ゴミ拾いと謎解き
青い空、緑の山々、汗まみれのキリに、白いビニール袋。
「……なんでこうなったんだっけ?…」
額の汗を拭いながら僕は隣にいるキリに聞く。
「なっさんが男子寮から抜け出してきて先生に見つかってしもうたからや。罰として、600haもある校内をゴミ拾いとかふざけとるわ!」
ああ、そうだった。
「こうなったのもなっさんのせいや!後は任せたで。」
ゴミ袋を僕の方に放り投げ、逃げようとするキリを捕まえる。
「いや、僕を巻き込んだキリのせいだ!」
僕もゴミ袋をキリの方に放り投げ、二人で罪のなすりつけ合い。
「ちゃう!なっさんのせいや!」
「キリのせい!」
「なっさんのせい!」
「キリのせい!」
「なっさんのせい!」
15分後、二人で協力してゴミ拾いを終わらせようという結論に至った僕とキリは、大人しくゴミ拾いを再開させる。
「おお〜やってるやってる!どう?終わりそう?」
校舎の方からやって来た凛に無言で首を振る僕とキリ。
大体、凛も校則を破っているのに罰が与えられないなんて納得できない。
「私のためにすみません…」
「二人とも、休憩しませんか?」
凛の後ろからぴょこっと顔を出す葉月と菜月。
二人は両手に抱えていたペットボトルのお茶を差し出してくれる。
ありがたく、そのお茶を貰う僕とキリは汗を拭いながら、側に腰掛ける。
ゴミ拾いは簡単そうに見えて重労働だ。
ゴミを拾うためにはしゃがまないといけないし、今日みたいに日差しが照りつけていると汗もかく。
「お二人はなぜ幽霊の正体が古川さんと木村さんだと分かったのですか?」
僕とキリがお茶を飲みながら休憩していると、葉月がおずおずと聞いてくる。
「いや、僕はキリからのメモで分かったんだけどね。」
そう言いながら、キリの方をチラッと見ると、無言でお茶を飲んでいる。
僕はため息を一つ吐いてから葉月の質問に答える。
「まず最初に、喜多川さんたちはこの学校のモットーである『自立力を育む』ために寮室をバラバラにされたんだよね。でも、バラバラにされたのは喜多川さんたちだけじゃなかったんだよ。」
「「それはどういうことですか?」」
「古川さんと木村さんは、喜多川さんたちが編入してくる前までは同じ206号室でルームメイトだったんだ。でも、喜多川さんたちが編入してきたことによってバラバラにされてしまった。なんとか、同じ部屋に戻ろうと必死になる彼女たちは、ある作戦を思いつく。それが、『幽霊作戦』だったんだ。」
僕はお茶を一口飲んでから続ける。
「幸いにも、喜多川家はH県でも有名な名家。幽霊に怯える葉月ちゃんがお父様に頼み込めば、いくら柊学園でも、寮室ぐらい変えてくれると思った。後は、昨夜の通り。幽霊に変装した古川さんは206号室の抜け穴から天井裏を伝って106号室の前に出る。そして、葉月ちゃんを驚かす。ってとこかな?」
「じゃあ、私が聞いた『ギシギシギシ…』という音は古川さんが206号室から天井裏を伝って106号室の前に出る音だったのですね。」
僕は葉月に頷く。
「本当は葉月ちゃんでも菜月ちゃんでも、どちらでも良かったんだと思う。たまたま、葉月ちゃんが起きていて、菜月ちゃんが寝ていたから、幽霊に気がつく可能性が高い葉月ちゃんをターゲットにしたんだ。だから、キリは菜月ちゃんに早く寝るように伝えて、葉月ちゃんには起きておくように言ったんだよね。」
「まあ……そうやけど…」
不服そうにボソボソと言うキリ。
そんなに僕に謎解きしてほしくなかったのか?
「でも、何で神原くんが女子寮の抜け穴のこととか、喜多川家のこととか知ってたの?」
凛の質問に顔を強張らせるキリ。
どうやら、不服そうなのは他に理由があるようだ。
「キリ、悪いこと言わないから、警察に行こう。大丈夫だよ。ちゃんと自首するなら、僕もついて行ってあげるから。」
「「ええっ!神原さん……まさか……」」
「なっさん!何言っとんねん!ちゃう!そんなんじゃないんや!」
ブンブンと首を振って無実をアピールするキリを冷たい目で見つめる女子4人。
仕方がない、と言うように、ため息を一つ吐いてからボソッと言う。
「姉ちゃんや……姉ちゃんに電話して来てん。」
「えええええええええっ〜!!!」
僕が大きな声で叫んでしまったのも無理はない。
キリには10歳も年が離れた神原沙由里という名前のお姉さんがいる。
僕たちが小さい頃にはよく遊んでくれたが、その遊び方が半端なかった。
ある時には、マンホールから下水道を伝って冒険ごっこ。ある時には、夜の学校に忍び込み、隠れんぼ。
沙由里さんに比べたら、キリなんてヒヨコみたいなものだ。
そんな、沙由里さんは柊学園に通っていた。
噂によると、沙由里さんが通っていた3年間は良い意味でも、悪い意味でも『すごかった』らしい。
柊学園を卒業した沙由里さんは突然姿を消して、連絡も取れないまま今に至る。
それが、今になって、キリに電話するなんて……
「女子寮の抜け穴のことも姉ちゃんに教えてもらったんや。昔は、その抜け穴から抜け出して、街へ遊びに行っとったんやって。メチャクチャや。」
……とっても沙由里さんらしいと思う。
「で?今、沙由里さんは?」
「日本におらんらしい。日本は自分がしたいことをするには小さすぎるって、言っとった。」
「そっか、元気そうで何よりだね。」
僕がキリに微笑むと、顔を赤くしながら頷いた。
でも、沙由里さんは何をするつもりなんだ?……
僕の背中に冷たい汗が流れる。
「まあ、とりあえず、一件落着ね。」
僕の隣に座っていた凛が立ち上がる。
ああ、ゴミ拾いという罰がない人は気楽で良いよね。
もう僕はこの場から立ち上がりたくない。
「「じゃあ、私たちも。」」
喜多川双子も立ち上がり、ビニール袋を手に取る。
「え?なんで二人とも、ビニール袋持ってるの?」
「だって、私たちはお手伝いに来たのですよ?」
「うん。私もお手伝いに来たのよ。5人でやったほうが早く終わるしね〜」
喜多川双子と凛を拝む僕とキリは、気を取り直して、ゴミ拾いを再開する。
5時間後。
ボロ雑巾と化した僕たち5人は、ゴミ拾いが終わったことを職員室に知らせに行くと、化け物を見る目で見つめられた。
これで、双子と幽霊編は終わりです。
飽きずにここまで読んでくださった方たちに感謝です!