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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第六巻 日の沈まぬ国の四季皇と外法の歌
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第二十九章 鳳凰来襲

 俺は視線を龍へと移す。静かに眠っているようにも、すでにこときれているようにも思える、美しい龍。龍だけれど、それがエドガーだという胸騒ぎがする。


「アポロは何の為に生きているの? 大切な仲間を失っても旅を続けたいの? ねえ、アポロ。旅をするっていうのは大切な仲間の死をも体験するってことだよ。アポロなら、誰を生贄に捧げるの?」


 その言葉が俺の胸を突き刺した。俺は目の前の天使に向き合う。もし、目の前にいる者が災厄の天使なら。いや、単純に災厄をもたらすものだと言うのならば。俺はちゅうちょなんかしていられない。してはいけない。


 俺は右手を彼女に向けて掲げる。意識を集中させ、熱を細い針のようにした無数のそれを放つ。目標は天使だけではない。ここにいるすべてに向かって。自分自身の肌にも無数の熱が刺さる。俺は歯を食いしばり目を見開いて、目の前の天使を睨みつける。美しくも痛ましい俺の友人。アイシャに恐ろしく似ている、天使。


 俺の眼が、頭がおかしいのか。それとも目の前の天使が偽物なのか。悪い夢なら醒めて欲しいと強く願う。痛みの中で、俺は突撃して彼女の腕を掴み、アーティファクトの力を開放しようと試みた。


 よし、やはり反応がある! これは……知っている? 何か触れた経験があるような……


 すると、彼女の瞳が金色に変わり発光するのが見えた。……彼女?


 見覚えがある光、爛々と輝く二つの光。俺の放つ炎を飲み込む鳳凰が翼を広げ、辺りに熱風を巻き起こす。俺は全身を刺す熱と痛みの中で叫ぶ。目の前にいるのは「蓮さん!!!」


 俺が大声を上げると、景色が変わる。俺の眼の前にいたのは、確かに蓮さんだった。


何で?


 俺の疑問に応える人はおらず、俺は膝をついていた。身体が、重い。何かを発声しようとしたが、それは言葉にならなかった。すると目の前から蓮さんが消えた。そして叫び声。俺は上半身をひねっていた。そして身体に刺すような痛みが走った。反射的に苦しみの声を上げる、いや、やはり俺はそれを音にすることができなかった。


 そして俺の眼の前に広がるおぞましい光景。無数の眼球がある、氷の巨人らしき物。それに対峙する蓮さん。周囲は岩肌。俺達は洞窟の中にいるらしかったが、その広さは五人で入ったあの場所よりも随分と広いようだった。しかし同じ場所かどうかの判別できない。


蓮さんはゆっくりとそれに近づくと、氷の巨人が四つの腕から冷凍光線を放つ。しかし蓮さんは鳳凰の力でそれらを溶かしながら進む。


 蓮さんの瞳は金色ではなく、一見すると修羅の力を解放していないように思えた。では、先程の感覚はどういうことだろう?


「おい、アポロ……これは……」


 遠慮がちな声。はっとしてその方向を見る。俺の横にはエドガーがいた。いつもは見せない戸惑いの表情のまま、俺に問いかけていた。


「もう、皆夢から覚めた。贄を捧げる。そしてお前を滅する」


 蓮さんの背後に大きな火の力が吹き上がり、それが鳳凰の姿を成す。猛々しくも美しい火の鳥。しかし、何かがおかしいことに気が付く。蓮さんがいつも呼び出していた時とは何かが違う……


 鳳凰は優雅に羽をひらめかせ、光のような眩しさでこの場を照らすと、首を高く上げひと鳴きした。その声に俺の身体中が熱くなる。そして鳳凰が、虹色の血を流している。しかもゆっくりとその姿が消えかかっている。


 今までに見たことがない光景だった。変だ。まさか、贄、生贄って……そんな!


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