第十章 お手製アーティファクト
するとスクルドが軽く笑って、
「マルケスはいつもこう。でもアカデミーの試験に首席で通ったからあながち間違いでもないの。でも、かなりいたずら好きだけど」
「悪戯好きという言葉で片づけないでくれ。僕は研究熱心なだけなんだ」
「でもビーブル爆弾なんて、アカデミーの誰も作ろうとなんてしないわ」
「違う。熱量と膨張率の計算に彼らが丁度いい材料だっただけだ。そもそも僕はビーブル料理って奴が大嫌いなんだ。あんなの滅んでしまえばいいのに!」
ビーブル料理? ビーブル爆弾? そもそもビーブルってなんだ? そんな疑問がわいたが、二人はテンポよく話を続けている。
「呆れた! その為に爆発をしたの? でも安心して。今ワンタイ諸島で色々な物を仕入れているから、きっとマルケスのお口に合う料理が出てくると思う」
するといきなり彼が俺に顔を向け、
「そういえば君は何でワンタイ諸島なんて辺鄙な所からこのアカデミーに来たんだ? 色んな旅をしてきたんだろ?」
エドガーが頼っているルディさんはともかく、マルケスにどこまで喋っていいのか迷って言葉に詰まると、彼は自分のポケットから小さな小箱を取り出し、俺に握らせた。
あ、アーティファクトだ。前にエドガーが渡したのと似ている。俺がその力を開放すると、箱からほのかな発光と共に、穏やかなメロディーが流れだす。これは……もしかしたら、いつかエドガーが歌った歌に似ているような……
「やっぱりな。君は天才だ」
「え?」相変わらず一人納得している彼。でも俺が言わなくても彼は説明をしてくれた。
「これは僕が作ったアーティファクト。製作日数は二ヵ月程度で、構造も難しいものではない。古代の歌を再現した、空間浄化効果のあるオルゴールのようなものだ。この力を開放できる者はこの学園にも存在する。しかし、それを一瞬で出来る者は、ほとんどいないだろう。つまり言ったろ。君は僕と同じ天才だ。友達になろう」
そう言って彼は俺の手を握る。この強引な感じ……ゼロを思い出すな……
「って! え! 君、今、自分でアーティファクトを作ったって言ったよね! どういうこと!!!」
俺は興奮して思わず彼の手を強く握ると、彼は反対の手で銀縁眼鏡の縁をすこし上げ、
「アポロ。君はアーティファクトについての定義が古代の遺物としか思っていないのか?」
「あ、うん……」
「これには様々な意見があるが、先ず、この世界には機械と機械の残骸があふれている。それについても諸説あるからここでは踏み込まないようにしよう。大雑把に言うと、機械の中でも強力な力を持つ物がアーティファクトと呼ばれるものだ。ここまではいいかな」
俺はうなずく。マルケスは話を続ける。
「確かにアーティファクトは古代の遺物の中でも、強力な力を持つ物の総称だ。しかし、現代でも機械の力を扱える者も、作り出せる者も、存在する。このアカデミーにもいる。それがこの僕のように優秀な人間のことだ。アーティファクトは『作り出す』こともできるんだ。もっともそれはとても長い時間をかけたり、力がそこまで強くないものでもあったりするのだが……」
「それでもすごいよ! アーティファクトを作り出すなんて! 古代技術を使える、古代人の力と同様の能力を持っている人なんてそうそう聞かないよ」
俺が本心からそう告げると、マルケスも少し得意そうになって続ける。
「そうだ。僕は選ばれた人間だ。だが、優れた人間は自分の能力の限界も悟ってしまうことになる。僕は一通りの魔法や知識に通じている。しかし、君ほどの飛びぬけたアーティファクト開放能力、古代魔術師としての力はない。これはおそらく才能なんだ。努力して埋められる者もある。しかし、越えられない壁と言うのが確実に存在する。僕は高みを見ているんだ。分かってくれるか、アポロ」
「あ、ああ」と俺が曖昧な返事をすると、彼は初めて少し困ったように笑い、
「まあ、いい。嬉しいんだ。天才と言うのはいつの時代も孤独なものだけれど、君に会えたなら、僕の人生も、こうやって作ったお遊びの小箱も、まあ、悪くはないか。改めて紹介させてもらおう。アーティファクト学科四年のマルケス・ギーガルだ。よろしく」
ちょっと大げさで自信家な彼だけど、何だか結構いい奴というか、素直な青年なんだなと感じた。気が合う友達って、簡単に出来るものじゃないもんな。彼のことが色々知りたいなと思った。