第二十二章 恋と翼
「そんなの知らねーよバカ。そうじゃなくて、あのスクルドとかいうかわいこちゃんとよろしくやってるみたいじゃねーか。ルディの妹だけあって中々の上玉だぜ。アポロ君、ここで逆玉結婚してアカデミーの教授にでもなっちまうのもいいもんかもしれないぜ」
「アカデミーの教授?」とスクルドと並んでいる映像が頭に浮かんで……
「って! 何言ってるんだよ! 俺には使命があるんだよ! 飛陽族をみつけるのとか、自分自身について知るとか、今はあの難題について解決するとか……」
「へいへい。偉いこっちゃ」
「茶化すなよ。エドガーだってあんな本気で……そういえば、エドガーは何で旅をしてるの?」
エドガーは少し間を置いてから言った「勇者の運命って奴かな」
相変わらずの言葉。聞いて損した。でも、エドガーだって言いたくないことの一つや二つあるかもしれない。
「そうだよな……だって大陸一とか言われる勇者様なんだもんな……色んな意味で生きのびてるだけでもすごいよな……」
するとエドガーは俺の口に指をつっこみ頬っぺたを引っ張る!! いてえええ!!!
「おめーは何が言いてえんだよ! 勇者様に対して礼儀がなってねえんじゃねえか!」
「いったあいいい!! ちがう! 褒めてる! エドガーはすごいなって! 思ってます!! ほんとに!!」
いってえ! エドガーが指を抜くと、俺の翼でそれを拭く。うう、感じ悪い! そしてなぜか俺の羽をいじり始める。
「お前、ずっと思ってたんだけど翼の出し入れとかできねーのか?」
「うん。それにエドガーは龍人だし、変身した時しか翼出せないんじゃないの?」
俺がそう言うと、エドガーはさっと上着を脱いで「くっ」と低い声をあげると、顔は人間のまま、その背からきらきらとした光を放つ翼が出現していた。
「すごい! いつの間にそんなことできるようになったの?」
「まあ、ミズネコうどん……まあそれはいい。とにかく、あの喜撰とかいう爺が言うには、たいていの有翼種族は翼の出し入れみたいなのができるんだとよ。俺はこの服借り物だし、一応脱いだけどよ。鎧や衣服と同化して破らないで済むのも、奴が言うには翼が生えるというよりも、一時的に与えられるというか、付け加えるという感じらしい。でも、翼との繋がり? が強い種族というか、人間の同等の知能があっても、鳥とかは出し入れできないらしい。てかよお前もできんじゃねーの?」
「そうかな?」と言いながら、俺は半信半疑で翼を引っ込めようとしたら……できた! 驚いて手を背中に回すと、ない! やったあ! なんだ、簡単なことじゃないか!
そう思いながらも、今度は急に不安になった。これ、元通りになるよな?
「でろ!」と強く思いながら俺は背中に力をこめる。しかし背中が熱くなる感覚はあるのに、羽が風を感じる気配がないというか、生えない? なんで? 俺が思わずエドガーを見てしまうが、エドガーは俺の不安をよそに、自分の翼をしまい、のんびりと服を着ている。
なんだよ! これって、このままだと本気で困る! ぞ!
その時、辺りにつむじ風が巻き起こり、俺は前のめりに倒れ、全身で風のうねりを感じていた。ゆっくりと身体を起こすと、地面が少しえぐられており、辺りの草花が散っている。しかし俺の翼は復活していた。