第二章 ワンタイ諸島
船内から外に出ると、船はすでに止まっていた。蓮さんは荷物を片手にして船員と談笑している。穏やかな風が俺の肌の上を撫でる。
俺も自分の荷物を背負い、蓮さんの隣でエドガーを待った。先程までのだらけた雰囲気は一切ない、いつもの頼もしいエドガーの顔。跳ね橋が上がり、船と陸とをつなぐ。俺達は船員さんにお礼を言って、ワンタイ諸島へと足を踏み入れた。
なぜかその中には喜撰の姿もあった。俺がワンタイ諸島に何か用があるのですかと尋ねてみると、なぜかそれにエドガーが答えた。
「ちょっとな。二人ではらたまに行ってくるから、蓮と一緒に飯でも食って待っててくれ。サオカン通りで待っててくれ。落ち合うのも楽だしよ」
「はらたまって?」
「龍使い御用達の立ち食いそばのチェーン店じゃよ」と喜撰が言うが、ますます意味が分からない。蓮さんが優しい声で「アポロ、行くか」と言ったので、俺は深くは考えないようにして、二人と別れて、サオカン通りとやらに向けて歩きだす。
木製の家に屋根は分厚い濃い緑の葉っぱ。道には多くの木々が繁茂していて、それらはとても背が高く、てっぺん近くには黄色や赤い色の丸い実が実っている。俺と蓮さんは少しだけ舗装された、土と石の道を進む。
そこにいる人々は褐色や白い肌に、赤や黒の髪を短く刈り上げていて、ジパングの人々と似ているように思えた。洋服もジパングのとは違うが、男女とも簡素で涼しそうなローブを身に着けている。
「蓮さんはこのワンタイ諸島に詳しいんですか?」
「そうでもないかな。でもサオカン通りは有名だから行ったことがある。屋台でにぎわっているんだ。ここは漁業が盛んなのと、有名なシャーマンがいる関係か、それなりに観光で賑わっているらしい」
「へー普通の港町とは少し違う感じですね。それと、はらたまって、何ですか?」
すると蓮さんは少し黙り込んで、
「シャーマンとは少し違うと思う。しかし何だか意味深な言葉を言う店員がいる飯屋だ。もしかたら、喜撰殿やエドガーのような、龍の力を持つ者だけには通じるものなのかもしれない。それと……その、こう言っては悪いが、お品書きに並んでいる物にゲテモノが多くてな……用がない人間は行かないに限る」
それは、とても気になる謎のお店だけれど、蓮さんがそこまで言うのならば行かない方がいいなと思いなおす。そしてしばらく歩くと、赤や青の屋根のテントと、屋台が並んだ場所が目に入った。色とりどりの野菜や魚を売っているマーケットだ。それに食べ物屋さんもある。ここがサオカン通りらしい。
見たことがない野菜に目を奪われながらも、とりあえずお腹を満たすため、緑の葉っぱで編まれた食器に盛られた食事を買うことにした。蓮さんと一緒に日陰で腰を下ろして、それを口に運ぶ。
お、おいしい! 肉汁があふれる皮がパリパリの鶏肉。それにピリカラのソースがかかっていて、シャキシャキのレタスとさっぱりしたライスとの味わいがとても良い。夢中でスプーンを口にはこんでいると、あっという間に食べてしまった。
ジパングの料理もおいしかったけど、俺にはこういう濃い味付けの方が好みかもしれない。もう一つくらい食べれそうだ……いや、まだまだ何かあるかもしれないし、がっつくのはよそう……




