第三章 昼の訓練
屋台に視線をやると、シェブーストの賑わいを思い出す。思えば遠くまで来たもんだな。一年前までの俺はこんな大冒険をするなんて思いもしなかった。
海風に吹かれていると、変に感傷的になってしまうな……
でも、俺も自分の力に目覚め、それを生かす手段も得た。やっぱり空中都市というのも気になるし、楽しみだ。俺は蓮さんにどうやってワンタイ諸島からその空中都市に行くのかと尋ねてみると、近くにいた褐色の肌のお兄さんが楽しそうに言った。
「そりゃあ、この時期だけはポータルが開かれるんだ。入口に行くだけならだれでもいけるはずさ」
「入口なら誰でもって、制限があるんですか?」そう俺が聞き返す。
「そりゃあねえ、空中都市のアカデミーは勉強するための場所だから、観光目的で長居するのはむずかしいだろうね」
「あ、アカデミー!」と俺は思わず口に出してしまった。薄っすらとした知識ではあるが、国によってはアカデミーと言う、高度な施設があるという。そこでは特に魔術や神学の研究がされているらしい。そこに入学するのは厳しい試験を突破し、さらにかなりのお金が必要らしい。
とにかく、とてもすごい施設だというのは分かる。しかも、空中都市のアカデミーだなんて、いやがおうにも期待が高まる。
ただ、そこに入れるかは……あ、そうか。エドガーの知り合いがいるってことだよね。それなら俺達だってそこで色んな話を聞くことはできるだろう。
それにしても、例のはらたまって場所はそんなに時間がかかる物なのだろうか? 蓮さんにぽつりと尋ねてみると穏やかな声で「少し暇なら稽古をつけてやろうか」
思わず生唾を飲み込む。エドガーの演習にはわくわくしたけれど、あの、蓮さんだ。いや、物凄く手加減してくれるのは分かるのだけれども……いや! ここで尻込みしてたらだめだ! 俺は思い切って首を縦に振った。
蓮さんが通りから少し離れた、開けた海岸沿いに俺を連れてきてくれる。蓮さんはそこで裏・村正……いや、碌典閤を鞘から抜いた。惚れ惚れしてしまう、曇りなき刀身。未だ、そこには何の恐ろしさも感じない。
「アポロ、五十螺との戦いの時に細かい炎を全体に噴出させただろ。あれは今までにはないやり方だ。きっとそれは太陽の紋章の力によるものだと思う。ところで、鷹の紋章の力は使いこなせているか?」
「いや、それは、まだまだです……」
「そうか。なら簡単な昼の訓練だと思って欲しい」
そう言うと、蓮さんは刀を振るい、近くにあった大木から垂れる、大きな青葉を切り落とす。それらは綺麗な円形の形になってはらはらと落ちていった。葉っぱに刀を入れ、一瞬で円形の紙吹雪を作り出す。正に神業だ。
「この紙吹雪を鷹の紋章の力で吹き飛ばして欲しい。やってみるか?」




