あおいちゃん
ここは私にとって居場所の悪い場所である。狭くて、圧迫されて、それでいて暗くて、息がつまる。いつからだろか?こんなことを感じるようになったのは。あまりの気分の倦怠感に一体ここがどこであったか忘れてしまいそうだが、ここは学校の教室だ。そして今は授業中である。私は重く、鉛のように重い体を、机に押し付けるようにして、突っ伏していた。このスタイルは授業中の私のいつものスタイルだ。耳から脳に伝わる教師の声、鈍い低い声だ。その音を頭に溶かし込みながら、なぜ自分が教室嫌いになったかを考える。つまり過去を振り返っていた。授業中ぐるぐる脳みそを思考させ、深く深く記憶の狭間を走り出す・・・が(なんだったっけ・・・?)と、自分でも思っても見ないほど思い出すことができない。確定的かつ大きな要因があって学校の教室が嫌い・・いや学校が嫌いになったはずなんだけれども。意外と覚えてないもんだなあなんて、のんきに思いつつも自分の記憶力のなさに愕然とする。まあでも元々人ととかかわるのは嫌いだった気がするし、人が大勢いるところは嫌いだったし、やかましいところ嫌いだったし・・・人が嫌いだったし・・・嫌い嫌いが多すぎて自分でも嫌になる・・・てゆうか人嫌いなのかもしれない私は・・・・。ちなみに゛かもしれない゛っていうのはなんだろう、自分を疑うわけではないが、実は自分でも認めたくはないが寂しがりやなのだ。これに関しては全然認めたくないが・・・すごーく認めたくない・・・認めたくなさ過ぎて死にたい。でも事実寂しがりやなのである。だから実際人嫌いなのか?と言われればどうなんだろうかと疑問を自分に投げかけてしまう。私はきっと人嫌いというよりは、好みが激しいといったほうがいいのかもしれない。普通の人は他人に対して許容範囲というものが、そこそこ大きいんじゃないかと思う。しかし私は相当狭い。受け入れるとか受け入れないというより、どこか生理的に拒否を覚えてしまう。そんなこんなをしていたらいつの間にか人自体を拒んでしまうようになっていた。うわっ・・・やばい人じゃん私・・・なんて今一瞬思ってしまったけれども、考えてしまうと悩みの迷路に迷い込んでしまうので、都合よく一瞬にして脳の記憶から消しておいた。こんなことをふつふつと考えていたら、鋭く高い音が頭に鳴り響いた。授業終了のチャイムがなったのである。今日も一日机に突っ伏してたわー・・・なんていうおバカさんは私だけだろう・・・。ホームルームが始まり、ひたすら雑音を聞き流し、ついに学校での仕事が終わった。気分は最高・・・私はいきなりハイになった。さて放課後はどうしようか。普通の高校生ならば、友達と遊んだり、部活動をしたり・・・と充実した放課後をすごすのだろうけれども、私はあいにく一人ぼっちだし、部活にも所属しておらず、そんな青春たりえる放課後なんて私にはありえないのだ。しかし私は一人の過ごし方が断然人よりうまいと自分で思っている。だから今日も一人ぼっちを満喫しようと、学校の裏側にある小さなガーデンのようなところに行くことにした。そこはとても静かで、落ち着くし、なぜか人気もなく全くと言っていいほど人がこない、この高校に入学して3か月近く立つが、いまだそこのガーデンで教師と草や花を管理しているおじさん以外を見たことがない。その場所は私にとっては最高の居場所なのである。私はカバンの中から、スマートフォンとイヤホンを取り出し、イヤホンを耳にしっかりと押し込み、好きな曲をスタートさせた。よしっと意気込み、少しだけ軽くなった足をガーデンへ向けた。こつこつを速足で歩く。ぼっちは歩くのが早いという都市伝説?みたいなものがあるが、これはかなり当たっていると思う。事実私は歩くのが早い。あまりに早すぎて家族に怒られてしまったことがある。歩くだけで怒られるのかこの社会は・・・非情だなあ・・・と皮肉った冗談を心を満たしているうちに早々とガーデンについてしまった。よし今日も誰もいないぞ・・・と嬉しくなる。ガーデンにある茶色い木の椅子にそそくさと腰を掛けて、スマートフォンをいじり、音楽を聴く。「ふぃー」なんて少しおっさん臭い言葉が口に漏れてしまった。今のぜってークラスメイトに聞かれたくない。聞かれてたら恥ずかしくて赤面死してしまいそうだ。てゆうかこの世の中に過去、恥ずかしさで死んだ人なんているのだろうか?いたらそれはどんなことなんだろう。顔真っ赤だったんだろうなーなんてアホなことを考えた。そんなことをしているうちに少し口が寂しくなった。そういえば、と思い、私はカバンをがさごそと探検してみた。おっ!と紙のパッケージに包まれたものをみつけを取り出し、私はそのものの紙のパッケージをびりびりと破り、そのものの銀の紙につつまれた部分をあらわにした。銀の紙もびりびりと破いてしまう。すると暖かく、柔らかくて、甘いつつまれるような香りが私の鼻孔を刺激した。そうこれはみんな大好きチョコレートなのだ。私はチョコレートがとても大好きだ。こんなおいしいものが世の中にあることが、この世の救いだぜ!なんて意味不明なことをマジに思ってしまっている。チョコレートをほおばり、口が甘い刺激に包まれる。幸せである。
