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廃墟の上に降り立つ太陽王<アポロ>  作者: 港 トキオ
廃墟から、少年の旅立ち
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第一章 旅立ち、そしておもいがけない才能

ガラクタの山の中で俺は産声を上げた、らしい。ホントのガキの頃なんて分かるわけない。

 でも、俺がスクラップだらけのゴミの山に捨てられて、父も母も知らないのは事実だ。

 

 それは珍しいことではなくて、俺以外にも捨てられた子供たちは助け合って、このスクラップの中でゴミ拾いをして生きていく。ここがスクラップだらけのガラクタの山になっている理由は誰も知らない。でも誰が名付けたのか、ここはガラクタウンと呼ばれるようになっていた。


とても古い昔、機械と神様の戦いがあったという。そして世界は再生され、その大きな戦争の遺物が、神殿や洞窟や世界に散らばっている、らしい。


でも、実際魔法だけではなく、神官様や僧侶とかが神様の力を使って奇跡や癒しの力を使えることを考えると、神様はいたんだって分かるし、スクラップの山を見ると、いやがおうでもロボット、と言われるものもいたのだと分かる。


 古代の遺産<アーティファクト>という、ものすごい力を持った宝物がこの世にはあるという。どん底にいる俺は夢を見る。冒険者になって、洞窟や神殿からアーティファクトを持ち帰ること。


 でもそれは簡単なことではない、それどころか冒険者になって生活が出来るだけでもひと握りしかいないらしいのだ。だってさ、世界に魔物がいても、魔物を倒して力はついても、よっぽど強い、毛皮をはいだり、爪や角がお金になる奴なんて一握りだし。そんなのをポコポコ倒せる人なんて、ねえ。


 だから冒険者だけではなく副業をしたり、冒険者らしからぬ配達やら(でも外はそれなりに危険なのだ)をしたりアルバイトをしながら生活をしているのが実情だったりする。


 でもさ、そんなのつまんないっていうか、かっこわるくない?


 だってさ、男に生まれて冒険者になるもんだろ、って俺は思ってるから。大冒険しなくっちゃってね。


 俺には名前がない。俺達貧しい子供たちを、大人たちは蔑み、憐れむ。小さい頃、ガラクタの中から使えそうなのを見つけることも出来なかったころ、俺は訳も分からず物乞いをさせられた。ものすごく情けなかった。人々が俺らを見るのが怖くて嫌だった。


 でも、その時は俺を助けてくれた年上の子に従うしかなかった。それに、俺は、生きたかったんだ。力をつけて、自分の人生を生きてみたかったんだ。


ガラクタウンには結構大きな酒場がある。近くにある工場で働く人がお客さんの多くだけど、たまに冒険者が来ることもあり、旅の詩人さんが来たことがあった。詩人さんは古い話を色々教えてくれた。その中で世界を照らす太陽の神様アポロの話を聞いた時、俺は自分をアポロと名乗ることに決めた。だって、俺、それまで名無しだったんだもん。


それを知った年上の仲間は茶化したりあきれる奴が多かった。まあ、わからないでもない。汚いかっこのチビの(いや、ほんとはそんなに背は低くないんだ!)ゴミ拾いが太陽神です、なんて名乗ったら、そんな反応でもしょうがないと思った。


でも、俺はそれを名乗ることを曲げなかった。自分の名前が無いなら、自分の好きに決めてもいいだろ。それに俺、活躍する予定だしさ、ね。


その為に朝から夕方まで大衆食堂でアルバイトをしながらお金をためたりして資金作りをする。夜は筋肉トレーニングと、角材を剣に見立てて、剣術の特訓だ。


情報収集に酒場に入り浸っていると、仲良くなった詩人さんがいた。その詩人さんは長い黒髪につばの広い帽子をかぶり、大きな口でよく笑った。手には小さな横笛を持っていた。彼は気分がいいと笛の音を響かせて、神話を教えてくれた。その話はどれも楽しかった。色んな話をしてくれる、俺が会った何人かの詩人さんの中でも彼は特別な存在だった。


「君の人生には物語が必要だ。勉強しなさい。君の世界が広がるだろう」


 何を言っているのかと、彼は酔っているのかと思った。でも、彼は少し赤くなった顔で、その場で俺に文字の読み書きを教えてくれた。そして、また明日来なさいと言った。明日行くと、俺はペンと本とノートを渡された。嬉しさや不思議さよりも、好奇心が俺の中で暴れまわった。沢山の知識。俺はもうガキではないんだって、何でもできるんだって、そう思いながら、本の中の世界を吸収していった。


