表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第六巻 日の沈まぬ国の四季皇と外法の歌
114/302

第二十一章 四聖獣を背負いし者

エドガーが凛とした態度でそう返した。蓮さんは、黙っている。すると、また景色が変わって……そう、俺達の周囲には桜の大樹、その花は咲き誇りながらも、はらはらと舞い散る。


「殺すにはまだ若い、もったいないか、碌典閤?」上皇がそう楽し気に尋ねた。その後で、また和語で何か、楽しそうに口にした。蓮さんが、それに静かに応える。そして、沈黙が訪れる。


 蓮さんは静かに身体をかがめ、膝を、そして手を揃え頭を下げ、土の地面につけた。そして、和語で何かを口にした。俺はその光景がわけも無く恐ろしく、全身が震え止まらなかった。蓮さんがこんな屈辱的な行為をしている。それは、何を意味しているのだろうか?


 あぐらをかいていた上皇はおもむろに立ち上がり、悠然とこちらへと歩み寄って来た。彼が歩き近づくと、その背には強大な何かの力を感じた。それは幻影の様にゆらめき、その力の一部を現す。


 青い龍。赤い鳥。白い虎。黒い亀。四種類の幻獣を背負いながら、上皇は俺達の前に現れる。レイスや朱金の存在の時とは違う感覚。すさまじい力を感じながらも、彼は恋に堕として屍鬼にする存在だからか、彼が発するものは恐ろしさよりも魅惑が勝っていた。多分、彼がその気になれば、気づかぬうちに心臓を喰われているのだろう。


しかし、彼は蓮さんにしか興味が無いようだった。和語で短く何かを告げる。そして沈黙が訪れる。


 また、上皇が何かを告げた。蓮さんが、立ち上がった。


「分かった。約束しよう」と、コモンの言葉で蓮さんは言った。しかしそれが何の約束なのかは、分からなかった。拾嘉が和語で何かを口にして、上皇が笑い声を上げた。そして和語で何かを口にする。


 すると、俺達の目の前に、瞬間移動したかのように人間が現れた。裾が広がった、白と赤と緑のローブ、着物を身に着けた、長い黒髪の女性。細い眼の上と口元には紅の化粧をして、白い歯を見せ、


「碌典閤様、四式五十螺いそらと申します。以後、お見知りおきを。私が西京へのご案内をいたします。どうぞ気を楽にしてくださいな。そうそう皆様の履物もお持ちいたしました。どうぞ」


 彼女はそう口にすると、俺達に向けても微笑を浮かべる。ここに来て初めての友好的な振る舞いに多少警戒をしながらも、少し気が緩む。俺はのろのろと靴を履く。西京へ渡る交渉が成功したと思っていいのだろうか?


 四式五十螺は真っ白で長い指を、赤い着物から出しすっと掲げると、その手の平に折り重なった紙が生まれ、収まった。彼女はそれを着物の中に入れると、小首をかしげてまた微笑を浮かべる。


「せっかくですから、お茶でも召し上がりませんか? 上等な生菓子が『そらや』から届きまして。それともすぐに伺いますか?」


「すぐに頼む」と蓮さんは口にした。彼女は重そうな着物を着ていながら、音もたてずに動き出す。しかしその足はすぐに止まった。


「拾嘉様」少しとげのある口調で、五十螺がそう言った。ふと俺は拾嘉を見た。しかし彼は黙っている。彼女は先程までの様に柔らかい口調で「行きましょう」と口にして、手を掲げると、水の中に穴のような物が生まれ、彼女はその中に吸い込まれていく。蓮さんがそれに続いたので、俺も臆せずに続いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