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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第六巻 日の沈まぬ国の四季皇と外法の歌
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第三十八章 龍人の眠り。人々の奇病

「なんだそれ。聖なる力を持った一族が、見世物で殺し合いをさせるのかよ。とんだ正義の一族があったもんだな」とエドガーが再び吐き捨てるように言った。するとやはり喜撰は笑顔で、


「勝てば官軍負ければ賊軍という言葉があるじゃろ。強さが正義、屍の上に立った者が歴史を作る。歴史に残ったものが聖性を、正義を獲得する。龍人は見た目とは違って中々繊細なんじゃのぉ。はははっ!」


 エドガーは舌打ちをして、コップになみなみと酒を注ぐと一気に口にする。すると、なぜか蓮さんが喜撰に尋ねる「エドガーの力が不十分とは、どういうことでしょうか」


「そのままの意味じゃよ。若い龍人なら当然のこと。気に病むことはないぞ、若人!」


 挑発するような言い方しかできないのかよ、この爺さんは! さすがに俺も少しいら立ってきたのだが、エドガーは落ち着いた声で、


「あのさ、俺、眠りにつかなきゃいけなーのか? 一応な、一年後にヤバイことが起こるらしーんだわ。リッチって分かるだろ。きな臭い野郎が俺らにそれを告げた。そんで、この旅を途中で投げ出すわけにはいかねーんだけどさ」


「眠りってなんのこと! なあ、エドガー!」


 話の途中で思わず俺はそう口にしていた。しかしエドガーは俺の言葉には答えてくれずに、ただじっと喜撰を見る。喜撰はふと、神妙な顔つきになり、


「そうじゃな。奇病の知らせが遠方から届いておる。なんでも身体が紅玉水晶のようになって絶命すると。さすがの儂もそんな呪いや病魔は聞いたことがない。それが先ぶれかと思うのは早計かもしれぬが、ふむ。リッチからの勧告だとするなら、何にせよ厄介なことが起こりつつあるようじゃなあ。まあ、碌典閤が戻ってくること自体が一大事じゃ」


「分かった。それもこれも、もうじき詳しいことが分かるはずだ。あーもうしまいにしよーぜ。こんだけ陰気なことばかり続くと、さすがの俺様も気疲れするぜ」


「そうじゃな。短い船旅、どうぞごゆるりと」と喜撰がニヤリ。そしてゆったりとした足取りで船の先端へと歩き出す。帆に風を受け、船は進む。


今更気づいたのだが、船乗りの人達が甲板に集まり、何かの印を結んでいる。これで風を起こしているのか、船を操縦しているのだろうか。


「エドガー。いつからだ。多少、動きがぎこちないと感じた時もあった。だが、本格的な休息を挟まないと症状は改善されないのか?」


 蓮さんの言葉にエドガーはぶっきらぼうに答える「知らねーよ。まあ、ぼちぼちな」


「それよりよ。とりあえず、お前は俺と……俺らとこの先も行くんだろ?」


 少し間があった。蓮さんは「そうだ」と口にした。するとエドガーは海の方を見ながら酒を一口。


「ならいい」


「ああ」と短く蓮さんも返した。少し、俺の緊張もほぐれてきた。ジパングで起きたこと、蓮さんの力について、俺が理解できていることは少ない。でも、旅は続くということ。それだけで気分が軽くなる。


 俺も酒をぐっと飲んでみる。喉が熱く、辛く、むせてしまった。蓮さんが苦笑いをした。俺の好きな蓮さんの笑い顔。これまでも何も変わっていない。そう思うと俺も海を見る。たゆたう水面をぼんやり眺めていると、何だか気持ちが安定してくる。何があったって、なんとかするんだって、改めて俺はそう思いながら、船の揺れに身を任せ、もう少しだけ酒に口づけた。


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