編入生
始めて書く本格ミステリーです。
頑張ります!
感想、評価、レビューなどもらえると嬉しいです。
三時間に一本の電車しかこないH県の山奥の駅から、険しい山道を徒歩20分。
見えてくるのは大自然に囲まれた柊学園。
柊学園は男女共学の中学校で、全寮制。全校生徒約200人という少数派に対し、敷地面積はなんと600haという広さを誇る。
この学園のキャッチフレーズは、『大自然に触れながら寮での規則正しい生活で自立力を育み、世に羽ばたく良い子たちに!』だ。
敷地内のおよそ半分は山。残りの半分は無駄に大きい校舎やら寮やら運動場やらが広がっている。
そんな柊学園を一言で表すと、『面積が広いだけで他はパッとしない学園』である。
そのせいか、新入生徒数はだんだんと減少しているわけで、僕たちが二年生に上がっても、誰も『編入生とかいるかなぁ?可愛い娘だったらいいなぁ!』などという期待は微塵にも抱いていなかったわけである。
誰もが、『けっ!どうせ来年ぐらいには廃校になるであろうこんな学校に編入してくる可愛い娘なんているわけないやい!』と思っている中、編入生がいたら…しかも可愛い娘が二人もだったら…僕のクラスは間違いなくカオス状態に陥るだろう。
そう、今日みたいに。
始まりは一週間前、僕のクラスのおしゃべりで好奇心旺盛なサルみたいな誰かが職員室で盗み聞きした話からだった。
そのおしゃべりで好奇心旺盛なサルみたいな誰かが職員室にプリントを提出しに行った時の事。
珍しく、柊学園6代目の長澤校長が嬉しそうにそのおしゃべりで好奇心旺盛なサルみたいな誰かの担任(つまり僕の担任)に可愛い双子の女の子が二人、編入してくると伝えていたそうだ。
それを聞いたおしゃべりで好奇心旺盛なサルみたいな誰かは、提出するつもりだったプリントをその場に放り投げ、(ダメだろう…..)大急ぎで昼休みだった僕たちの教室に飛び込み、今聞いた話を大袈裟にみんなに伝えたため、さあ大変!
冴えない男子たちは少しでもかっこよくなろうと、筋トレを始め、群れるのが大好きな女子たちは『私たちのグループに入れようね!』『いいえ!私たちのグループに入るのよ!』と、喧嘩を始めてしまったわけだ。
確かに、全校生徒約200人のうち、約150人ほどは男子生徒で、残りの約50人ほどは女子生徒であり、数少ない女子にモテようと頑張る男子はいいのだが、その数少ない女子の中で争いごとになるのはあまりよくない。
結局、女子の喧嘩は男の先生6人が止めに入るほどの乱闘騒ぎになった。
さて、ここで問題です。
こうなったのは誰のせいでしょうか?
正解は、大袈裟に話を伝えたおしゃべりで好奇心旺盛なサルみたいな誰か!
そういうわけで、僕は、僕の隣に座ってカオス状態の教室内を楽しそうに見つめているおしゃべりで好奇心旺盛なサルみたいな誰かをじっとりとした目で睨む。
おしゃべりで好奇心旺盛なサルみたいな誰か―神原桐人は僕の視線に気がつくと、その整った顔の楽しそうな口元を悪戯に二カッと開き、真っ白な歯を見せ、僕に言う。
「おお、なっさん。怖いっちゅーねん。リラックスリラックス!そんな顔しおると編入生さんも寄ってこうへんで」
「誰がリラックスできますか?!この、おしゃべりで好奇心旺盛なサルみたいな関西人!キリのせいでうちのクラスの女子たちの喧嘩が大変だったんだからね!」
彼は僕―日向夏のことを『なっさん』と呼び、僕は彼のことを『キリ』と呼ぶ。僕とキリは小学生の頃からの腐れ縁で、あの頃からキリはおしゃべりで好奇心旺盛なサルみたいな関西人だった。
思い出すと吐き気がするほど僕はキリに振り回され、巻き込まれ、絶対にキリとは違う中学に行こう!と決意してわざわざこの柊学園に入ったのだが、キリもこの学校を受験。仲良く中学まで同じ学校になってしまったのだ。
「俺のせいであんなことになったんちゃうやろ!あの群れるの大好き女子たちが勝手に喧嘩しよったんや!俺はただ、真実を教えただけやって」
やれやれ、というように肩をすくめるキリ。
僕が何か言い返す前に、担任の山下先生が教室に入ってきたため、仕方なく席に着く。筋トレをしていた男子や、いまだに言い争っていた女子たちもわらわらと席に戻っていく。
それを片目で確認した山下先生は満足そうに微笑むと、わざと、いつもよりじっくりと時間をかけて点呼をとる。
そのため、早く編入生を見たいみんなはイライラしているようだ。
特に男子は編入生が教室に入ってくるのを今か今かと目をギラギラさせながら待っている。うん、気持ち悪い。
「今日からみんなと一緒に勉強する二人だ。自己紹介頼む」
だから、その二人が先生に呼ばれて教室に入ってきたときはクラスの全員、もちろん僕とキリも息を飲んだ。
例えるなら『天使』が一番しっくりくるだろう。栗色のふわふわの髪に真っ白な肌、胡桃のようにクリッとした目に桜色の唇×2
二人とも、トッペルゲンガーと見間違えるぐらいよく似ている。目を皿のようにして見つめても、違いが見つけられない。
「喜多川葉月です。」
「喜多川菜月です。」
少し小さいが、よく通る声。
キリ以外の男子全員の目がハートになった。(比喩ではなく)
そうなるのも頷ける。こんなに美人な双子が編入してきたらどんな男子でもこうなるだろう。逆にこうならないやつ(例えばキリ)は馬鹿だと思う。
キリは絶世の美女としか恋に落ちないらしい。これは僕たちがまだ小学1年生の時に教えてくれた。
キリは相変わらずの悪戯な笑みを浮かべたまま双子を見つめている。
ということは、この双子は美女だと認識していないわけか….