こういうことである種の自分の心が満たされるところは自分の好きなところでもある。この時が止まったような時間をしみじみと心に沁み込ませて、普段の学校でのストレスを消し去っているのだ。そう、こんな時間がずっと続けばいい。寂しくなんかない寂しくなんか。私は一人でいいのだこうやって満たされて、幸せなのだ・・・とどこが少し空虚で、矛盾した幸福感を感じていた。時間は少し経ち、チョコレートもなくなり、そろそろ帰ろうかなと、耳からイヤホンを取り、荷物をカバンにしまい始めた。そんな時、珍しく草をかき分けて進む足取りの音が聞こえた。あー教師かなー?ガーデンを管理しているおじさんかなー?なんて思って振り向いた。私は完全に気を抜いていた。ってゆうかそりゃ気を抜いてるでしょ・・・リラックスしてたんだもん・・・。振り向いた首がぐっと固まってしまった。振り返った先にいたのは、同じクラスの女子だった。いや普通の人ならクラスメイトがいたくらいで驚きはしないが、私はなんせぼっちだし、人見知りだし、なんだかこう、唐突のコミュニケーションにとても弱いのだ。それもあっただろうが、一番驚いたのはそのクラスメイトが、私でも知っているクラスの頂点・・・女王だろうか?水無月唯であったのだ・・・。つまりクラスカーストのトップ、リア充の王、高校の王である(?)混乱しすぎておかしくなっているのが自分でもわかった。彼女はとてつもなく美人で、女の私からしても可愛いと感じるような容姿である。成績とかは普通なのであろうけれども、その可愛い容姿と、明るい性格、しまいには声まで美しいので、学校がはじまるやいなや、大人気の一年生となった子だ。まあでも別にしゃべりかけられないよねと心に暗示をし、自分に言い聞かせた。実際は手が震えている。いやなんで震えてんの私、ここは戦場かよ。頭がよくわからない言葉をひたすらぐるぐるを回転させていた。彼女はなぜかどんどん近づいてくる。こっちくんななんてリアルで思ってしまったのはこれで人生初かもしれない、こっちくんな人生初体験!とかなにいってんだわたしおちつけもちつけ「あれ?山田さん?」おい気づくなてゆうかそのダサい苗字呼ばないで・・・「えと山田さんだよね?」人違いじゃないですか?なんていってしまいたい「横座っていい?」ああもうだめだ人生終わりだ・・・。私は抵抗のしようもなくうなづき、横に座っていただいた(?)
「えーと山田葵さんだよね?」
「あっあはいそうです」
てゆうか距離が近いよみなづきしゃん
「よかったーあってたあってた」
すごいカースト最下位の私の名前もおぼてるのか、さすがっす
てゆうかまつげが長い目も大きい、肌も信じられないほど白くて雪のようである。
゛可愛い゛ この言葉はこういう子のためにあるんだと思ってしまった。
「ここあおいさんもしってるんだね」
もう名前呼びとはさすがリア充一味違うぜ
「そ・・そうですね」
「敬語やめよーよ!ためでいいよ?」
「あ・・てゃい」
壮大に噛む。世界で初の羞恥死しそうだ。
「ふふ、でもここ知ってるの私だけだと思ってたんだけど」
その言葉をきいて謎の優越感に浸る。やったリア充に勝った。私はなんとみじめな生き物であろうか・・・と自分で嫌悪した。
でも私毎日来てるんだけど、いつ来てたんだろ?おかしいな
「そうなん・・そうなの?」
敬語になりそうなのを、゛正しく゛直す
「うん、ここね、放課後来るんだよ」
「えっ本当ですか?いつ?」
と信じられず、思わず聞いてしまった、敬語であることも忘れて。
「うんと・・・・6時くらい?かな」
あーどうりで見たことがないわけだ。私がここに来るのは4時過ぎくらいだし・・・
「そうなんで・・だね」
「敬語になってるよー」
と小悪魔のような可愛い顔でいじられる、なんだかとてもくすぐったい
「ごめん、でもここいい場所だよね?」
「それはすごくわかる」
この学校にはいって初めて共感をした気がした。
「うん、そっか・・・・わかるひといるんだ」
彼女はその言葉をこっちを見ずに前を見ていった。横からみたその顔、目はずっと遠くを見ているように見えた。ここじゃないどこか。
「あおいさんはここに毎日くるの?」
「暇があれば」
「そっか嬉しいなもしかしたら同じなのかも」
「えっ?」
私は彼女の言葉に深さを感じてしまい思わず驚いた。
同じなのかも その言葉の意味は深くはわからないがどこがじんわりしていて重みのある言葉に聞こえた。
「あおいさん、いやあおい今日から友達ね?」
あまりに軽い感じに言われてしまったので一瞬混乱した。
「唐突だね」
「だめかな?」
断る義理もないが、受ける義理もない。でもどちらでもいいわけではない。
でも私に断ることなんてできない。そういう性格・・・いや運命だから。
「うん・・・いいよ」
「やった!」
彼女は顔を笑顔で満たした。その顔は私が生きてきた中で一番きれいで美しい顔だった。正直可愛いと思ってしまった。言っておくが私は女子が好みとかそういう性癖はない・・・と信じたい。
「じゃあ明日授業が終わったらここでまた会おう」
そんなことを言われ断る時間、考える暇もなく連絡先を交換した。
やったぜ友達が増えたぜ!なんて喜ぶほどの考えは頭に浮かばなかった。
「じゃあね!また明日」
彼女はとっとっと、と駆け足でガーデンを去っていった。
私は静かなガーデンに一人取り残され、静寂の中、一連のできごとを夢ではないかと疑った。こうしてなんだかよくわからないうちに友達ができたのである。