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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第六巻 日の沈まぬ国の四季皇と外法の歌
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第十七章 鬼が出るか、皇が出るか

そうだ。いつまでものんびりしていられるわけではなかった。俺は身支度を整えると、旅籠の前に急いだ。この前案内してくれた同舟さんではなく、別の侍と馬車がそこに控えていた。


「正式に上皇の任を受け参りました。三鎌と申します。こちらにお乗りください。数刻で城まで着きます」


 少し背が低いが、体格の良い男。角付きの兜にいかめしい赤鎧を身につけているし、武士という感じだろうか。俺達はそれに乗り込む。エドガーがやけにうきうきした声で言う「やっと化け物様とご対面ってか?」蓮さんはそれに答えずに、なぜか俺に向かって言った。


「アポロ。やはりお前は宿で待たないか? 何かがあってからじゃ遅い。本当は僕だけでいい位だ」


 エドガーに加えて蓮さんまでそんなこと言うなんて。俺の頭は真っ白になるが、平気なふりをしてなんとか言葉を絞り出す。


「大丈夫です。自分の身は自分で守ります」


「その言葉忘れるなよ」


 その気迫に押されて力なく「はい」と俺は返事をした。蓮さんは瞳を閉じてしまう。エドガーが「あんまガキ脅すなや」と口にしたが、蓮さんには届かなかった。馬車が進む音だけが車内に響く。


そうだ。蓮さんはアイシャの為に腕を失ったんだ。あの時に修羅化して周りの者なんて気にしなかったら、きっと助かった。俺がそんなことをしでかすわけにはいけない。俺自身の力だけでは再生能力なんてない。


俺は生唾を飲み込む。身を引くのも、勇気だ。


でも、ここで宿に戻るようだったら。この先二人と冒険なんて出来ないんだって思ってしまう。エドガーの言うように、俺は自分がどんな冒険と共にあったのか理解していない。それでも、やはり俺は引くことは考えられなかった。


手の甲の紋章にそっと触れる。俺は、できる。そんな根拠ない自信が俺の意識を保っていた。


色々と思いを巡らせる暇もなく、案外早くその城へと到着した。メサイア大陸の実物の城を目にしたことは無いが、想像していた物とそんなに差は無いようだった。ぐるりと周囲を城壁が囲み、その中央に高くそびえる城がある。ただ、こちらは木造らしき街とは違い外壁が石造りらしい。


「ここからは何があってもおかしくない。もう一度言う。これはエドガーにも言っているからな。ここは首をはねられても文句は言えない伏魔殿。その覚悟がお前達にはあるか?」


「ああ」と投げやりにエドガーが返す。一瞬の寒気を吹き飛ばすように、俺は自分の太陽の紋章を蓮さんに見せ「はい」と短く言った。


蓮さんが黙っていると、三鎌が「失礼がなければ何もないはずです。それでは」と断り、場内へと俺達は向かった。エドガーの背の丈の三倍もあるような、巨大な木製の門は閉ざされていたが、三鎌が大声で何やら言うと、ゆっくり扉が開く。


俺は身を引き締めて皆についていく、と、変な気がした。やけに冷えるのだ。また、真っ白な外壁へと続く道はやけに細かい石が敷き詰められていて、その周りは緑色の葉っぱに丸く赤い実をつけた植物に飾られている。


「これが、冬ってことか?」とエドガーがぼそりと口にした。


「そうだな。これは千両、万両という植物だ。通常ならこの時期にこんな風に繁茂しないはずだ。あいも変わらず悪趣味な」


それに三鎌が静かに応える「碌典閤殿。我が主君への侮辱もその位にしておかないと、悪魔が喉元に喰らいつくことでしょう。貴殿も目的があってここに来たはずだ。言葉も行動も謹んで頂きたい」


「それは失礼した」と蓮さんは冷たく言い放つ。俺は黙ってじゃりじゃりと音がする道を進んで行った。そして長い道を抜けて城の玄関らしき場所につくと、やはりここで靴を脱いで欲しいと言われ、緊迫した場でなんか変な気分がしながらもそれに従っていると、奥から一人の男が現れた。


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