作戦会議
「んで、キリ、具体的には何をやるの?」
お昼休み、僕とキリは南校舎の屋上で作戦会議。
協力すると言ってしまったからにはちゃんと協力するつもりだ。
「せやなー…..とりあえず、女子寮に行ってその幽霊とやらの正体を突き止めたいんやけど….」
「何言ってんの、キリは男子なんだから女子寮には立ち入り禁止でしょ。ほら、校則で決められてるし。」
「フフフッ…甘いでなっさん!だから忍び込むんや!ばれなかったら大丈夫やって!」
前言撤回。
やっぱりいくら協力すると言っても、協力できないことはできない。
「ダメです。キリが女装して忍び込もうとでも?」
「おお!ようわかったな!さすがなっさん!」
「……」
こいつは正気か?!
「でも、厳密に言うと、ちょっとちゃう。ほら!毎日午後8時頃になると先生が一部屋ずつ点呼をとって回るやろ?あの時に俺が男子寮におらんことがばれたらその時点でゲームオーバーや。やから…..」
ニヤリとするキリ。
「俺となっさんが入れ替わる。」
「……??」
「ちょっとなっさん、セーラー服脱いでくれへん?」
いきなりとんでもなことを言いだすキリ。
キリの右頬に僕の拳が飛ぶ。
「….ッ!女子に向かってなんてこと言ってんだ!」
「ちゃうちゃう!サイズが合うかどうかの確認や!なっさんには俺の学ラン着てもらうしな。」
「ん?なんで?….」
「やから…….」
キリの作戦を分かりやすくまとめるとこうだ。
キリは幽霊の正体を突き止めるため、どうしても女子寮に行く必要があるらしい。
だが、校則により、男子は女子寮立ち入り禁止で女子は男子寮立ち入り禁止になっている。
運よく、放課後、女装したキリが疑われることなく女子寮に入れたとしても、毎日午後8時頃になると先生が一部屋ずつ点呼をとって回るため、男子寮にキリがいないことがこの時点で分かってしまい、元も子もなくなってしまうわけだ。
だから、キリが僕のセーラー服を着て、日向夏になりきり女子寮に入る。僕は代わりにキリの学ランを着て、神原桐人になりきって男子寮に入り、点呼をとられる時だけに返事をすればいい。
どうせ、めんどくさがり屋の先生のことだ。寮室のドアを半分ぐらいあけてから、「おーい!神原桐人はいるかー?」と言うだけで、二段ベットの死角で顔を隠して適当に返事をすれば大丈夫だろう。
まあ、悪い作戦ではないが、ここで僕の頭の中に疑問が浮かぶ。
「ねえ、キリ、かつらもないのにどうやって僕になりきるの?」
「何言ってんねん。なっさんの髪の長さは俺とそう変わらんやろ。マスクかなんかで顔を隠してたら多分バレんわ。」
そうでした….なにせ、僕の髪はベリーショート。キリと同じぐらいの長さだ。
背の高さも同じぐらいだし、キリの言う通り、マスクで顔を隠したら、よく見ない限り分からないだろう。
でも、僕はあんまりこの作戦に乗り気じゃない。
「キリ、多分というか、絶対バレると思うよ。だって…..」
「だって…?」
「だって…そのぉ….背は同じぐらいでも、体形の問題とかあるし….僕も一応女子だから、いくらなんでも男子になりきるのは無理があるんじゃないかな?….」
「ブハッ!何言ってんねん!なっさんはおもろいわ!体形も俺とそう変わらんやろっ。ほら、胸なんかもペッタンコで…….ぐえっ!」
本日二回目になる僕の拳がキリの左頬に飛んだ。
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「ええ?!そんなことするよりも、普通に夜、先生が点呼をとったあとに忍び込めばいいんじゃない?そっちの方が忍び込める可能性が高いと思うのだけれど。」
凛にキリのアホな作戦の話をすると、こう返された。
いやいや、凛さん。女子寮に忍び込もうとするキリを先に止めましょうよ。
「あかんで日暮。先生は点呼をとったあと、寮全体のカギを閉めてまうねん。やから、閉められる前、夕食の後ぐらいに俺となっさんが入れ替わる。」
「なるほどねぇ……神原くん、頭いいのね。」
いや!頭全然よくないからね!
凛も目を覚まして!どうしてキリに協力的なの?!
「ところで神原くん。私もそのゴーストハントに同行してもいいかしら?」
凛が不敵な笑みを浮かべる。
なるほど…..凛さんはそれが目的か…..
ダメだ…..凛にもキリを止めることができないのか…..
こうなったら最終手段!
「いやーだよぉぉぉー!男の巣窟、男子寮になんか行きたくないよぉぉぉぉー!キリの馬鹿あぁぁぁぁ!」
ポイントは床をゴロゴロしながら手足をばたつかせることと、涙目でうるうるすること!
これぞまさに『駄々こね作戦!』
さて、キリの反応は?…..
「なっさん。そんなに可愛くないで…..」
僕を憐みの目で見つめるキリと凛。
凛までその反応?!
うううっ……いろいろ精神的にくる…..
もうダメだ…..
僕はキリに逆らうのを完全に諦めた。