申し出! と俺は黙ってうんうんと首を振ると、蓮さんが、
「大方、アポロに古代魔術師の感知能力で、店にアーティファクトがあるか調べて、あるなら買い叩いて購入する気だろう」




