第十章 朱金の翼の勇士
「ならばかの地にて、お前が我々の遠い子孫だと証明してみろ」
次の瞬間、俺は広大な場所にいた。空は晴天で、正直とても暑い。枯木や変な緑のスライムみたいな植物? があるが、生き物の気配はないようだ。
ここは、どこだ? あの遺跡の中の幻影なのか? それとも、本当に遠い時代のことなのか?とても広大で、見たこともない景色。何て言えばいいのだろう。乾いた大地が延々と続くような。
歩けども歩けども景色は変わらず、俺は思い切って飛ぶことにした、へへ、やっぱり気持ちいい! 先程までの暑さも、肌の上をすべっていく風で、かなり軽減される。でも、どこに行けばいいんだ? 試練があるとしたら、何なんだろう?
俺は集中してみる。アーティファクト使いなら、飛揚族なら、できるはずだ。
南東、とひらめいた。でも、いつものような強い確信ではない。でも、俺はとにかく飛び立つ。
俺はしばらく飛んでいると、変な地形を見つけた。変、というか、僕はそれを確かめるために、かなり高く上に飛ぶ。そこにあったのは、あの巨大なシェブーストよりも大きな、岩だった。
にわかには信じられなかったが、俺はそこに人影らしきものを見つけて、降り立った。
白い獣のベストに派手な赤い首飾りをした、赤い髪に赤い瞳。おそらくエドガーと同い年位なのに、少年のような若々しい快活さで、少し幼さの残る表情をして、俺のことを見ている。
そして、その背中には、金と赤に縁どられた、雄大で大きな翼があった。
「おい、アポロ。いつまで待たせるんだ。ここまで来れたってことは、試験は合格ってことかな?」
俺は、その声を聞いて一瞬で、理解してしまった。この人は俺の、お父さんだ。
声を出したい、父さんの声を聞いたら、少年時代の恨みや憎しみや寂しさなんて全て消し飛んでしまった。何か、喋りたい。でも、俺の両目からは涙しか出なかった。
「おいおい、どうしたんだ。らしくねーな」そう言いながら、父さんは俺を優しく抱きしめてくれた。
「お前も15歳になり、成人の儀式に合格した。親としてこれほど誇らしく、喜ばしいことはない」
そう言うと、父さんは身体を少し離して、俺の両手を自分の両手で包む。熱い、いや、温かい。見える、空を飛ぶ鷹、そして、太陽が。アポロ。僕と同じ名前の太陽神。美しく、歌とイタズラが好きな、神様、神々しい、光そのものでもある神様。
ふっ、と我に返る。僕の左の手の甲にあったのは、鷹の紋章。右の手の甲にあったのは、太陽の紋章。
父さんは自分の両の手の甲を見せながら笑う。
「やっぱり優秀な俺の子だ。俺と同じ紋章が出てきた。おめでとう。アポロ。そしてこれが、親から子へ受け継ぐ、ブラッドスターだ」
そう言って、父さんは服の中から首飾りを出して見せる。それは、黒の中に、たまに赤い光が発光する、不思議な宝石だった。父さんはそれを俺の首にかけ、
「じゃあ、明日からの狩りはお前がリーダーだな、せいぜい楽させてもらう」と笑顔で言って、消えた。消えた?
俺がいたのは、あの、遺跡の中だった。
「父さん!!!! 父さん! お願いだ、返事をしてくれ、俺、ずっと、会いたかったんだ、ずっとひとりぼっちだったんだ、父さん、母さん!! 返事を、してくれ、よぉ……」
俺はボロボロ泣いた。意味なんてないって、分かっているのに。でも、叫ばずにはいられなかった。涙は止まらなかった。父さん、あんなに暖かくて、強そうで、こんな、一瞬だけ会えるなんて、残酷すぎるよ……
「おめでとう。見事試練を突破して、その紋章を手にしたアポロは、飛揚族にふさわしい。私は次の飛揚族が来るまで、眠りにつく」
「ちょっと待ってよ、まだ、聞きたいことが」と涙声の僕が言っている最中に、彼は、天へと昇り、消えた。




