2.森の中での遭遇
―――ふむ。この森ならば人間も不用意に近づいてくることはないだろう。それに、食料となる物も多い。
暗い夜の空を、一頭のドラゴンが飛んでいた。《白竜グロムウェル》それがこのドラゴンに与えられている名前である。前の住処を不用意に焼き尽くしてしまったグロムウェルは、新たな住処となる森を見つけ、早速大地へと降りた。その体躯と翼を折りたたみ、巨大な岩の様に丸くなって睡眠を始めた。
…………。
……………………。
………………………………。
―――うん?この気配は…………人間か?それも、気配が弱いし薄いな。子供…………それもとても良いとは言えない生活を送っている者か。それと…………これは獣か?三匹いるな。人間の子供が肉食の獣に追いかけられているのか。知ってしまった以上、ただ放っておくというのも寝覚めが悪いか。仕方ない。
『人間の子供よ。聞こえているか?』
(誰っ!?)
『今は我の事などどうでもいいだろう。それより、助けてやろうか?』
(た、助けてっ!!まだ、死にたくないっ!!私はっ!!)
『そう慌てるな。此方の指示に従えば助けてやる。そうだな、お前から見て右に走るといい。少しすれば、白い岩の様な物が見えるはずだ。そこに登れ。そうすれば、お前を追っている獣達を退けよう』
(…………っ)
子供の気配が向きを変え、此方へと向かって動いてくる。体力が限界に近いのか、若干だが獣との距離が縮まり始めている。それでも、このペースならなんとか追いつかれる前に辿り着けるだろう。
ドスッ、と子供の気配が翼の辺りにぶつかる。子供に逃げ場はなく、獣も徐々に近づいている。子供は助けてと泣き叫んでいるが、混乱して上に上る気配はない。
―――やれやれ、獣達は、目の前の獲物に気が行き過ぎて、私がいることにも気が付いていないようだ。本能に従っていれば、その命を散らすこともなかっただろうに。
ムクリと、子供に注意しながら身体を起こす。ようやく気付いたのか、三匹の狼も腰が引けた姿勢で牙を剥いて威嚇してくる。正直、滑稽だ。子供も混乱が行き過ぎて呆然としているが、今はそれでいい。軽く腕で薙ぎ払い、最初の命を刈り取る。次に地面に叩きつけ、二つ目を刈り取る。最後の一匹は鋭利な爪を一振りし、狼の首を切断する。そして、子供の方を見ると、明らかに怯えた表情で、一歩踏み出しただけで恐怖のあまり気絶していた。
…………ちょっと締まらんな、と内心思ってしまったのは一人(一竜?)だけの秘密である。