3.紅い少女の決意
―――ふむ。こうして見ると、人間というのも存外愛らしい所があるものだな。
人間の姿を取った《白竜グロムウェル》、白髪の青年になったグロムは、本体である白竜の身体にもたれかかったまま、先程助けた人間の子供―――紅髪の少女を見つめていた。余程疲れていたのか、既に丸一日寝続けている。
「ん…………んんっ…………?」
目を擦りながら、少女が目を覚ます。
「ここは…………?」
「森の中だな」
「えっ…………?」
少女が吃驚した表情でこちらを振り向く。そして、若干警戒しながら口を開く。
「あなた…………誰?」
「ドラゴンだよ」
「えっ?」
グロムはにやりと笑い、未だもたれかかっている本体をパンパンと叩きながら説明をする。
「だから、ドラゴンだよ。一般的には《白竜グロムウェル》と呼ばれているな。こいつが俺の本体なんだ。まあ、本来俺達ドラゴンには名前なんぞないが、便宜上名乗る時は一般に呼ばれている名を使うな。この姿の時はグロムと呼んでくれ」
いきなり説明したからか、混乱の極みにある少女をニヤニヤしながら見つめる。人と接する機会が少ない為か、こういうちょっとした反応だけでも十分な娯楽になるのだ。そして、普段使わない人間の姿に慣れていないため、表情は駄々漏れである。
「なあ、俺も名乗ったんだから、そっちも名前を教えてくれ」
「えっ、あ、はい。エスカって言います」
「そうかそうか。エスカか。なあ、エスカ。何か、望みはないか?」
「えっと…………望み…………?」
「ああ、望みだ。俺はこれでも一匹で国を複数落とせる力を持ったドラゴンだ。余程の事でない限り大抵の願いは叶えてやれるぞ?冨も、名誉も、力でさえも与えてやれる。俺に、願ってみないか?」
そうは言ったが、実際は望みを叶える気などなかった。ちょっとした悪戯の様なもので、ほとんどの場合碌な事を願う人間がいないので、聞きはするものの、どうこうするつもりはなかった。ドラゴンには確かに大概の願いを無理やり叶える力はあるものの、「叶える」とは一言も言ってないのだから。だが、見てしまった。
「わたしを鍛えてください。お父さんとお母さんの命を奪った|一角穴熊を、殺したいんです」
そう言った彼女の瞳には、憎しみと、決意の籠っていた。だから―――
―――暇つぶしには、丁度いいかもしれんな。
彼女は、望みを叶えるにたる人間だと判断した。欲に滾った奴らとは違い、「鍛えてください」と彼女は言った。それはつまり、自身の力で倒すつもりだということだ。ならば、その意思には答えてやろうとグロムは笑った。