表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第六巻 日の沈まぬ国の四季皇と外法の歌
103/302

第十章 ごゆるりと

俺は気持ちの整理がついていなくて、何て言ったらいいのか分からなかったが、蓮さんの言葉に従うことにした。蓮さんは、凄い人だ。その位ずっと前から分かっている。だから、色んな話を聞いてもいまいちぴんとこない自分がいた。でも、蓮さんが背負っている運命は、かなり過酷で、他人が口出しできないことのように思えたのだ。


 俺も短い期間ではあるが、蓮さんのパーティの一員だ。力になりたいという気持ちはある。でも、それは黙って行動を共にすること、それだけでいいのかもしれない。


 長い廊下の先、脱衣所という所で服を脱ぐ。木製のかごの中に衣服を入れるのだが、蓮さんは流れるような速さで全ての衣服を綺麗にたたむと、全裸になる。え? 何で今脱ぐんだ? というか、個室ではないのか? 


 なんて思いが頭によぎるが、俺だって裸になる位どうってことないのだ。羽があるからのろのろと服を脱ぎ、裸になる。腕に力を入れ、力こぶを作ってみせる。中々いいんじゃないかな? 


そんな風に思いながら浴場への戸を開ける。長方形の清潔感のある木製の湯船にはなみなみと湯が注がれ、エドガーが大きな身体を存分に伸ばして、お風呂を堪能している。立ち上る湯気の向こう側は緑の木々が生い茂り、中々の景観だ。俺もその湯船に入ろうとすると、


「アポロ、そこの桶で湯をすくい、身体を洗ってから湯船に入るんだ」と蓮さん。あ、そうか。このまま入ると湯船とかいう入れ物の中の、お湯が汚れちゃうもんね。俺は素直にそれに従う。桶に入った湯を一気に背に受けると、シャワーとは違う気持ちよさを感じる。それに、このお湯なのか、木の匂いなのか、清々しい香りがする。あーほんといい気分だ。


 湯船にはどこから湧いているのか、大きな石造りの穴から並々とお湯が注がれている。何かの魔法だろうか? それともそういう仕組みができているのだろうか。


 二人はそれぞれ黙って湯船の中でリラックスしているらしい。恵まれている上に立派な戦士の体格が目に入る。ちょっと羨ましくなる。というか、この二人と比べるのが間違っている。俺、一応魔術師なんだし。


でも、もっと背が伸びて、重い武器も扱えるようになりたいな。それに鷹の紋章の力を引き出すのだって、俺自身の体力がないといけない。あ、魔法の基礎がまだ不十分だな……課題は山積みだけど、今はいいかな……?


 俺は身体を洗い終えると、湯気が立っている湯船に入る。あ、熱い! と思わず口に出してしまって、二人に笑われる。そうは言っても、二人の顔だって上気しているのだ。これは熱いのを我慢して入るのがジパング式らしい。


 じっと、湯船に身体を浸していると、何だかぼんやりしてきて、緊張もほぐれていくような気分になる。身体の温度が湯船の温度に慣れて行く。そうすると、身体中が熱を持って思わずため息を口に出す。


「ふう。お風呂ってものはいいものですね」


 すると、どこからか妙な形の陶器の小瓶を手にしているエドガーがそれをあおると、


「お前も飲め。ジパングの酒だ」と俺に勧めて来る。蓮さんが「それはとっくりと言って、直接口をつけるものではない」と言うけれど、もう口に含んでしまった。葡萄酒やエールに比べて驚くほど飲みやすい。でも飲み干すと喉が熱くなり、独特の良い匂いが鼻を抜ける。


「これは、すごい。美味しい。アルコールはあまり得意じゃないけれど、これは美味しいって分かるよ」


 俺がそう言うとエドガーは上機嫌で、湯の上に浮いた桶からもう一本とっくりなるものを手に取り、


「おっ、アポロも酒の味が分かるようになってきたか? へへ。今夜は芸者の姉ちゃんでも呼んで楽しく盛り上がりてーな!」


「馬鹿者。今は命のやりとりをしに来ているんだ。伝令もいつ来るかは分からない。浮ついた態度は死を招くぞ」


「もう、そんな固いこと言いっこなしだぜ。死ぬかもしれねーなら、今日と言う日を存分に楽しまねーとな」


「本当に、欲望を前にしたエドガーは口が回る」と蓮さんが苦笑い。うーん、でも正直、俺もあの芸者さんには興味がある。あの不思議な、シャーマンのような派手な衣装で芸をするというのは見てみたいな。でも、蓮さんが言うように、もし見るにしてもひと段落した後が良さそうだけど。


 そんなことを俺が口にすると、エドガーは意外にもあっさりと俺の意見に賛成した。エドガーなりに緊張しているということなのかな。蓮さんの言葉を思い出す。フォルセティさんよりも強い存在。それは確実に存在するだろうけれど、そういった存在と場合によっては敵対するなんて考えたくはない。


 そうだ、肝心なことを聞いていなかった。俺は少しのぼせた顔で、口にする。


「蓮さんだけがその屍鬼の力を引き継いでいるということは、正式な皇位継承権? みたいなのは蓮さんにあるんじゃないですか? 聞いた雰囲気だとジパングは力ある物を優遇する雰囲気みたいだし、そこらへんの東京の事情はどうなっているんでしょうか?」


 すると蓮さんは薄っすらとした笑みを浮かべ、


「赤い顔をして、中々鋭いことを言う。そうだ。東京のごくごく一部の民は、僕にその力があることを知っている。その中には僕こそが四式朱華の下につくのが相応しいと思っている者もいる。しかし、そんな心配は恐らく無用だ。奴は惚れて堕とした者の生命を喰う。すると肉体も若返る。世代交代なんてものは当分ないだろうな」


「うげー! すさまじい話だな。一応俺ら一族みたいな亜人だって、人間よりかははるかに長いが全盛期ってものがあるってのによー。ずりーよ。あ、それでなんだ? なんでそんな最強な朱華様とやらが、西京に攻め込んで国を統一しないんだ?」


「それは……あくまで僕の憶測でしかないが、自分の能力を過信して統一を問題にしていないのか、それとも西京の国で新しい屍鬼候補が育つのを待っているのか」


「どちらにしろ厄介な奴だな。あーあ! 親がバケモンだと息子が苦労するな、蓮!」


 蓮さんと俺は顔を見合わせる。エドガーは不満そうに「どういう意味だよそれ」と言うが、ボケているのか、本当に分かっていないのか、このおぼっちゃまは……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