第十二章 同期したのか?
「アポロ。このタブレットに触れると今の講義の内容を見ることができるの。この電源ボタンを、軽い力で長く押してみて」
スクルドが差し出した、銀色の金属の板。俺はその電源ボタンを押してみるのだが……あれ? これって、俺の太陽の紋章と同じ形???
頭が真っ白になった。『何か』が俺の頭に連結され、様々な言葉を残して、過ぎ去っていく。頭が冴えわたっているのに、俺はそれらを記憶しては忘れてしまう。
今までにない高揚感。身体が震え、自分が自分でないような感覚に襲われる。全能感? 万能感? 魔力が、記憶が自分に収斂する感じ……その正体を何もわかっていないのに、俺は自分自身の力を持て余しながらも、沸き上がるそれに抗うことが出来ず、その力を……
ふと、俺の景色が戻った。景色? 俺は何を見ていたのだろう? 記憶がない。けれど、俺は何かを見ていたはずだった。それが何だったのか、思い出せない……俺は……一体……
気が付けば、スクルドが俺の太陽の紋章を、両手で握りしめていた。自然とそれで俺が落ち着いたのだと気づく。俺はよく理解できないまま「ありがとう」と口に出していた。しかしスクルドは黙って瞳を閉じたままだ……
「同期したのか?」
そう口にしたのはマルケスだった。しかし俺はその意味が分からない。するとマルケスは言葉を続ける。
「まさか、とは思った。あくまでこれは仮説だ。でも、今光を帯びてたアポロの手の紋章と、タブレット、ひいてはこのアカデミーにあるアーティファクトや魔道具の『電源ボタンの模様』は酷似している。同期と言うのは、何らかの異なる記憶媒体同士で、同じ情報を共有することだと考えてくれ。アポロは、このアカデミーと同期しているのかもしれない。しようと試みて、失敗したか、不十分だったか。アカデミーの情報量は膨大で、学長でさえもこのアカデミーの全てを知っているわけではない。とにかくアポロはそれに触れた。そういうことでいいんだな?」
マルケスが俺にそう告げるが、俺はいまいち状況が把握できていないまま、とりあえず先程までの自分の状況について告げた。そして、おそらくスクルドの力によって、俺は正気に戻ったということも。
マルケスが何やらぶつくさ言いながら考え込んでいると、
「君達。他の学生の勉学の妨げにならない範囲でおしゃべりしなさい」とパヴェーゼ教授の言葉が飛んだ。そりゃ、そうだな……俺たちは静かに退室する。スクルドは俺を心配そうに見上げて大丈夫かと尋ねた。
俺は何だか事情が分かっていないけれど、とりあえずぎこちない笑みを浮かべて「大丈夫」だよと告げる。すると彼女の顔に笑みが戻る。
「あの、スクルドの力は? 力と言うか、スクルドが触れた時、俺の暴走と言うか、変な感覚が収まったんだ。あれは……」
「あのね、私は治癒の魔法も使えるけれど、多分それとは違う力だと思う。私達姉妹は、運命の三姉妹。私は『なすべきこと』の力になる能力を授かった。そのおかげで、アポロを助けられたんだと思うし、これからも……あっ。あのね、詳しい話は後で話すね」
何だか意味深な言葉を残すスクルド、そして何やら俺が分からない単語で独り言を喋り続けているマルケス。俺が居場所なく廊下でもやもやしていると、マルケスが突然大声を上げた。