断言する。キリの目は節穴だ。今度、いい眼科を紹介することにしよう。
お昼休みになると、みんなに一斉に囲まれる双子。
よく見ると、違うクラスの連中も紛れている。
「どこから来たの?!」
「どっちがお姉さん?!」
「なんでこの学校に?!」
「どうやったらそんなに可愛くなれるの?!」
「寮の部屋どこ?!」
「私達のグループに入るよね?!」
「いいえ!私達のグループに所属するのよ?!」
こんな質問(?)が飛び交う中、僕とキリは教室の端っこの方から見つめることしかできなく、すごい量の生徒に囲まれて二人の声も聞こえない。
双子とのコミュニケーションを断念した僕とキリは食堂に向かうことにした。
この学園には北校舎と南校舎があり、一年生と三年生は北校舎。二年生は南校舎を主に使っている。
食堂は二つの校舎の間にあり、テラス風になっていて、この構造を僕はかなり気に入っている。
食堂のおすすめメニューはハンバーグ定食。これは一日一食しか作られないため、幻の定食と呼ばれているわけだ。
ちなみに僕は一度も食べたことがないが、食堂のおばちゃんと仲がいいキリは食べたことがあるらしい。これを聞いた時、僕がキリになんともいえない殺意を覚えたのは内緒だ。
僕はいつものカツカレー。
キリはいつもの素うどん。
僕たちはいつもの場所に座ると、手を合わせる。
「「いただきます!!」」
「にしても、ぜんぜん見分けがつかないほどの双子だったね。しかも二人とも美人さん。羨ましいなー」
カツカレーを一口食べてから僕は言う。
「ほんま?葉月ちゃんの方が微妙に髪が長いと思うんやけど」
「えっ!キリ、すごいね!僕なんて、目を皿のようにして見つめても違いが分からなかったよ」
「へへっ、まあな~。ほんの0.3ミリの違いやったしな。軽い近視のなっさんには分からんくってもおかしくないって」
「…………」
そもそも、僕たちの席は一番後ろの窓側だ。
キリはそんなところまで見ていたのか….
「あの、すいません…一緒に食べてもいいですか?」
しばらく無言で食事をとっていた僕たちは急に声をかけられビックリする。
僕は口に入れようとしていたカツをスプーンから落とし、キリは啜っていたうどんを吐き出す。
「うわぁ!キリ、汚い!」
そう言いながら、僕は声の主を振り返り、驚きのあまりカツを吐き出した。
「うわぁ!なっさん、汚い!」
キリが僕の真似をするが、そっちだってさっきうどんを吐き出したじゃないか!
それよりも、僕たちに声をかけた人だ。正確には『人たち』だが。
「「ああっ!ごめんなさい!」」
慌てて綺麗にアイロンがけされたハンカチで僕の口元を拭おうとする喜多川双子。
そう、僕たちに声をかけた『人たち』はさっき教室で囲まれていた葉月と菜月だったのだ。
僕はいいから、と伸ばしていたハンカチを手で押さえると、優雅な手つきでキリの制服で口を拭う。彼女たちのハンカチを僕のカツカレーで汚すわけにはいけない。
「うわあああ!なっさん!なにやっとんねん!カレーのシミが付くやろ!」
キリが騒ぐが、きれいに無視する僕。
「僕たちでよければ一緒に食べよう。」
ニコッと笑いかけると、少しびっくりしたような顔をした後、ホッとしたような顔をする双子。顔を見合わせると、僕に向き直り、天使の微笑みを見せた。