エスカ2
「なにぃ!?一角穴熊が出たじゃと!?」
村長さんは、村の男手を集めて一角穴熊討伐部隊の編成を指示してくれました。そして、わたしに一言。泣いていいんだよ。と言ってくれました。辛かっただろう、と。ただ、それだけの言葉なのに、わたしの目からは、雨のように、滝のように、堰を切ったように沢山の涙が溢れてきました。
何分かして。
「もう、大丈夫かい?」
わたしの頭を撫でながらそんな言葉を掛けてくれたのは、村のリーダーとしての村長ではなく、唯一人の、優しいおじいさんでした。
「はい、もう大丈夫です。ありがとうございました」
「…………そうか。では、辛かろうが、案内を頼めるか?」
「はい」
わたしは、一角穴熊討伐部隊に選ばれた十数人の狩人達と村長を案内して、一角穴熊に遭遇したポイントへと向かいました。
「こりゃあ…………ひでぇな」
狩人の一人が呟きます。両親が果敢に闘った場所、そこには…………強者が暴れた、生々しい破壊の後と、夥しい量の血が撒き散らされていました。
気付いたら、その場に座り込み、泣いていました。それはもう、一目を憚らず、ただ悲しくて、悲しくて、泣き叫びました。心の中では、まだどこかで両親が生きているかもと期待していたのかもしれません。ですが、これだけの血です。もし討伐に成功していたのなら、帰ってこない理由等ないのですから。でもやっぱり、辛いのだけはどうしようもなかったです。村長さんも、黙って頭を撫でるだけでした。
その後、しばらく戦闘跡を中心に一角穴熊の痕跡がないか調べてみたもののこれといった成果はなく、すごすごとルオ村への帰還を果たすことになるのだった。
それからの日々は、両親のいなくなった家で、自分でも何をして生きていいのか分からず、ただぼんやりと過ごしていました。時々、誰かが話しかけてくれた気がします。でも、曖昧に答えて、それから彷徨うように生きる。わたしにとっては、色のない日々。
そんなある日、少しばかり薬草が足りなくなって、森の中に入りました。ですが、三匹の森狼に追いかけられて、なんで自分がこんな目に遭わなければいけないのかと、神様を呪います。
―――死にたくない。わたしはまだ、死にたくない。せめて、あいつを倒したい…………。
両親を奪った、一角穴熊。せめてあいつに復讐だけでもしなければ、死んでも死に切れません。だから―――
『人間の子供よ。聞こえているか?』
―――この声が聞こえた時、運命を感じました。