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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第六巻 日の沈まぬ国の四季皇と外法の歌
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第三十一章 わが園に梅の花散るひさかたの 天(あめ)より雪の流れ来るかも

「わが園に梅の花散るひさかたの あめより雪の流れ来るかも 大伴旅人


 わが家の庭に梅の花が散っている。いや、空から雪が流れ落ちて来ているのだろうか」


 甘く胸を突き刺すような忘れられない声。それを発していたのは、四式朱華だった。俺達は、いつの間にか彼の城の中にいたのか? そうなのかもしれない。この場所がどうなっているのか、分からない。ただ、飯綱の姿がそこにはなく、五十螺は蓮さんが首をはねていた。


 ようやく、俺はある可能性に辿り着いた。もしかしたら、あの二人が俺達を騙していたのか? 蓮さんが敵を勘違いするとは、理由も無く血の繋がった者を殺すとは考えにくい。では、何で?


 混乱した俺の頭に朱華の楽し気な声が響く。


「上等だ。楽しませてもらった。どうだ、弓月ゆづき


 四式朱華の隣には黒髪の女性がいた。彼女は紫がかった、艶やかな武者鎧を身にまとい、小さな畳でできた椅子の上に座っている。その顔は細い眼と高い鼻、きつい印象の美人。口元は固く結ばれており、緊張感がこちらにも伝わって来る。


 弓月と呼ばれた女性の隣には拾嘉の姿もあった。それ以外に人はいないらしかった。この場は花盛りの森の中のよう。はらはらと落ちる花弁が俺の羽根に落ち、それを指で掴んだ。それは消えることがない。雪のように白い、小さな花弁。


 弓月と呼ばれた女性が、何かを口にしたけれど和語で喋るから俺は分からない。そうだ。


「約束した八咫鏡は?」と小声でエドガーに尋ねる。エドガーも抑えた声で、


「ちゃんとした約束はできてねーだろ。多分」


「俺らは……一体、どうしたんだろう……アイシャが、虹色の機械の天使が、蓮さんになって消えた……」俺が力なくそう呟くと、エドガーは苦笑いをして、


「何だ、気に入らねえな。幻術だか風水だかって奴はよ」


「約束だ。鏡を貸してくれ」そう口にした蓮さんの声で我に返る。立ち上がったのは弓月。彼女は和語で何やら口にした。それに拾嘉が応える。蓮さんがコモンの言葉で言った。


「そうだ。しかし僕は奴らを殺した。駄賃だろ? 違うのか?」


「どこまで減らず口を叩けば気が済む! どれだけ人を殺めれば気が済む! どれだけ穢れた魂を持っているというのだ!」弓月は叫ぶように言葉を発すると、俺の身体までいかづちのような物で撃たれたかのように痺れ、膝をつきそうになるのを堪える。


 はっとした。彼女は西京の人間らしい。強大な魔力を感じる。そして、蓮さんを憎んでいる。理由なんて分からない。いや、ただの勘だが、彼女と蓮さんは何か関係があったのだろうか。


蓮さんは穏やかに言った。


「人を殺すのは得意なんだ。お前も殺すぞ。鏡をくれ」


 俺は万が一のことを警戒していると、代わりに上皇の笑い声がした。


「弓月。一番の余興の名人が碌典閤だ。異論はないな?」彼女が黙っていると、なんと、上皇の肩から青龍が生まれ、弓月に噛みつくようにして囁く「異論はないな?」弓月は答えない。


 拾嘉が何やら口にした。弓月は短くそれに答えた。すると上皇が笑いながら言う。


「内緒話ばかりして、せっかくの来客が困っている。奴らは生き残った。力無きものは死んだ。それだけだ。いいだろ、そんな鏡一つくれてやれ」


「飯綱には一時たりとも自分の時間も幸福もなかった。それが彼の定めだとしても、東京の民はその亡骸を悼む時間さえ持たせないと言うのか? この悪鬼は、飯綱の身体も魂も焼き尽くし、あまつさえ自らの妹まで躊躇いも無く手にかけた。汚らわしい。おぞましい。こんな物を見過ごしていいのか? 西京だけではなく、東京にも災厄を齎す物だ」


 術にはめたのはそちら側なのに、何を勝手なことを言うんだと腹が立った。でも妹って……そうか……そうだったよな。だけど兄弟で殺し合いをさせてるのは、やっぱり彼らじゃないか!


 やり場のない怒りで頭がいっぱいになる。状況を把握してないのもあるけれど、それ以上にこの国の人達のやり方が本当に嫌だ。この国の人達の頭の中が分からない。


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