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三人でデート?

 今、私の右側には坂上がいて、腕なんて組みながら歩いている。そして左側には由起彦がいて、やはりこっちも腕を組んできている。

 なんだか捕縛された犯罪者みたいな気分だ。

 どうしてこうなった?




 時は数日前に遡る。

 家がやっている和菓子屋では、バイトとして坂上を雇っている。

 高校三年生のこいつは、中学三年生の私の事を好きだなんだと言って付きまとってくる、ウザい奴なのだ。

 その日は同じシフトだった。


「みこちゃん、お願いがあるんだけど」

「取りあえず話だけは聞いてあげるわ。何?」

「僕とデートして」

「お断りします」

「いや、頼むよ。今、すごい困ってるんだよ」

「ん? 困ってるからデートなの?」

「同級生で、僕の事を好きだって言ってくる女子がいて、他に好きな娘がいるって言っても全然諦めてくれないんだよ」

「女の人に愛想ばっかり振りまいてるからそうなるのよ。自業自得よね」

「いやまぁ、そう言われると弱いけど。好きな娘がいても諦め切れない。いつまでも待ってるから、って言ってくるんだよ」

「ストーカー的な?」

「いや、すごく真面目な娘なんだよ。出来れば傷付けたくないんだけど、どうしようもないし、みこちゃんと仲の良いところを見せて諦めさせたいんだよ」

「でも私達って、仲良くないよね」

「そんな事言われると傷付くんだけど。偽のデートでいいし、仲の良いふりしてよ」

「いや、あんたって仲の良い女の人、いくらでもいるじゃない。お店の常連客とか。そういう人に頼みなよ」

「それで新しく変な誤解を生みたくないし、やっぱり本当に好きな人と仲の良いところを見せないと納得してくれないと思うんだよ」


 うーん、臆面もなく私の事を好きだと言ってくるところが既に私の好みではないのだが。

 でも実際、こいつは本当に私の事が好きらしい。

 以前、私を賭けた早食い競争で、私の最低最悪な手料理を食べ切る寸前までいく根性を見せたのだ。あれには少し心を動かされた。

 本気で困っているみたいだし、無下に断るのも悪い気がする。

 どうしたものか。


「そんなの許せるか。どさくさ紛れにデートする口実作ってるだけだろ」


 仁王立ちして坂上を睨み付けているのは、幼馴染みの由起彦だ。いつの間に来てたんだ?


「いや違うって。本当に困ってるんだよ。助けてよ」

「まぁ、困ってるのは本当みたいだし、助けてやらなくもないわよ」


 私だって鬼じゃないのだ。人助けのひとつやふたつ、してやらなくもない。


「いいや、許せない。どうしてもって言うなら、俺も付いて行く」

「それじゃ、デートにならないじゃない」


 坂上、かなり情けない顔をしている。


「要は仲の良いところを見せればいいんだろ? みこと一緒に写真でも撮ればいいじゃないか。そん時俺が写ってなきゃいいんだ。本当に二人だけで行く必要なんてないだろ?」

「まぁ、そうよね。こいつがどさくさ紛れに何かやらかしてくるかもしれないし、護衛は必要だわ」

「うーん、じゃあ、それでいいよ。とにかく助けてよ」


 かなり困っているようだ。仕方ない。一肌脱ぐか。




 で、今に至る。

 坂上が腕を組んできたので、対抗して由起彦も腕を組んできたのだ。あれ? 別に今腕を組む必要はないのでは?


