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柊学園の関西人  作者: 天月ゆかり
第1章 双子と幽霊
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「ああああ~眠い~朝は~眠いのだぁ~朝は大っ嫌いなのだ~隣にいたらぁ~半殺しにしちゃうぐらいぃぃぃ~大っ嫌いなのだぁぁぁぁぁ~」



「なっちゃん!もう、その歌はいいから!毎朝毎朝、その歌で私まで朝を半殺しにしたくなっちゃうじゃない!」


ルームメイトの日暮凛ひぐれりんに怒られてしまう。

私自身、この歌を気に入ってるのに…..


「ほら、なっちゃんも早く制服着てよ!朝から下着姿でうろつかないで!朝ごはん遅れちゃうよ?」


下着姿でうろつく何がいけないのだろうか?

もともと人類は服なんて着ていなかったはずだ。それがアダムとイブが禁断の木の実を食べるから….


「なっちゃん!寝ぼけてないで早く服着なさい!」



「ふわぁーい……」


と、返事をしたものの、めんどくさい。ゴロゴロしていると凛に無理矢理制服を着させられる。

痛い痛い!そこ関節じゃないから!ありえない方向に僕の腕を曲げないでくれ!


「凛…..君は絶対にいいお母さんにはなれないよ。赤子の腕を折ってしまうね。」



「どういう意味よ?」


頬を膨らませてプリプリする凛。

まあまあ、となだめながら、とりあえず朝ごはんを食べに行こうと寮室のドアを開けると凛に捕まる。


「なあに?」


「なっちゃんの髪がベリーショートだからってまさか寝癖も直さないで行くつもりかしら?そんなの私が許さない……..」


その瞬間、冷たいものが僕の髪にかかる。

これは…..水?


「嫌だぁ!僕は水にかかると溶けてしまうんだ!お願いだから離してくれ!」


「寝ぼけないで!じっとしてたらすぐ終わるから!」


しばらくしてから凛のすきを見て逃走した僕は一目散に朝の食堂に向かって走り出す。

これ以上凛にいじられたくない!


「あー!なっちゃんが逃走した!誰か!捕まえて!」


後ろから追いかけてくる凛がなにか叫んでいるが、僕は振り返らずに寮を出て全力疾走!


女子寮は男子寮と向かい合わせに建てられており、朝ごはんを食べに食堂に行くには、嫌でも男子寮の前を通らないといけない。

今はみんな朝ごはんを食べに寮から出てくる時間帯だ。だから女子寮から飛び出した僕はちょうど男子寮からでてきた男子とぶつかってしまう。



「痛ったいやんけ!って、なっさん?」


顔をあげなくても分かる。この学園で関西弁を喋るのはキリだけで、僕のことを『なっさん』と呼ぶのもキリだけだ。

ということは、僕とぶつかったアンラッキーボーイはキリか。


「ああーなんだー。キリちゃんかぁ~ぶつかってこないでよ。」



「え?キリちゃん?!ってかなっさんまだ寝ぼけとんの?いい加減目ぇさましーや。」


ちょうどその時、手をブンブン振りながら凛が女子寮から飛び出してくるのが見えた。


「はぁはぁ…..疲れたぁ……朝からこんなに走るなんて….神原くん。なっちゃん捕まえてくれてありがとう!寝癖なおしてあげてたら急に逃走するんだもん。」



「ああ、女子寮から逃走してきたこの猛獣なっさんを俺が素手で捕まえたんやからな!」


誇らしげに胸を張るキリ。

偶然ぶつかっただけのくせに生意気な!


「じゃあ、これにて一件落着だね。僕は急に眠くなってきたから寮に戻ってもうひと眠りさせてもらうよ。じゃ!」


あくびを噛み殺しながら、二人に手を振ってUターンしようとした僕はキリと凛に腕をつかまれる。

そのまま、僕は二人にズルズルと引きずられて食堂に連行された。


**********


どんなに眠くてぼんやりしていても、朝ごはんを前にするとシャキッとしてしまうものだから不思議だ。

その、僕の目を一瞬で覚ました今日の朝ごはんは…..

つやつやと輝く白米がメインで豆腐とワカメのお味噌汁にこんがりとした卵焼きときんぴらごぼう。味付け海苔までついている!



「うわぁ~」


思わず歓声がもれる。

手を合わせてからつやつやの白米を口に入れようとしたとき、食堂の隅に喜多川双子の姿を見つけた。



「おーい!こっちこっち!」


手を振りながら二人を呼ぶと人だかりをかきぬけてこちらにやってくる。

よく見ると菜月が葉月の手を引いている。

どうしたんだろう?



「葉月ちゃん、どないしたん?目が真っ赤で顔色が悪いみたいやけど?」


味付け海苔をくわえていたキリが葉月の顔を覗きながら聞く。

確かに、葉月の胡桃のようなクリクリした目は真っ赤に充血していて、白い肌はさらに白くなっている。



「葉月、夜、眠れなかったみたいで。」


葉月は黙り込み、葉月の代わりに菜月が答える。


「そっか….まあ、初めて違う子と寝るときは誰だってあんまり眠れないものだよね。僕だって、一年生の時に凛と初めて寝たときは全く眠れなかったしね。慣れるとどうってことないよ。」



「そう….私は一年生の時になっちゃんと初めて寝たときはなっちゃんのいびきで全く眠れなかったわ。もう最近はいびきにも慣れたけどね。」


凛が僕に非難の視線を送ってくる。

やめて!そんな目で見ないで~



「違うんです….」


その時、黙り込んでいた葉月が急に叫ぶ。

それに驚いたキリはくわえていた味付け海苔を落とした。


ああ、もったいない!もったいないばあさんが来たら困るから僕が代わりに食べてあげよう。

三秒ルールはいろいろと便利だ。

味付け海苔をモゴモゴとしながら、葉月に向き直る。


「私!見たんです!」



「みはっへはひほ?….」 (見たって何を?)



「決まってるじゃないですか!…..幽霊….です…..」


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