エスカ1
初めまして、わたしの名前は、エスカと言います。ルオ村に住んでいる女の子です。
始めは、あの日からでした…………。
「お父さん、お母さん、狩り、楽しみだね」
「そうだねえ。最近は何故か獲物が少ないから、ここら辺で大物でも狩っておきたいねえ」
「あなた、今日はエスカもいるんだから、無茶は出来ないわよ」
「分かっているよ。本当に、相変わらず君は心配性だなあ」
その日は、家族三人で狩りをする予定でした。わたしも13歳になり、ようやく準成人として認められたので、狩りに出掛けることを許されたんですよ。と言っても、初日なので、仕留めた獲物を運ぶのを手伝うのと、解体の練習くらいしかさせてくれない事になってましたが。
森に入り、しばらくは順調でした。お父さんとお母さんが弓や投げナイフで獲物を仕留めるのを必死で見て、背負子を背負った私はたまに生えてる使えるキノコや薬草を取ったり、その場で解体のコツを学んでいました。ですが、
「なあ、少し、様子が変じゃないか?」
「ええ、そうね。この辺り、どう考えても静かすぎるわね」
「え、そうなの?」
「今日が初めてのあなたはまだ分からないでしょうけど、いつもこの森は、大体30分もすれば大なり小なり獲物がいるんだよ。でも、もう一時間は鳥の鳴き声さえ聞こえない」
「…………あなた」
「そうだね。今日はもう帰った方がいいだろう。このことを村にも伝えた方がいい」
バキ、バキバキバキバキ。木の枝が簡単にへし折れ、幹でさえも一分と持たずに砕け散りました。森の奥から現れたのは―――
「…………一角穴熊」
一角穴熊。ルオ村周辺の森で一番危険な魔物であり、一角穴熊を倒したら村の英雄として扱われるような、そして、狩人として一度は狩ってみたい最上級の獲物でもあります。ですが、魔物はほぼ全ての種がまともな生態系の生物よりも強力な個体だそうです。
「エスカッ!逃げるんだ!」
「エスカッ!逃げて!」
お父さんとお母さんが、ほぼ同時に叫んでいました。わたし達には、一角穴熊を倒す程の力はありませんでした。
「けどっ!」
「いいから逃げなさい!あなたじゃ足手まといよ」
「そうだ。折角僕らが英雄になれそうなのに、邪魔をしないでくれよ」
二人だって怖かったはずなんです。勝てるはずのない勝負になるのに、わたしを逃がすために、あえて突き放してくれている。
「私たちの分まで生きてね」
「村の皆の事は頼むよ」
それ以上、反論することなんて出来ませんでした。二人に背を向けて、村に走りました。両親の命が散り、凶暴な獣が暴れる音に耳を背けながら。