仕掛け1
「例えば君に愛があるとして――――」
夕焼けで緋く染まる部室で先輩はこんな風に切り出した。
「それを証明するのは誰なんだろうか」
「……そんなこと急に言われても困るのですけど」
「特に深い意味は無いよ、時々このような夕焼けに心を酔わされて詩人のマネをしているに過ぎないから」
「さいですか」
なんとなく真似てみようと肘を机に乗せ、顎を手のひらに置いて窓の外を眺めてみる。先輩と違ってじっと眺め続けてもそのような気持ちにはならない。
「君は理屈で考えようとするからいけないんだ。まず体を落ち着かせてあるがままに自然のままに体を風景に委ねるんだ」
体を風景に委ねるって……要は何も考えずにいるということだろ?
だけど一度でも説明されると頭で処理しようとする神経系が必死に働くものだから余計に出来無くなったような気がする。
「ふう……君のひねくれた頭もまだまだ直らないものだね」
「今すぐに直せと言われても無理ですって普通」
「まあその頭も私は好きなのだけどね」
……先輩は意図しているのかしてないのか分からないけど恥ずかしいことをよく言うものだからこっちまで恥ずかしくなる。
赤く染まった顔を隠して苦し紛れにこう言った。
「……それでさっきの愛の証明っていうの、先輩はどのように考えているんですか」
「ああ」
組んでいた足を正し、
「――分からない」
「え?」じゃあなんで質問してきたんだ?
「心にあるものをどうやって証明すると言うんだ君は。まあだから哲学部なんてものを作って人を呼ぼうとしたけどね」
「……じゃあ先輩は愛と言うものを知りたくてこんな部を作ったんですか」
横に首を振る。
「それだけのためかもしれないし、そうじゃないかもしれない。私自身もなんで作ったのか覚えてないんだ。全く不思議なことにね」
ふーん、と呆れた顔を作ると、視界に入ってきた時計を目にやる。
「もう時間だね……」
「そうですね……」
「じゃあ私は帰ることにしよう」
先輩はテーブルの上に置いていた本を入れ、鞄を担いだ。
ぎい、という音が、次にバタン、と響かせた。
伏線貼るのが苦手なのでその練習として投稿しました。ちなみに一応伏線張っているんですけど解釈によっては伏線じゃなくなるのでそこまで考えないでください。後、この話だけでも分かる伏線(というよりはちょっとした制限?)があるんで探してみてください。