事情聴取
「葉月ちゃん、菜月ちゃん。ちょっといいかな?」
僕は喜多川双子を呼び止める。
キリはなんやかんやと忙しいらしく、事情聴取は任せたで!と言うと、僕の手に何やら色々と書き込まれたメモを渡してそそくさとどこかに消えていってしまった。
残されたのは僕とキリが渡してきたメモ。
仕方なく、そのメモを開いてみると、喜多川双子に聞く質問と共に、一言、
『重要なんは、how done it やなくて、why done it や。』
と書かれていた。
僕は日本語を愛する日本人。英語を愛するアメリカ人ではないので、英語は読まない。
決して読めないわけじゃない!
とりあえず、最後の一言は無視するとして、きちんと日本語で書かれている質問とやらを、先に喜多川双子に聞くことにしたわけだ。
「はい?なんですか?日向さん。」
栗色のふわふわ髪をなびかせて振り返る葉月と菜月。
「えっーと、おしゃべりで好奇心旺盛なサルみたいな関西人が君たちに質問があるそうです。少しお時間いいですか?」
「ええ。いいですよ。」
天使の微笑みを浮かべる葉月と菜月。
一つ一つの動作に品があり、思わず見惚れてしまう。
僕はキリから渡されたメモを取り出して、そこに書かれている質問を読み上げる。
「まず、最初の質問だけど……『菜月ちゃんに質問や。菜月ちゃんの寮室は葉月ちゃんの真上やろ?』だって?」
「はい。そうですよ。葉月が106号室で私が206号室です。」
僕はメモの下に小さく、『イエス』と書き込む。なんで英語で書かないかって?
さっきも言ったように、僕は日本語を愛する日本人で、英語を愛するアメリカ人じゃないからだ!
決して英語が書けないわけじゃないからな!
「じゃあ、次の質問ね。『菜月ちゃんは昨日の夜に変んなもん見たとか、変な音とか聞かんかった?』だって?」
「さあ?どうでしょうか?昨日はルームメイトのミナさんと会話が弾んでしまって11時ぐらいまで起きていましたが、そんな音はしませんでした。」
困ったようにはにかむ菜月。
「『なるほどなぁ……その後はどないしたん?すぐ寝たん?』って、なんでメモ内で会話が成立してるの?!」
「随分と疲れていたようで、11時半には夢の中でした。」
なるほど。メモメモっと。
「『じゃあ、菜月ちゃん。今日は狸寝入りでもええから、絶対に9時にはベットに入ってや。何があっても起きんといて。逆に葉月ちゃんは昨夜は全然眠れなくて眠いと思うけど、頑張って起きとくんよ。』だって。」
「「分かりました!」」
コクコクと頷く葉月と菜月。
「『 それと、喜多川家って、H県でも有名な名家やろ?』って本当なの?!」
「うーん……よく分かりませんが、お父様はどこかの社長さんだと、親戚の方達から伺ったことがあります。」
これで理解できた。
なぜ、敬語なのか、品があるのか、天使なのか、が。
二人はいいとこのお嬢様だったのだ!
「『後、なっさんにhow done it と why done it の意味教えてあげてな。多分、「僕はの日本語を愛する日本人であって、英語を愛するアメリカ人ではないから、英語は読まない!」とか言っとると思うから。ほな、おおきに!』だってぇぇぇぇ?!」
まあ、………読まないものは読まないから……ここは意味を教えてもらうとするか……
いや!決して読めないわけじゃないからな!読まないだけだ!
「はい……。意味を教えて下さい。」
渋々と聞く僕にも嫌な顔一つしないで丁寧に教えてくれる喜多川双子は天使の生まれ変わりに違いない。
「how done it は、『どうやったか?』とか、ミステリで言う、『トリック』ですね。」
「why done it は、『なぜやったか?』とか、ミステリで言う、『動機』ですね。」
分かりやすく教えてくれる喜多川双子様たちに感謝!
さて、ここでキリのメモを訳すと、
『重要なんは、トリックやなくて、動機や。』
ってことか?
なんでわざわざ英語で書くんだ?僕が日本語を愛する日本人であることを知っているのであれば、日本語で書けばいいのに。
この疑問を後々、キリに聞くと、
「なっさんの成績、五段評価で1の英語力を試しただけや。」
と、五段評価で2の英語力のキリに肩をすくめながら言われた。
どうでしたか?
今回のを読んで、大体幽霊の正体が分かってしまったのではないでしょうか?
分かった人はこっそり教えて下さいね(*´꒳`*)