何でこの人は俺にこんなことをしてくれるのだろうと不思議に思って聞いてみたことがある。でも彼は微笑んで何も言ってくれなかった。


本の中の世界。俺の知らない数々の冒険がそこにあった。俺が何かできるとしたら、尾の世界に飛び込むことだ。飛び込めるような力と知識をみにつけることだ。寝る時間も仕事をする時間も惜しい。俺は木製の剣をふるって、それに疲れると頭の中で冒険の旅に出た。


或る日、いつものように酒も頼まないのに酒場にもぐりこむと、詩人さんはいなかった。次の日もその次の日も。俺は黙って街を出た詩人さんを少しだけ恨んだ。いや、ものすごく寂しかった。でも、俺が冒険者になったなら、きっと会えるのだと言う理由のない確信があった。



お店で買うような資金があれば別だけど、ごくまれに武器の能力を上げるようなスクラップの部品がある。それは職人さんに頼むのと、強化できるのか鑑定してもらわなきゃならないし、一度つけると取り外せないから、まともな武器もない俺には遠い話ではあるけど、やっぱり憧れなのだ。


最低限の装備、皮のよろいに、あまり切れ味は良くないショートソード、大きなリュックサックと簡単な傷を治せる衣料品、そしてバイト先でせんべつにもらった調味料の小瓶セット。


この位揃えると、え? 少ない? 何年もため込んだ俺のお金は結構消し飛んだよ。いや、でもね、これでも毎日食料品は必要だし、簡単に冒険者になれるとは思えないし、お金は残しておかねばならない。


ちょっと恥ずかしいけど、やっぱりこれだけ意気込んだって、他の街に行って、俺はアルバイトが出来るなら、するような気がするし。したくないけど。


ガラクタウンの孤児たちも、ゴミ拾いだけではなく、アルバイトをしたり、「アルバイトの為に」ほかの大きな町へいく子も多い。衛生状態や栄養不足で、若くして命を落とす子も多い。


だから、冒険者になってアーティファクトみつけるぜなんてバクチ打ちみたいなことを言ったりするのはごく少数で、俺も周りから浮いた存在になってきていた。


そんな中で唯一の友人がレキトだ。茶色の髪で歯が一本ないけど、こいつの笑顔が俺は好きだ。俺より多分少し年上で、でもみんなに同じ態度をとって、優しくて、俺の夢だって絶対に笑わなかった。


俺はレキトを冒険に誘ったことがある、でも彼は言った「分からないけど、また孤児が増える。何を考えているのか、この街に捨てに来る人がいるんだ。僕はこの街で彼らを助けなきゃいけない。だから、ごめん」


この街では、いや、この街の俺らの住むスラム街では、衛生状態や栄養不足で、若くして命を落とす子も多い。そこで生きると決めたレキト。そんなことを言われたら、俺はもう何も言えなかった。


俺は出発の朝、レキトにだけ挨拶をしてから行こうと思った。いや、でも、誰にも言わない方がいいのかもしれない。朝になって街への出口へと向かう道で悩んでいると、小さな子の手を引いたレキトに会ってしまった。


