第十二章 別れと新たな旅立ち
俺はそうする、と、そこに表示されたのは相変わらず古代魔術師だったけど、レベルが12! 10越えたらそこそこの冒険者ってことだよね! ちょいずるい気もするけど、へへ、ほほが緩む。
あと、他のパラメーターは平均的に上がっていたようだが、腕力だけかなり高くなっていた。多分、鷹の紋章のおかげなのかな? 力が強くなったり鍛えたりしてないから、左手だけの力ってこと? 分かんないけど。
あと、エドガーは1、レンさんは2、ジェーンは1、レベルが上がっていた。良く分からないが、この人らのレベルを上げるガーディアンの強さって、やっぱすごいな。
「エドガー、頼みがある。しばらく、また、共に旅をさせてくれないか? 僕の腕は、なまっていた。戦いの中に身を置かないと、僕は腐ってしまう」
「は? おう、いいぜ。お前がいれば百人力だ」と、ちょっと驚いたような、でも嬉しそうなエドガー。そうだよ。蓮さんがいれば、百人力だ。頭も回るし、恐ろしく強いし。
はっ、と気づいてしまった。俺って、何だろう。強敵を倒してもらい高価な防具も買ってもらい、散々お膳立てしてもらって、おいしい所だけかっさらって行った男。それに、たぶんエドガーは空を飛ぶ関係のアーティファクトを求めていたはずだ。それなのに、しょうがないことだけど、俺だけが翼を得た。
しかも遺跡にアーティファクトも宝石とかもなし。
この、ブラッドスターをあげるのは、誰であっても絶対に出来ない。だから、父さんがしていたみたく、見えないように、服の下にしていた、
「さっき気づいたが、いい光だな、その石は?」
「え?」と固まる俺に、蓮さんが優しく言う。
「僕は魔法が使えないが、鳳凰と友達だ。だから勘と言うか、魔法使いの魔力感知みたいなのが、火属性限定で使えるようなんだ。きっとアポロが手にした大切な物だろう? 大事にしなさい」
「あ! ありがとうございます!!!」と俺は頭を下げていた。レンさんって、何だか、少しだけ、お父さんに似ている気がするんだ。とにかく相手のことを考えていて、優しくって温かい。あ、でも、ちょいちょい修羅になるお父さんかあ……修羅かあ……
「おい、何いつまでぼさっとしてるんだ、お前も来い、アポロ」
エドガーはそう怒鳴った。え? 来いって、言った? 俺は、その言葉を聞き返した。
「当たり前だろうが! お前に買った装備も、死ぬ思いをした遺跡でお宝なしも、お前に責任の一端はあるんだぜー。まあ、レンもいるし、どこでも行けそうだから、せいぜい危険な場所で、色々こき使ってやるから覚悟しとけよー古代魔術師様で、飛陽族様!!! なんせ
貴重な古代魔術師様ですからねえ。馬車馬のように働いて、俺の為に世界中のアーティファクトを探してもらうからな」
エドガーは厭味ったらしく、二やついて言うのだが、俺は、こらえようとしているのに、ほほのにやつきが止まらない。嬉しくって、たまらない。それに気づいたエドガーは驚いた顔をして、俺ではなくジェーンに言う「やっぱここで別れる?」
「そうね。ポータルがあるんだし、シェブーストに行くのもいいんだけど、やっぱり方向が真逆だと、後が面倒だからね」
「え、ジェーン一緒じゃないの!」と口にしてから、そんなこと、俺でも分かっていた。パーティはずっと一緒なのもあるだろうが、普通クエストごとに集まったり、状況に応じてのみ集まることを。
「私はそこの暇人二人みたいじゃなくて、色んな所からひっぱりだこなの! あ、そう!忘れてた! ちょっと、こっち来て」とジェーンは無理やり俺の手を引き、少しだけ離れた場所についた。
「もしかして、またからかうつもりじゃ……」
「アホ! いい? 私の一族では、初めて会った若い魔術師に、自分の一番の得意魔法を教えるっていうしきたりというか、風習があるの。ほら、私の人差し指を握って」
あの時は気づかなかった。細くて、白くて、綺麗なジェーンの指。そこにはまっている、大きな青い宝石。俺はそれに自分の指を合わせると、あの時のように、二人の魔力が重なる。
「大いなる慈悲と混沌の洪水を司るウィンディーネよ、我の親愛なる友に、その力を授けたまえ! アポロ! 集中した力を放って!!」
俺はジェーンの言う通りにすると、指先から水流が噴き出し、目の前の木が、なぎ倒されていた。すごい、水の力で、木が倒れるなんて!
「あ! ありがとう!! 初めてまともな『魔法』を使えたよ。ジェーン、本当にありがとう!」
「まあ、これは大分私の力が入ってたけどね。水の力を攻撃に利用するのは、中々難しいの。補助的な役割が強いかな。あと低レベルの、ヒーリングとか。レベルが上がれば、氷の呪文も使えて、こっちの方が攻撃に向いているけど、まあ、先の話ね」
「ジェーン、沢山どうもありがとう。でも、俺、あげられるものが……」
「いらないわよ! 私はいい男とお金持ちが好きなんだから、お坊ちゃんは背伸びしないでだまってなさいって」
「でも、ジェーンは、そんな俺に良くしてくれた。ありがとう」
俺が軽く頭を下げると、彼女は少し困ったように笑った。
「たまにはね、魔が差す時もあんのよ、ほら、あっちでこわーいキラーマシーン二体が、待ってるぞー」
ジェーンの言葉通り、エドガーの怒声が飛んで来た。俺は慌てて、ジェーンに別れを告げる。また会える、冒険者なら、そう思って生きていくのだと、俺は勝手に思う。
二人に合流すると、エドガーに頭を軽く殴られる。エドガーが上機嫌で、いやみったらしく、
「次のはアーティファクトの中でも危険な封印されしネクロノミコンっていうのはどうだ? まずそれを持つ死霊魔術師を探すことから始めるんだが、千匹のコウモリ、ネズミ、ヘビの身体をバラバラにして、それを闇の炎で煮込んだスープを『魔法使い様』が飲んだら大体の位置が分かるようになるらしいぜ」
「それなら、我がジパングの近くにある三国大陸には、今、地獄の炎を操る、恐るべき裁判人が大量虐殺をしているようだ、どうだ? アポロも行ってみたいだろ?」
「俺は!!!! 今すぐ !!! ベッドで寝たいです!! 先輩!!」
振り返った大人二人、蓮さんまでも、嫌なニヤニヤ笑いをしていて、思わず三人で笑ってしまった。
いつ死ぬかもしれない、いつ別れるかもしれない、明日の、何か月後の生活も分からないのが冒険者。
でも、最高に楽しいのが、冒険者だ。そして、ポータルで移動して歩いてシェブーストに行って、ベッドでぐっすり寝る絶対。それから、僕は、また、冒険に出るから。




