第十一章 翼を持った少年
「ちょっと待ってよ、まだ、聞きたいことが」と涙声の僕が言っている最中に、彼は、天へと昇り、消えた。
呆然とした。しばらくその場から動けなかった。
でも、きっと、父さんは、俺を、大切にしてくれていたんだ! 多分母さんだってそうだ。それを思うだけでも、俺の胸は熱くなった。俺は涙をぬぐい、鼻水をすする。
はたして、両親が生きているのか、この時代の人なのか、そもそも俺は何で古代人の子孫なのか、謎は尽きない。それに翼はともかく、この両手の紋章の使い方を教えてもらってないのだが……
「ウイイイーン」
という音がいきなりなって、びく、っとしてしまうのだが、あのここまで案内してくれた機械が赤い目を復活させ、
「これより帰還されますか? 遺跡の入り口までお届けいたします」
そこでようやく俺は思い出した!
「ああああああ! あの、俺の仲間、分かります? 大剣持ちの獣戦士、鳳凰も使える凄腕侍、それに何でも使える女の子の魔法使い」
いつも決まったことしか言わないこいつらに、ダメもとで言ってみたのだが、
「分かりました。途中の牢獄にしまっていますので、寄りますね、では、円盤へと移動をお願いします」
牢獄にしまうって……と、思いながらも、みんなに会える、というのは本当に予想外だし、みんなは多分俺が死んでると思ってるだろうし、ははは…… でも、古代遺跡のしかけをとくのは俺しかできないんだもんなあ、ふうう。
機械に案内されて俺はその牢獄へと行く、と、ジェーンが大声で、
「あああああ!!! どこ行ってた!!! 早く開けなさいよ! え! 何でアポロ、翼、生えてるの?」
「いや、みんなこそ、三人そろって牢屋に入ったままとか不思議なんだけど」と僕
「ワープした先がここだった。開けるには、アポロの力が必要だから待っていた」とほのぼのな声の蓮さん。ああ、本気になればここくらい簡単に破壊できそうだしなあ……
いやあ、すみません、ということも含め、俺はこれまでの経緯をざっくり説明すると、
「マジかよ。じゃあお宝なしってことかー。あんなに辛い思いをして、アポロの為の遺跡だったのかよー」
エドガーがぼやくのが胸に痛いが、蓮さんがすかさずフォローをしてくれる。
「初心者を助けるのが年長者の務めだ。僕も久しぶりにわくわくしたよ。それで、だ。僕も実は鳳凰以外にも召喚が使える。魔力のある君たちと違って限定的なものだけど。だから、恐らくその鷹の紋章は、アポロの飛翔能力や鷹のクチバシや爪の一撃のような力を持っている。太陽は、恐らく、そのままだ。それで軽く触れて、この牢屋を溶かしてくれないか?」
少し、半信半疑で、言われた通りにしてみると、牢は難なく溶けた。
「コックさんを拾ったつもりが、とんだバケモンの子を拾っちまったな」とエドガー。
すると蓮さんが、めずらしく少しおどけた声で、
「そういえば僕も、名家のお坊ちゃんの家庭教師のつもりで、バケモノを育ててしまったな」
エドガーの大きな舌打ち。それをジェーンが肩を叩き、いさめる。
「はいはいもういいでしょ、こんな所さっさとおさらばしましょ。私もうシャワー浴びたい! いつものケンカは外に出てから好きなだけして下さーい」
と、俺らはぞろぞろと歩き出す。その時、少し小声で、エドガーが言った。
「なあ、空飛んだんだろ? 気持ちよかった?」
「うん! 最高だった!!」
俺は軽く叩かれた。
「なんだよ、感想言っただけだろ!」
エドガーはにやりと笑い、その長い脚でどんどん先へと進んで行った。
俺らが機械に案内されて、乗った円状の床で浮上していくと、しばらくして、動きが止まった。
「ここで終点であり、裏側の入り口です」そう言うと、機械の赤い瞳は暗くなる。エドガーは素手で叩いてみるが、当然反応はない。俺らは言われた通りの道を進むと、無事、外に出ることができた。どうやら、あの遺跡の本当に裏口みたいな隠し扉だったようだ。
表に出た僕は、翼を広げ、自由に辺りを飛んでみる。うわー! もう、本当に最高だ! これから知るべき、調べるべき課題はできたが、それでも、父さんに会えたのは、自分の出自の一部を知れたのは、何よりだ。
「なんだぁ? 今回はアポロの為の旅かよー。ジェーンに高い前金払って、お前に装備買って、俺だけ大損かー? いいなー空を飛べる人間はよー」
そ、それはその通りだ。俺が謝ることもできずに苦笑いをしていると、蓮さんが、
「しかし、アポロの姿は凛々しくなったな。みなも良い経験になったはずだ。僕は自分の未熟さを思い知らされた。やはり戦いこそが己を一番研ぎ澄ませるものだな」
それにエドガーが熱い口調で、
「おいバカ! この高レベル激強パーティがあやうく全滅の危機に陥り、しかもアポロがいないと下手したら一生牢屋の中で餓死だぜ。何がいい経験だ」
「そうだな、ヒリヒリした。久しぶりに気持ちよかった」と言った蓮さんの顔。エドガーでさえひきつった顔をしている。それから蓮さんは穏やかな声で、「アポロ、降りてきてギルドリングを見せてくれないか?」




