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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第六巻 日の沈まぬ国の四季皇と外法の歌
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第三十三章 月喰いの息子 天照す父

蓮……さん? その姿は、フォルセティさんと演習をしていた時のようだ。死を覚悟する恐ろしさ。目の前にいるのは畏怖が姿を持ったかのような存在。誰かに操られている……いや、これが碌典閤としての姿なのか? 刀が、修羅が発する声と力なのか?


 蓮さんが、和語で捨嘉に何か告げた。しかし彼は固まったまま動こうとしない、いや、何もできないらしい。自分の奥歯が震える音がして、俺は全身が震えていることに気付く。寒い。俺は、静かに、膝から崩れ落ちていた。寒い……力が抜ける。俺は、天を眺めていた。何もない、色も無い空。


 誰かの声が、した。そう、多分エドガーだ。エドガーは俺の身体に触れているらしい。エドガー。エドガー? エドガーって、何だ? 俺は? 俺? 何で……


 あれ? 何だ? 気持ちが……いい……安らかで満たされていて……もしかして……永遠ってこんなことを言うのかな。こんなに気持ちがいいものだったんだ……あ、俺の瞳に誰か映っている。エドガー。龍の戦士。俺を揺さぶっている。エドガー。どうしたんだよ。どいてよ、空が見えないじゃないか……


 空……あ……先程まで白かったのに……暗い……光が……


「光……がない。もっと……俺に光を……俺は、飛揚族……光が無いと……飛べない……」


「月喰いが怖いか? 坊主。じきに温かくなる。無色が心地良いか? 色が欲しいか? 外法はお前の血潮を昇り、人の道を伝える。外れてみるか? 坊主」


 蓮さんが、そう口にした。しかしそれは俺に向けた言葉ではないらしかった。蓮さんは刀を持っていない左手を天高く掲げており、その手は握られていた。


その手のひらを緩めると、木漏れ日のような陽光が生まれた。気が楽になる……自分の身体に血がかよっていることを、俺の気を戻そうとする、エドガーの体温が伝わる。


 かと思えば、再び蓮さんがその手を固く握る。寒気……いや、恐怖だ。死の恐怖。自分の意志が、力が無力だと思い知らされるような……


 その時初めて気が付いた。蓮さんの腕が六本となり、それらが太陽を握っているのだと。太陽……いや、月? 


 光が、景色が揺らめいている。その幻惑の中に俺はいた。自分が自分でなくなるような、恐れと心地良さが俺を満たす。それと同時に俺の意識が途切れ、また戻る。


 瞳に映ってはいないのに感じるのは、月かはたまた太陽か。違う。鏡だ。割れたと思った鏡は修羅の手に握られていた。


「そろそろ仕舞だ。碌典閤」


 そう口にしたのは朱華だった。少し意外だったが、蓮さんはその言葉に従っていた。空は青。白い花弁が舞い、俺の身体は自由になっている。


感じたのは、暖かさだった。朱華の身体から、光が生まれているのが分かる。神々しいと思った。神を殺したと蓮さんは言ったが、俺は彼に神のごとき畏怖と清らかさを感じた。


それは、太陽に似ていた。父さんに、あの天人、天使に通じるかのような……あま、てらす……存在……




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