我が家は大規模ダンジョンのある村の雑貨店です。
かなりのゆるゆる設定ですので、軽ーくさらさらと読んで頂けると思われます。
世界各地にあるダンジョン。
突如出来るその場所は様々なモンスターがうようよ闊歩してるような危険な場所だが、その分お宝やらアイテムなんかもある訳で。
一攫千金を狙う息荒い者や、腕試し的に暴れ回る者‥‥‥‥‥所謂、冒険者達が日夜頑張ってダンジョンへ入って行く。彼らは程よく装備やアイテムを買う為お金を落としてくれるので、ダンジョン近くの村や街は潤うのだ。よって冒険者はよっぽど性格やら問題やら起こさない限り歓迎される所が多い。
さて、そんなダンジョン近くの村に住む私リリーは、お婆ちゃんの雑貨店で働く二十歳ピチピチの筈だ、是非とも彼氏が欲しいのに何故かモテない。
昼夜問わずダンジョンに挑む人は居るので、大きい街や都市などはフルタイム営業が当たり前らしい。が、ここはしがない田舎な村。だけど、フルタイム営業。
昼間はお婆ちゃんが夜は私が店番で週に一日は店を閉める。と言うのが五年前からのサイクルになっている‥‥その前はのんびり昼間だけだったりお婆ちゃんの気分次第で休日が増えたり減ったり。お婆ちゃん的には昼間だけで良いじゃんって未だにぼやいているけど、村長が頭が床にめり込む位の土下座をしてきてお願いだから営業時間長くして!村の為だからぁ!って涙ながらに訴えてくるから仕方なく今のようになった。あの時の村長は下手なモンスターより危機迫っていて怖かった。たまに夢に出てくるもの。
そもそも我が村の近くにダンジョンが突如出来たのが五年前だった。
冒険者組合の調査では、なんと規模は大規模・階層は二百までは確認出来たがそれ以上はモンスターの強さがはね上がり、次の階層へと続く階段を確認し戻ってきたとの事。のんびりマイペース人間ばかりのこの村で、一人真面目な村長が我が村には荷が重いよと生え際を日々後退させながら既存の店や宿に営業時間をっ!と交渉‥‥いや土下座して回り、新しく店や宿屋やってくれる人探しにあちこち駆けずり回ったのも、今となれば懐かしい。
まあ村長は努力の甲斐あってか立派なつるっぱげになり、村の店もフルタイム営業をしているし宿屋や店なんかもそこそこ増えた訳だ。村長が信用出来る人材探しをしてのんびりまったり田舎な村が程よく発展し、初心者からベテランまで特に不満なく過ごせるし快適な村と評価を得ている。
夕暮れ時になり、お婆ちゃんと店番を交代してカウンターに入って、丸椅子に座る。そして客が来るまではモンスター図鑑なるものを読む。これがまた中々面白くて、興味深い。
例えば、二十階層位までにいる初心者向けの小型芋虫のモンスターことキャーチの説明が、『小型の芋虫。体長一メートル 体重二キロ前後 きっといつかは蝶になると夢を見るキャーチ。哀れ彼らは一生芋虫さ。誰か蝶にはならないよと教えに行こう!』と、終始この感じ。作者名はダンジョンボスって書いてあるけど、誰に見せても悪ふざけのペンネームだよな~で終わる。でもこれ、ダンジョンの宝箱から出てきたし私はダンジョンボス本人だと信じていよう。
そうしてダンジョンボスについて考えていたら、カランと店先に吊るしているベルが鳴り、夕暮れ一番のお客様の来店を知らせる。
「リリー、傷薬五つもらえるか。」
「あらハンスさん、お久し振りです。随分早いですね?リベットの中級者向けダンジョンに行くって言ってたのに。はい、どうぞ傷薬です。1,000リムになります。」
「ん、ありがとよ。目当てのアイテムが有ったんだがな、道が落石で通行止めっつうし迂回するにも薄ら闇の森通るのも気分じゃないから止めて帰ってきた。」
常連客のハンスさん。
五年前の調査にも参加している程の熟練の冒険者だ。私は心の中で熊さんと呼んでいる、お婆ちゃんは普通にデカブツと呼んでいるが笑って受け流してくれるハンスさんは懐の広ーい男なのだ。腕っぷしもあるし懐も広い、あれ?いい男ではないか!!是非私を貰ってはくれないものか?
「ハンスさん、彼女募集してません?」
「ハッッ!?いきなりなんつー事言うんだよリリー。熱でもあんのか?」
「熱もないし正常ですよ、ほら懐の広い男だなぁ~って思い返してたらつい。」
「ついってお前。はあ、こんな三十路過ぎたおっさんに冗談言うなよな、へこむわ。あ、そういや組合の掲示板見たか?」
「今日は組合行ってないですからねぇ、知らないです。何かあったんですか?」
その大きな体を揺らしながら話を逸らすハンスさんに冗談じゃないのになーと追い打ちしない私は偉いと思う。だが、気付いてしまったからにはハンスさんが素敵に見えてくるから諦めない事にしよう、私はガンガンに行くタイプである。
こう見えても私、冒険者組合に入っている冒険者の顔も持っているのです。休みの日しか行かないし、月に一回行ければいい程度だから職員の人か常連の無駄話をする人位しか知らない情報だけどね。まあそんな事はどうでもよくて、掲示板に何が書いてあったかだ。ダンジョンの情報が書かれるので冒険者はダンジョンに入る前にまず冒険者組合へ顔を出す。
「百階層にディマが出たらしいぞ、しかも変種だ。組合でも高く買い取るみたいだぜ、アレッカのやつも結構乗り気でよ。」
『ディマ』とは二百階層に出てくる巨大な蟹だ。二百階層に行かないと出ないので、たまに組合が売り捌いているがあれが馬鹿高い。仕留めてくれば一攫千金の獲物でもある、それが普段の百階層上に出現‥‥‥‥‥中級者辺りがこぞって夢を狩りに行くだろうなぁ。
因みに、モンスター図鑑にはこう書かれている。
『巨大型の蟹。体長 ハサミは一律五メートル(後は個体毎にピンきり)体重(以下同文) とっても大きな蟹、ハサミの身はプリプリさ!ミソも中々イケるんだよ、僕の手土産に是非。』
手土産に最適らしい、まあ会いに行く事はないだろうから片隅にでも覚えとこう。しかし、やっぱ身はプリプリか‥‥‥食べてみたいなぁ~。
「ハンスさんは行かないんですか?私ディマ食べたいんですけど。あ、それとも彼女にしてくれます?」
「だから冗談は「至極真面目に言ってるんですけど」‥‥‥‥‥マジかよ。」
「ええ、マジですけど?」
「いや、ちょ、そのぉ‥‥‥‥ダンジョン行ってくる!!」
真っ赤な顔して店を後にしたハンスさんを見送って、カラランっと勢いよく鳴ったベルにこれは頑張ればイケるぞ!とにやけた。
次の日やってきたハンスさんが、ディマは先越されたらしくお土産にどういうつもりで持ってきたか知らないがキャーチ寄越してきたので、図鑑に書いてある通り、君は蝶にはなれないよ。と教えてあげた。