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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第七巻 空中都市のアカデミーと運命の三姉妹
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第十一章 共通教養 言葉と神

 ここでタイミングを見計らったように、スクルドが俺達に声をかけた。


「学長にアポロを案内するように言われたんだ。今の時間なら、共通教養の世界史の授業が学術棟であるから、三人で行こうよ」


「共通教養……まあ、彼は知識には疎そうだから丁度いいか。行こう」

 

 うっ。天才とか持ち上げたり、知識に疎そうとか言ったり忙しい奴だな……まあ、アーティファクト開放の力はあっても、ちゃんとした知識というか教育は受けていないから彼の言う通りなんだけれども。


 さっそうと先頭を歩くマルケス。すると、スクルドが俺に駆け寄って、耳元で囁いた。


「マルケス本当に嬉しいみたい。私もなんだかわくわくしてるの」


 そう言うと彼女もマルケスの隣に駆け寄り、他愛のない話を始める。


 俺は、その、すごくどきどきしていた。なんだこりゃ。変なの。かゆくもない羽根を右手でかく。なんか、彼女は今までに会ったことが無いタイプの女の子だ。お嬢様らしいのに、すごく気さくと言うか……まるでエドガーみたいな……


 いや、違う! そういうタイプじゃない! いや、何だ……よくわからない……何を考えてるんだ……もう、いいや、考えるのを止めなきゃ。修行が足りないってことだ。多分。きっと……


 二人の後について行くと鐘の音が鳴った。目の前にある建造物から流れているのだろうか。スクルドが「ここが学術棟」だと教えてくれた。


 象牙色の建物には、瑠璃色の美しく大きな窓が規則正しく並んでいる。屋根の色は紺色で、尖塔の先には、羽を広げた黒い鳥の彫像が見えた。


 綺麗な石畳の上、学生の行き来の姿も先程よりも多くなっているような。ふと、俺はある疑問が頭に浮かんだ。


「あれ? 詳しくないんだけれど、授業があるのにこんなにみんなが歩いているの?」


「うん。単位さえとれば履修は学科によっての制限もあまりないし、教室で講義を受けるのも途中退室するのも自由だから。その代わり、試験をパスできないと途中で落第することになるけどね」


 スクルドがそう説明してくれたが、ええと、いまいち分からない! 単位とか履修とか講義とか……まあ、自由な学校だけど勉強できない子には厳しいみたいな感じなのかな?


 学術棟の中に入ると、目の前には真っ白で大きな階段。そして天井は高く、白と灰色の幾何学模様で飾られている。その荘厳さに思わず見上げたまま立ち止まってしまう。どこか神殿を思わせるような美しさだ。


「ここの二階を右に行ってすぐだ。今日は誰だったかな」


「パヴェーゼ教授よ」とスクルドがマルケスに答えた。するとマルケスは少し苦い顔をして、


「あの人は、人はいいんだけれど、少しロマンチストなのがたまに傷だな。まあ、人がいいというのは美徳だよ。行こう」


 ちょっと、目上の人と言うか、教授にその態度っていいのか? まあ、これが許されているのが天才の問題児ってことなのかな? 


階段を上りながら、自然と頬が緩んでいることに気づく。へへ、講義、授業って何をしているのだろう? 冒険に出られるとは思っていたけれど、アカデミーで実際の授業を受けられるなんて思いもしなかった。今だってなんだか不思議な気分。へへ。楽しみだな。


こげ茶色の大きな扉をゆっくりと開ける。大きな長机に生徒が並んで、教授の講義だか授業だかを静かに聞いている……のだけれど、教授の目の前には、まるでギルドリングで投射したかのような映像が空中に映し出され、それが彼の言葉で変化している。


さ、さすがアカデミーだ……紙と黒板とチョークってわけではないのだ……


 俺達はさっと後ろの方の席に座る。パヴェーゼ教授は細長い指を掲げると、穏やかな口調で喋り出した。


「ええと、では続けます。次は……言語の成り立ちですね。これには諸説あります。先ず、神学に携わる者や聖職者、シャーマン、邪教徒……とにかく神への厚い信仰を持つ者たちはそれを『ギフト』と呼んでいます。人は神からの贈り物であり、言葉もまた、神々からの贈り物だという考えですね」


「それに対して、特定の宗教に帰依きえしていない、一般の人々は『バベル』と呼びます。人間の英知が拙いながらも言葉を作り出し、コモン、共通語を生み出し共有したという考えです」


「また、『ギフト』に近い考えとして、アーティファクトの一部の記述から、人々は言語を生まれ持っていると主張する学派もいます。言葉があり、言葉から私たちは存在を許されたという説を唱える人もいます。これは少数ですが興味深い。この学派は、我々が元は機械であったという主張もしていますね。こちらの話しは次回にでもしましょうか」


「そうそう。余談ではありますが、ここで善神、邪神と呼ばれる存在についても触れておこうと思います。善とは、悪とは何か。誤解を恐れずに言うならば、それは極めて主観的な判断でしかありません。ただ、ここで触れる神々、善神や邪神と分類されている彼らには違いがあります」


「簡単に言うと、善神は再生、創造のエネルギーを持っていて、邪神は破壊、消去のエネルギーを持っている。善神は人々の営み、歌、愛、芸術、収穫、喜び、そういった物を好みます。邪神は何かを破壊する、犯すこと。生贄、負の感情全般を好みます。彼らは強大な存在です。しかし彼らは世界にあふれるそれらの力で自分の存在をこの世に顕現しているとも言えるでしょう」


「また、これらの分類はあくまで学者や神学者が定めたもので、当然認識にはずれがあります。また、破壊を好みながらも善神として信仰を集める神、秩序や美学を持ちながらも邪神として畏敬の対象になっている物など様々です。その一例をあげると……」


 な、なんか一気に知らない知識が頭に入ってくる。アカデミーの授業だから当たり前なんだけれど、すごいな……


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