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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
第六巻 日の沈まぬ国の四季皇と外法の歌
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第八章 東京の旅籠

「蓮さん、その、東京湾から目的地。えーと、四式朱華よんしきはねずの住んでいる場所へはどの位なんですか」と俺が質問をした。すると、前を歩いていた男が厳しい口調で、


「上皇の名前をみだりに口にするな。ここが森の中だからいいものを、お前の首が飛ぶことになるぞ」と同舟の厳しい声が響く。


「それは、僕の説明不足だ。彼のせいではない。失礼した」と蓮さん。小声でエドガーが「めんどくせえなあ」とぼやく。蓮さんは続けて、


「僕が言葉足らずだった。東京を治める四式朱華は上皇。西京を治める悟道閻慶ごどうえんけいは教皇と呼ぶのが一般的だ。街中では注意した方がいい。それと、ここからだと上皇の屋敷までは徒歩で六時間かかるか、かからないか。ともかく旅籠で休めるだろうから、気を楽にしてくれ」


 気を楽に……できそうにないなあ……というか、旅籠って、ホテル、宿屋のことだよね、多分。魔道馬車の乗り心地はかなり良かったけれど、やっぱりホテルで休みたいな。この先も色々ありそうだし。


 そんなことを考えながら森の中を行く。当たり前かもしれないが、気候は温暖で、森の木々の名称は分からないが、この場所は俺らがいたメサイア大陸に似ている気がする。途中モンスターが出ることもないし、案内人が歩くと黒い鎧がカンカンと鳴る音が辺りに響く。


 途中で休憩を挟むこともなく、数時間程度で街道に出た。背の低い木造の建物が並ぶ。そこに、蓮さんと同じ和装の人々が行きかっている。たまに、はっとするような鮮やかな衣装の女性が街を歩いている。あの人は何なんだろう……


 彼らの髪の色はほとんど赤か黒。肌の色はやや白い。メサイア大陸には様々な髪、瞳、肌の人が入り混じっているのが普通だから、この光景は何だか新鮮だった。木造建築らしい家の前には、紺色の大きな布がかけられているのもある。どういう意味だろう。


 彼らは男女問わず、長い髪を結んでいるようだ。蓮さんみたいに、ポニーテールというか、頭の上の方でまとめているのが男性。女性はどういう方法なのか、紙をふんわりとふくらませているような妙な髪型であったり、無造作にまとめていたり様々だ。


「おい、エロガキ。何見とれてんだ」とエドガーがにやつきながら口にする。俺が反論しようとすると蓮さんが、


「彼女たちはおそらく芸者だ。ジパングにおける、エドガーが大好きな酒場の娘のことだ。もっともこの地での彼女たちはその名の通り、芸で相手を楽しませるような訓練を受けているのが違いだろうか」


「へー」と言いながら、派手な和装の彼女を俺は目で見送っていた。この国の独特な文化は興味深いなあ……って、観光に来たわけではないけども。


 その男が案内してくれたのは、やはりホテル、宿屋のようだった。なんと、ここでは入り口で靴を脱がねばならないそうだ。長時間歩きっぱなしだし、においが……なんて思っていて、閃いた。俺は靴をぬぐと、それを靴入れに収める。指にはめた猫目石に力をこめ、キュア・ポイズンを辺りに使う。お! いい感じじゃないのか? 俺は自分の足の匂いをかいでみる! 「わあ! ぜんぜんくさくない!!」


「アホ、みっともねーことするな!」とエドガーが俺の頭をぽかり。蓮さんも苦笑して、


「そんなに気になるなら、風呂場もある。それよりは先ず食事を用意してもらおうか。案内してくれないか?」


「はい」と頭を下げる、赤髪の和装の男。俺達を案内した男は、彼に何やら言うとこちらに向き合って、


「なるべく早く返事を出す。宿代はこちらが持つので、待っていてほしい」


「おーいいぜ。まあ、早めに頼むぜ」とエドガー。彼はそれには答えずに、さっさと宿を後にしていった。すると赤髪の男が「では、こちらへどうぞ」と俺達を案内してくれる。やや狭くて長い木製の廊下。庭園には様々な色の花々が咲いている。男が白い扉を開くと、中には薄緑色の床と、紺色の薄べったいクッションが並んでいた。


「しばしこちらでお待ちください」と男は一礼して、その場を後にする。


「ジパングでは床に座り休むのが一般的だ。この布は座布団と言う。これを下に敷いて、楽に座してくれ」


 蓮さんの言うようにしてみると、なるほど、たしかに楽な感じだ。普段は靴を履いたまま生活をしているからか、解放感もあっていい。後、


「この緑色の床もいいですね。少しひんやりとしていて、ほのかに良い香りがするみたいです」


「うん。これはい草で作られた、畳と呼ばれるものだ。久しい匂いだ。本当に」


 蓮さんは俺の方を見ずに、独り言のようにそう口にした。エドガーがずっと帰郷しなかったように、蓮さんにも深い理由があって故郷を離れていたのだ。思う所はあるのだろう。エドガーは大きな身体を大の字にして、畳の上に身体を任せる。


「あのよ、蓮。今のうちにその上皇だか四式朱華だかのことをもっと話してくれねーか? お前が話したがらねーってことは、そうとうヤバイ相手なんだろ。まあ、戦乱が絶えない国のトップってことはよう、相当な奴ってのは分かる。そいつとこれから交渉するってのは、難しいような気がすんだよな。かといって、力でねじ伏せるなんてのも難しいんだろ?」


「恐らく、フォルセティ殿が戦ったとしても勝てないだろう」


「は?」とエドガーが間の抜けた声を出した。それは俺だって同じだった。あの、フォルセティさんが勝てない? それなら、フォルセティさんと演習とはいえ互角の戦いをしていた蓮さんだって、勝てないって話になるんじゃないの?


 そんな俺の疑問をエドガーが言葉にして蓮さんに問いかける。すると蓮さんは少し間を置いてから、


「奴は、神を喰った男だ」


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