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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第六巻 日の沈まぬ国の四季皇と外法の歌
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第三十四章 招かれざる客

なんともいえぬ心地良さを感じる光を受けながら、ふと地面を見る。捨嘉の身体は仰向けになって地面に寝そべっていた。生きているのか、死んでいるのかは分からない。


俺が棒立ちになったまま、ただその景色を瞳に映していると、軽やかな足音がした。きっと、全員がその方向を見ていたような気がする。


 白のローブに金と黒の格子の前掛けのような、不思議な和服を着た老人。薄くなった頭に真っ白で長いあごひげを生やし、足元は草で編んだサンダル。人のよさそうな顔をして飄々とした足取りの彼は、明らかにこの場にはそぐわない存在だった。


喜撰きせん……殿……」と蓮さんが口にした。喜撰と呼ばれた老人は数本抜けた歯を見せて笑い、


「招かれざる客とはいえ、孫の成長を見られて満足じゃ。ただなあ、碌典閤。人を殺めるのもいい加減にせんか。まったく、成長しない男じゃのう」


 なんだ……? この男は。蓮さんの驚き方、そして朱華の力が及ぶ空間に侵入できる力、只者ではないことが分かる。それに、孫って言ったよな? つまり、朱華の父か? それとも西京の皇族の人なのか?


 俺の混乱をよそに、蓮さんはゆっくりと頭を下げる。


「しかし、僕には為すべきことがあります。その為には手段を厭いません」


「はっはっは! 相変わらずじゃ! なあ、朱華よ!」


 喜撰がそう笑いながら口にしたのを、朱華が低い声で返した「どこから湧いてきたおいぼれ」


 しかし朱華の態度にも喜撰は一切ひるむことはなく、自分の長いひげを指でいじりながら、


「亀の甲より歳の甲ってな。そうかりかりしなさんな。わしなりにお前さんには感謝しているんじゃから。閻慶を焚きつけずにいることには頭が下がる。それで、芝居は済んだんじゃろ? 今度は儂が孫をもてなす番だ。良いな?」


「おい! 話が見えねえぞ! 俺らにもちゃんと説明しろや!」とエドガーが口を挟んだ。いつもなら頭を悩ませる行動だけど、今はエドガーの自信が頼もしい。蓮さんは俺達をちらりと見て「後で説明する」とだけ言うと、ゆっくりと朱華の方へと歩き出した。


 朱華が和語で何かを口にした。蓮さんは少し間を置いて、それに返す。そういった静かなやりとりが幾つか続いた。


「贄を連れて戻ってこい。お前にはそれが相応しい。それにしても実りのある句会だった。親心って奴だ。分かるだろ。ははは」


 いきなり朱華がコモンでそう告げると、大きく笑った。蓮さんはそれにこたえなかった。俺がぼんやりしていると、喜撰は弓月を起こし、何やら和語で告げる。すると彼女は自らの力で身を起こし、喜撰に深々と頭を下げた。


 そして何を思ったか、彼女は腰に差していた刀を抜いた。そう思った次の瞬間には、喜撰の手によってその刀は土の上を転がっていた。


「愚か者が! そんなに腹を切りたいのか! 剣術なんかより、夕餉の支度でも教えておくべきだったわい……儂は碌典閤を外地まで送り届ける。主は一人で戻れるな?」


 俺が状況を把握できていないまま、何かが起こっていて、弓月は力無くそれに同意した。


「なんだ、今度はこの爺さんが案内してくれるのか? また騙すんじゃねえだろうなあ」とエドガーが強気な発言をする。不謹慎でどきりとしたが、彼がいつもの勢いなのには正直ほっとしていた。


 すると意外にも喜撰は少し黄ばんだ歯を見せて笑う。


「碌典閤! お前は中々肝が据わった仲間を連れているのぉ。龍退治は得意なんじゃが、手合わせ願おうか?」


「おもしれえ、受けて立つ」と言ったエドガーの言葉に被せて蓮さんが「その前に僕が刺すぞ、エドガー」


 蓮さんの迫力にさすがにエドガーも黙り込んだ。周りが静かになると、蓮さんは穏やかな声で喋り出した。


「僕の手にあるのは睡蓮八卦鏡。八咫鏡には劣るが、これも強力な力を秘めた祭具だ。目的は達せられた。もう見世物になる必要はない」


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