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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第六巻 日の沈まぬ国の四季皇と外法の歌
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第二十四章 四季の覚悟

そう口にすると、やはり音も無く朱色の鳥居の中を移動して行き、俺達は少し速足で彼女の背を追った。赤いローブの上で揺れる艶やかな黒髪。ふっと、その姿が消え、その代わりに厳めしい顔をした男の顔が視界に入った。


 白の着物に、前掛けのような黒の薄手の鎧を身に着けた彼は、どうやら西京の人間らしい。侍らしき彼は黒兜から鋭い眼光を俺達に注ぎ、低い声で言う。しかしそれは和語で俺には分からず、五十螺がそれに落ち着いた声で返した。それに蓮さんも加わり、しばし三人での会話が続く。


 黙って待っていようと思っていたのだが、話し合いはまとまらないようで、三人のやり取りは止みそうにない。俺がエドガーの顔をちらりと見ると、彼も少し苦笑いを浮かべ、


「おいおい、俺らにも分かる言葉で喋ってくれねーの?」


 すると蓮さんが振り返り、


「このまますぐに鎮魂の儀の地に行くということで話がまとまりそうなのだが、それでいいか?」


「は? 鎮魂の儀?」


「正確に言うなら、西京の教皇、悟道閻慶との謁見は困難だ。その代わり別の道具を貸してくれるらしい。その為には、その道具がある場所に巣くっている魔物を退治して欲しいとのことだ」


「お! 魔物退治。そりゃーいいじゃんか。で、その道具ってのは八咫鏡とかいうのと同等の効果があるのか?」


「どうかな。そもそも、八咫鏡の力を解放しても奴の力を無効化できるかは分からない」


「おいおい、それじゃあ無駄足じゃねーか! どういうことだよ!」そうエドガーが食って掛かると、蓮さんは穏やかな声で返した。


「僕が覚悟を決めたら、恐らく奴の術に対抗できる。恥ずかしい話だが、自分が四式朱華の息子だとようやく覚悟が決まった。ただ、今回向かう場所にある道具も有益な物だ。今すぐ向かおう、二人はどうだ?」


 四式朱華の息子だという覚悟。その意味は、おそらく四季の、屍鬼の力を使うということだろう。ずっと封印していた技を使うということ、だろうか? 


 俺はまた、蓮さんが遠い存在になるような気がして、でもその決断を止めることなんて出来なくって。もどかしい気持ちをどうしたらいいのか分からずにいた。


 エドガーが少し低い調子で「ああ、分かった」と声にした。俺もその言葉に続くと、蓮さんはまた和語で西京の侍に語りかける。


「あのよー。おめーら俺らにもわかる言葉で喋ってくれよ。蓮。隠し事はなしだ。お前からも言ってくれ」


 エドガーがそう言うと、蓮さんが二人に何かを語りかけ、侍が口を開き短く言った。


「了解した」


 五十螺は微笑みながら「失礼しました。今後気をつけます。問題の場所へはここから二時間程度歩くようです。西京の木々は今紅葉の季節でとても美しいそうですよ。楽しみですね」


 俺はふと、周囲を見渡した。俺達は山の中にいるらしい。その周囲の樹木の葉は、赤、黄、紫色に景色を染めていて、幻想的な光景だった。そして遠くに見える白い山脈には霞がたなびき、それらが俺を圧倒しながらも自然の中で調和していた。美しい原色の世界だった。


「これが四季」と思わず口に出すと、五十螺が「化けモミジは西京ではいつでも見られるようです。美しいですね」と答えた。俺がふと蓮さんを見ると、蓮さんは黙ってその景色を瞳に映しているようだった。


「もっとも、天照らす上皇や碌典閤様は全ての季節を生み出せるのですけれども」


 そう口にした五十螺に、蓮さんは怒気をはらんだ口調で「出鱈目を」と言って、颯爽とどこかに向かって歩き出し、その後を侍が続く。蓮さんは、その場所を知っているのか? ともかく俺も遅れないようにその後を追った。



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