答え合わせ
ここは『二人』だけの真っ白い部屋。
ここは哲学部という自称部活動で使っている部屋。
ここは彼女らが心を楽に出来る唯一の部屋。
「一人だ」
「……そう」
いつものこと。そう言って彼女はこの部屋に一つあるパイプ椅子に座って丸いテーブルに頬を乗せる。
「さて先輩、今日は何の話をするのですか? 昨日の愛の証明です?」
「……そうだね、何を話そうか考えていなかったよ」
目にクマ。今日もいつもと同じ夢を見たか、と『 』は思った。
「先輩、何か悩んでいたりしてます? 良ければ相談しますよ」
「…………君は」
顔をあげて真正面に何もない、白い壁に視線を向けて。
「なぜ自分を認めない?」
「――」
『 』は唾液を飲み込み、息を止める。
続けて言った。
「一人称を君が使った形跡がどこにもないんだ。日常生活でも学校にいるときでも。ほら、体は自由にしているし、現に今も口を交互に使っているじゃないか」
「……よく見てますね」
目がどんどん萎んでゆく。彼女ではなく『 』の目が萎んでゆく。
「私は君を愛しているからね。もう一人の君を一人の男性として愛しているから。私の勝手なワガママで君を生み出してしまったし、ベッタリと甘えてしまっている。だからずっと見ている。愛しているからこそずっと見ているんだ」
――そう彼女は二重人格者だ。
元々小学校から壮絶ないじめを受け、中学時代には好きだった男子にも嫌われ、女子からも散々何かしら酷いことを言われ続けてきた。
そんな中、彼女は自分を愛することを思いついた。
そうだ、自分だけを愛していればいいんだ。
でも愛するってどういうことだろう? 分からない。
ずっと悩みながらも嫌味を言われ続け、でたらめな嘘にも騙され、必要なものがよりによって無くなる。
孤児だったこともあって、一人で沢山のモノを抱え込み、傷ついてついには彼女が欲しがってたものが出来上がった。
もうひとりの自分。彼女が愛すべき自分。優しくしてくれる自分。甘えても許される自分。
それが『 』だ。
「……そんなの嫌なんだよね、先輩が愛してくれるのなんて」
「どうして? なぜ嫌なんだい? 私は君のことが本当に好きなんだよ。それは君も気づいているからずっと甘えることも出来たし愛することも出来る」
「でも結果逃げているだろ? 現実を。見たくないんだそんなの耐えられない」
「やはり君は優しいよ。今の言葉ですぐに引っ張られそうだったよ。でも今回はダメ。それは受け入れられない」
『 』は突然テーブルを叩き、荒だった口調で話した。
「ふざけんな! そんなのは嫌いだ! ずっと家で寝っ転がっている猫か! それで僕はその猫の飼い主か!!」
「ふふ、やっと僕って言ってくれた」
「そんなのはどうでもいいんだよ! 僕だけに面倒事を全部押し付けてお前が大っ嫌いだ!」
彼女は溜息を出し、
「……じゃあどうすると言うんだい」
「吊り自殺でもするよ」
「そうなると私も一緒に死ぬのだけど」
「うっ……」
またも萎んでゆく。
「結局君は私から逃げられないんだ。ゆっくりと愛してゆくとしようか」
ふふふ、と笑う彼女。
「じゃあ今日は……どうしようか」
鞄を持ち部屋から出た彼女は、不敵な笑みを浮かべて歩き出した。
なんだか終わりがちゃんと締まらなかったようなというか締まらなかったですがラボラトリーはこれで終わります。ここまで読んでくれた皆様、ありがとうございます。