粗末な完全装備の俺を見て、彼は察してくれたようで

「頑張って。お守りあげるよ」そう言いながら、彼は俺の手に何かを握らせ、それは薄っすらと緑色に光る瞳のような形状の、まるで、小さなドラゴンの瞳のように綺麗な、


「昨日ゴミの山でたまたま拾った。自信ないけど、売ったらそれなりになるかなあと」


「そんな! うれしい、けど、レキトはすごくお金が必要だろ。駄目だよ。持ってきなよ」


 俺が今までに見たことのない遺物にうろたえながら押し返そうとすると、レキトはいつもの笑顔で、


「そうだね。だけどお金は稼げばいいんだ。でもさ、この街から、一人位勇者様が出たっていいじゃない?」


 ありがたくって、言葉に詰まって、俺は受け取った右手を強く握りしめ「行ってきます」と彼の目をしっかりと見て言った。


「うん。辛くなったら、カッコ悪くっても、いつでも帰ってきなよ」


 俺はそれには返事をせずに、街の出口へと向かった。少し、涙が出そうになるのをこらえた。


 こんな街出たいとずっと思っていて、喜びよりもずっと苦しかったり悲しかったり嫌な思い出が多いけれどでも、少しだけ感謝のような気持ちを抱きながら、俺は街を出る。


乗合馬車に乗って、先ず向かう先はチマックという小さな農村。そこからまた別の馬車に乗って、大都市シェブーストを目指す。大都市には冒険者ギルドがあるから。


 酒場に来ていた何人かの冒険者に話を聞いてみると、「ガキのお前にできんのかよ」って顔をされながらも雑な説明を受けることが出来た。それによると、冒険者になるにはギルドに所属する必要があるらしい。ギルドに所属していないと、俺らは武器を持って市民街を歩いているんだし、ただの荒くれものと思われちゃうしね。


 他にもギルドに所属すると、賞金首のモンスター、や人の情報、困っている人からの依頼や洞窟や遺跡の情報も有料で聞くことが出来る。そして何より、ギルドに所属すると、ギルドリングをもらうことが出来る。


 このリングは古代の遺物に魔法をかけ合わせた、高性能な物らしく、リングを着けたものは、その人物の能力や職業、強さ、能力、簡単に言えばレベルを相手に示すことが出来る。自分の力を相手に見てもらい、依頼を受ける冒険者には必須アイテムなのだ。


 しかもこのアイテム、結構なレベルが上がるごとにギルドで交換ができるそうで、腕輪だったりネックレスだったり、防具の一部にしていたり、自分のスタイルに合わせて選べる。その上、強い冒険者のギルドリング(ブレスレット等)には、能力者の力を増幅する能力もあるそうだ。うーかっこいい! 欲しい!


 が、こんな高性能なアイテムをタダで貰えるわけがない。ちゃんとギルドの冒険者試験というのに合格しなければもらえないのだ。ただ、試験自体はそこまで難しくはない、らしい。


だって、最初は皆レベルⅠにもなってないってことだもんね。最低限の能力は求められるかもしれないが、その人の素質や素行不良、冒険者が犯罪者になればギルドにだって迷惑がかかる。そっちの方が大切だそうだ。って、行かなきゃわからないんだけどね。


 ガタガタ揺れるおんぼろ馬車、小さい窓からは一面の木々。ぼんやりと物思いに耽りながら、俺はお金をケチって徒歩で行かなくて良かったなあと思う。一応道はあるのだが、こんな所で迷ってはいられない。


 おそらく一時間位してたどり着いたチマックは、花々や畑の広がる、のどかな農村。ちょっと馬車に乗っただけでも、ガラクタウンとは随分雰囲気が違うものだなあと思った。


 お尻はちょっと痛いけれど、街の人に聞いて馬車乗り場に向かうと、もう、すぐにシェブースト行きのが発車するとのことで、休んでいたい気持ちもあったけれど、すぐに馬車に乗り込んだ。


 先程よりも、少し大きくて少し乗り心地が良くて、結構高い料金の馬車。俺以外にも七人の人が乗り込んでいる。俺は少し早いけど、昼食をとることにした。


 バゲッド、表面が硬いパンにソーセージとつぶしたゆで卵、レタスをはさんだのと、柔らかい白パンにベリージャムとチーズクリームをぬったものだ。


 もちろん普段はこんないい食事をとっているわけではなくて、バイト先で「最後ですから」と食材を使わせてもらって作ったものだ。本当はアルマン牛の叩きなんてヨダレが出るほど大好きなのだが、持ち運びに適したのは、やはりパンなのだ。


 ずっと車内は無言だったのだが、移動距離が長いせいか、ぽつぽつと乗客が喋りはじめ、俺の正面に座っていた、屈強な戦士か大工のような男が「坊主は何しにシェブーストまで行くんだ?」と尋ねてきた。俺はギルドに行って冒険者になる為、と正直に言うと、男の顔にみるみると嘲りの色が浮かんで、


「おいおい、俺冒険者だけど、お前みたいなのはさすがに見たことない、いや、いないこともないけど、どう考えても無理だろ。その前に試験で落ちる。何? 何か特別な技能でもあるのか?」


「ないです。俺は戦士を目指して試験を受けます」


「はははは! 坊主、そりゃあねえよ。悪いことは言わねえ、止めときな。見た感じ金を持ってるようにも見えねえし、都会に行っても騙されてすっからかんになるだけだ」


「似たようなことを何十人にも言われて馬鹿にされてきましたけど、それでも俺は行くんです。だからもう結構です」

 

