双子
「ありがとうございます!教室は居心地が悪くって」
困ったように話す葉月か菜月。二人とも天丼を食べている。
「『私達のグループに所属』とか、あの人たちはアイドルかなんかなんですか?あと、いろいろと鬱陶しいです….」
ため息を吐く葉月か菜月。ダメだ…どっちがどっちなのか分からない!
そういえば、キリが葉月の方が髪が長いとか言ってたっけ?
二人の髪を凝視する僕。
しばらく、その栗色のふわふわの髪を見つめるが、よくわからない。
見つめすぎて目が痛くなってきた僕はこっそりと隣のキリに聞く。
「ねえ、どっちが葉月でどっちが菜月なの?」(小声)
「分からんの?こっちから見て右側が葉月ちゃんで、左側が菜月ちゃんや」(小声)
「ラジャー」(小声)
「それより、このカレーのシミ、どうするんや!」(大声)
「さて、何で喜多川さんたちは冴えない僕たちと一緒にお昼を食べようと?みんなあなたたちと食べたいでしょうに。お陰でさっきから食堂にいる生徒からの視線が痛い….」
僕は二人に気になっていたことを聞く。
「俺はなっさんから無視されて心が痛い….」
キリが何か言っているが無視。
「冴えないなんて!一緒にいると落ち着きます。クラスの女の子とか、男の子はなんかギラギラしていて怖いです……一言でも喋ると食べられそうで。」
微笑む葉月。
そりゃそうだ。この双子はいわばクラスのアイドル的存在。肉食になる男子と、何が何でも仲良くなろうとする女子。
二人にとっては居心地が悪くて仕方がないだろう。
だからクラスで浮いている僕たちのところに来たわけか。
「あの、よかったら、お友達として、仲良くなってくれたら嬉しいです….」
赤面する菜月。
「こんな僕でよければ。でも、僕と友達になったらもれなくこの関西人がついてくるけど、いいかな?」
「「ええ!もちろんです!」」
二人とも思わず拝みたくなるような天使の微笑みを向ける。
ああ、拝んどこ。
「ところでですが…あのぉ、お二人は付き合ってるんですが?」
菜月が言いにくそうに聞いてくる。
思わず周りをきょろきょろするが、誰も付き合っているような二人は見当たらない。
誰のことを聞いてるのだろうか?
キリの方を見ると珍しく、顔を真っ赤に染めている。
「ああ、やっぱり?!そうなんですか….」
キリの様子を見た葉月が申し訳なさそうに言う。
って、ちょっと待て。
「喜多川さんたち、もしかして僕とこの関西人のこと言ってるの?」
「え?違うんですか?」
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!! 本気ですか?!何言ってるんですか?!僕が?!このおしゃべりで好奇心旺盛なサルみたいな関西人と?!はぁ?!普通に考えておかしいだろ?!」
「すごい言いようやな…」
呆れたように取り乱す僕を見つめるキリとあわあわする喜多川双子。
「「あああ!本当にすいませんでしたぁ!」」
90度直角に体を曲げて謝る天使さん二人。
「あああ!そんなに謝らないで!ごめんなさい。取り乱した僕が大アホでした!」
なんとか二人を座らす。可愛い娘二人にこんなに謝らすなんて‼いたたまれないし、周りからの視線がものすごく痛い。
「僕たちはただの幼馴染で腐れ縁。付き合ってなんていないよ」
僕は自分を落ち着かせるために息を一つ吸い込むと言う。
「そうですか。私達も、すみませんでした」
「いえいえ、別にいいですよ」
僕が二人に微笑むと、ホッとした顔になる。
「そういえば知ってますか?!この学校、自立力をなんとかかんとか言って、私と葉月の寮室を離れ離れにしたんですよ!」
「そうなんですよ!生まれた時からずっと一緒だった菜月と別れないといけないなんて….苦痛でしかありません!こうなるんだったらいくらお父様の頼みでも断ればよかったです!」
可愛いお顔を歪ませてプリプリ怒る二人。
なんという学校だ!この天使二人を怒らせるなんて!
「ってことは、二人は来たくもなかった学校に急に編入させられたわけなん?お父様の頼みで?」
「はい。そうです。お父様が、来年には廃校になるかもしれないという情報をどこかで掴んできたらしく、この学校の卒業生であるお父様が私たちを入学させることでなんとか廃校にならないように尽くそうとしたわけです」
枝のように細い人差し指を形のいい唇に軽く当てながら首をかしげる葉月。
「でも、たった二人の生徒が編入しただけで、廃校が免れるのでしょうか?」
「そんなの決まってるやろ?こんな可愛い天使が二人編入したら入学希望生徒がめっちゃ押し寄せるに決まっとるわ」
キリの意見には僕も賛成。コクコクと頷く。
「「そんなっ!そんなことありませんっ!」」
そんなっ!そんなことありますっ!
顔を真っ赤にしながら抗議する喜多川双子をなだめるキリと僕に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。