「いや、離してよ。歩きにくくって仕方ないわ」

「でも仮にもデートなんだし」

「坂上が離さないなら、俺も離さない」


 先が思いやられる。

 とにかくここは遊園地。いろいろなアトラクションを回りながら、その都度写真を撮っていく。


「さすがみこちゃん、笑顔は完璧だね」

「客商売ですから」


 由起彦は常に憮然としている。

 私も坂上とくっついて写真を撮るなんて、いい加減うんざりなんだけど。

 でも一度承諾したのだ。ピースなんかをしてせいぜい仲の良い写真を撮りまくる。


「お昼もおごるし、好きなの言ってよ」

「当然よ。由起彦、何食べる?」


 遊園地内のレストランで、容赦なく高いのを選ぶ由起彦。


「水野君もせっかく遊びに来てるんだから楽しみなよ」

「次のアトラクションは、俺とみこで回る」

「まぁ、いいよ。入り口で写真さえ撮れればそれでいいよ」


 そして由起彦が選んだのはジェットコースターだ。

 そう言えば、私はジェットコースターなんて乗ったことないぞ? 列が進むにつれ、恐怖が高まってくる。


「みこ、大丈夫だし」


 由起彦が手を握ってきたので、少し安心する。

 こいつはこうやって時々頼りになるのだ。

 しかし怖いものはやっぱり怖かった。


「ギャー」


 はしたない絶叫をしながらどうにか終える。


「みこちゃん、顔真っ青だよ」

「あんなに怖いとは思わなかったわ」

「水野君も、もっと相手の事考えたげないと」

「いいだろ、全部回らないともったいないだろ」


 由起彦はエスコート下手なようだ。まぁ、いいけど。

 メリーゴーランドで手を振っているところを坂上が撮影する。こういう時、客商売の威力が発揮される。にこやかに手を振って、写真に収まる。

 観覧車に乗り、坂上と仲良く写真に収まる。

 そしたらもう、ここでの任務は完了だ。


「見て見て、由起彦、人がゴミのようよ」

「せめて、ありんことか言えよなー」

「はー、君ら本当に仲良いよね」

「そうよ。幼稚園以来の仲だからね」

「坂上の入り込む余地なんてないぞー」

「幼馴染みはどこまで行っても幼馴染みだよ。付き合うのは別の人だって少しも不思議はないよ」


 由起彦と二人、顔を見合わせる。


「それにしたって、幼馴染みの絆は変わらないのよ」

「そういう事にしとくよ」


 坂上が肩をすくめる。

 そんなこんなで、どうにか全部回り終えた。

 由起彦と坂上のつばぜり合いで、かなり疲れた。




 坂上と駅で別れて帰り道。


「由起彦、まだ怒ってる?」

「当り前だろー。みこが安請け合いなんてするから」

「仕方ないじゃない。坂上、本気で困ってたし」

「俺の怒りは収まらない」

「分かったわよ。何でも言う事聞くし、機嫌直してよ」

「よし、じゃあデートだ。今から俺達デートだ」

「はぁ? もうすぐ日が暮れるんだけど」

「じゃあ、そこの公園でいい」

「そこの公園って、児童公園?」

「おう、そこだ」


 変なの。まぁいいけどさ。

 二人、児童公園まで行く。

 小さい頃はよくここで遊んだものだ。そう言えば、幼稚園の時に由起彦から告白されたのもこの公園だ。まぁ、思い出の地かな。


「で、何するの?」

「ん? 何しようかー」

「ノープランなの?」


 とことんエスコート下手なようだ。


「ああ、あれに乗ろうぜ」


 ブランコだった。

 私が座って、由起彦が私の両脇に足を置いて立つ。

 由起彦がゆっくりとブランコを漕ぐ。


「これに乗るのも久しぶりだわ」

「そうだよなー。昔はこうやって遊んだもんだ」

「いつからこういう遊び、しなくなったんだろ?」

「ん? いつからだろう。憶えてないなー」

「これからもそうなんだろうね」


 私達はこれからどんどん大きくなる。

 二人の関係もどんどん変わっていくのだろう。

 どうなっていくんだろう?

 不安でもあり、楽しみでもある。


「ちゃんとしたデートもそのうちしようぜ」

「幼馴染みでデートっておかしくない?」

「でもデートしようぜ」

「そうね。悪くないかも」


 由起彦と二人、デートか。

 今だって二人で甘味屋巡りをしている。

 それとはまた違った意味合いのデートだ。

 こいつはエスコート下手だし、碌でもないデートになるんだろう。

 それでもよかった。

 二人の関係を確かめ合うのだ。

 ところでブランコの振れがかなり大きくなってるんだけど。


「いや、ちょっと飛ばしすぎじゃない?」

「こうやったらみこ、喜んでたろー?」

「それは小さい時の話だってば。いやいやいや、いい加減、怖いんだけど」

「ははははは」

「何笑ってるのさ」

「ははははは」

「ぷっ、ははははは」


 二人、笑いながらブランコに揺られ続けた。




 次に坂上と同じシフトになった時。


「で、どうだった?」

「んー、一応諦めてくれた」

「良かったじゃない。私も苦労した甲斐があったってものだわ」

「でも泣かれちゃったよ。女子を泣かすのは僕のポリシーに反するんだけどね」


 それで元気がないのか。


「今度、ちゃんとしたデートしようよ」

「いや、それはないわ」

「水野君?」

「そう、由起彦。初めてのデートは由起彦って決めてるの」

「はぁ、僕って報われなさ過ぎじゃない?」

「だからさっさと諦めなさいよ」

「まぁ、諦めないけどね」

「ラブラブなデートしてあんたに見せつけてやるわ」

「君ら単なる幼馴染みでしょ?」

「そうよ。単なる幼馴染みよ」


 でもラブラブなデートするの。そう決まってるの。


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