 俺がそう言って、もう相手にしないようにすると、隣に座っていた中年のそこそこ身なりの良い女性が、


「そうですよ。いくらそんなことを言っても、命を粗末にしては、親御さんが悲しむでしょう」


「親なんていねーよ、どっちも俺を捨てたから悲しまねーよ」と口に出しそうになって、こらえた。同時に何だか自分がすごく惨めになった気分で、俺が死んでも誰も悲しまないんだなあ、と思った時、よぎったレキトの笑顔。


 腹に力を入れ、奥歯をぐっと噛む。俺は戻らない、あの街には、自分で認めるような強い男になるまで、泣いたりなんて、しない。


 とても長く感じられた馬車での移動、実際とても長時間の移動で、シェブーストにつく頃には空は薄っすら暗くなっていて、俺はすぐにギルドに向かいたくて、なるべく温厚そうな人に声をかけて事情を説明する。あ、この人スケイルメイルを着けてるし大きなブレスレットをはめているし、こちらに近づく身のこなしもしなやかで、なんか強そうだ。聞く人を間違えたか?


「今の時間だと閉まってるよ。だから明日にした方がいい。この街は初めてなんだろ? スリもいるし、何より広い。簡単な地図を描いてあげるよ。ちょっと待って」


 そう言って、その人はノートをちぎると、分かりやすい、大まかな街の地図を書いて俺に渡してくれた。そして、「それじゃあ」とその場を後にした。


 俺を笑うひともいれば、こうやってさらりと親切なことが出来る人もいる。当たり前のことだけど、ほんのちょっとだけへこたれそうになっていた俺には、彼のさりげない優しさがとても心にしみた。


 本当は野宿をしてもいいのだが、スリにでもあったら笑えない、というか人が多い店が多い、自分がどこを歩いているのか分からなくなる。あの人からもらった地図が無ければ、と思うと安堵のため息がもれた。


 地図にあった宿はそれなりに値段のするものだった、でも、ここでは多分物価が高いから仕方がないだろう。俺はお金を支払い、そこそこ清潔なベッドに寝ると、興奮して眠れない、と思いきや、すぐに眠りに落ちる。


 不思議なことに、俺はあまり緊張していなかった、というか、詳しいことを知らないからかもしれないけど。変な自信があると言うか、ここまできたら腹をくくるしかないというか。軽い朝食を済ませて、ギルドに向かう。


 古びた赤い屋根のとても大きな建物、俺はその扉を開く。ぎい、という古びた音に俺は少しだけ緊張する。すると中には、早い時間だというのに結構人がごったがえし行ったり来たり。窓口で何か話し合ったり、短い幾つもの列ができていたり、俺は係の人を見つけると用件を伝えた。すると、


「先ずは適性診断がありますので、六番窓口で料金を支払い、お名前が呼ばれるまでお待ちください」


 適性診断ってなに? しかもお金取るの? なんだよそれと思いながらも従うしかないから、俺は名前を告げお金を支払い、硬い椅子に座って名前を呼ばれるのを待った。


  どの位時間がたっただろうか。目の前を通り過ぎて行く、冒険者達を瞳に映す。俺からして見たら、彼らがみんないっぱしの冒険者に見えてくる。そして、名前が呼ばれ、狭い個室へと案内される。薄暗い中で浮かび上がる、俺の目の前にいたのは、紺のローブを着た老年の女性。二人の間の机の上には黒い板が置かれている。


「そこに手を置いて、自分の輝かしい姿をイメージしてみなさい」


 俺はごくり、と生唾を飲み込み、黒い板に手を置き、ドラゴンを倒す勇者の自分の姿を思い浮かべる、と、板の色が次第に変化していき、それは紫色で、何か分からない赤い模様みたいなものが浮かび上がってる。


 俺は黙って言葉を待った。でも、一向に告げてくれないから、さすがに俺も苛ついてきて、


「あの、俺戦士になるために修行してきたんですけど、俺どう見ても戦士じゃないですか。他に出来る特殊技能もないし、戦士として試験受けさせてもらってもいいですか?」


 すると、ようやくおばあさんは重い口を開いた。


「お前が向いているのは、魔法使いだ。それも古代魔術、と出ている」


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