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ちょっと髪型変えてみた。

 大きすぎず、小さすぎず、微妙な変化が求められていた。


「みこちゃん、こんな感じでどう?」


 華崎さんが言う。

 うーむ、こんなものか。これならあざとくなく、しかし確実に今までと違う。


「よく似合ってると思うよ」


 華崎さんが持つ鏡を見て、後ろまでよくチェックする。

 よし、これで行こう!


「ありがとうございます。華崎さん」


 美容室「Before After」を出る。

 家への帰り道、「坂木理容室」の前を通り過ぎる。

 ちょうど坂木さんが外でタバコ休憩をしていた。


「みこちゃん、似合ってるよ」

「今までお世話になりました!」

 

 ビシッと敬礼する。




 翌日、学校。


「お、みこ、髪型変えたのか?」


 さっそく友人の実知が声をかけて来た。


「まーね」


 万事大雑把な実知ですら気付いた。

 仕上がりは上々なようだ。


「美容室に変えたんだ?」


 やはり友人の恵が言う。おしゃれに気を配っている恵も気付いてくれた。


「おかしいかな?」

「そんな事ないよ、可愛いよ」


 テレテレと笑みがこぼれてしまう。


「問題は奴だ」


 実知が問題の奴を見た。

 そう、奴が問題だ。


「奴がいつ、気付くかだ」

「気付くんじゃない? なんだかんだでみこの事、よく見てるし」

「いやいやいや、奴は単なる幼馴染みですから。気付こうが気付くまいがどうでもいいですから」

「本当ー?」


 実知と恵がジトーッと見てくる。


 嘘である。

 気付いて欲しいのは女子として当然の事なのだ。




 昼休み。

 奴が声をかけてきた。

 来たぞ!


「野宮ー、さっきの数学のノート見せてくれよー」

「え? 他の男子に見せてもらいなよ。何でいつも私なの?」

「あいつら字、汚いんだよー。野宮のは黒板だけじゃなくて、先生が言ったことも書いてるしなー」


 奴がこっちを見ている。

 気付いた!


「まぁ、いいけど。今度ウチで高いの買ってってよ」

「相変らず商売の鬼だよなー」


 ノートを持って離れていった。

 え? スルー?

 鈍い、予想以上に奴は鈍い。

 いや、勝負はまだ始まったばかりだ。




 放課後、いつものように店番。私の家は和菓子屋だ。

 そして奴は毎日やって来る。お祖母さんのお茶菓子を買いに来るのだ。部活帰りに寄っていくので、そろそろのはずだ。

 あ、来た来た。


「ちわーっす」

「いらっしゃい」

「あっ」


 私を見て声を上げる。

 やれやれ、やっと気付いたか。


「ノート、机に入れっぱだった」


 はぁ? ノートですか。まぁ、こうやって肩すかしをしてくるのはいつもの事だ。


「いや、いいよ。今日宿題出てないし」

「悪いなー」


 カウンターの商品を物色し始める。

 

「じゃー、これにするわ」

「はい、280円ね」


 300円を受け取って、20円のお釣り。

 奴がチラリと私を見る。


「じゃーな、また明日」

「また明日」


 お店のガラス戸を開く。

 そしてそこで振り返る!


 あれ? そのまま出て行ったぞ?

 いやいやいや、冗談でしょ?

 慌てて奴を追いかける。


「ちょっと待った!」

「え? 何?」

「何か言う事あるでしょ!」

「あー、ノートいつもありがとうな」

「いや、そこじゃない!」

「??? あー、祖母ちゃんがいつも美味しいって言ってるぞー」

「いや、そこでもない!」


 奴が首を傾げ始める。

 奴に近づいて行く。


「ほらほら」


 右に左に顔を振って、奴に髪を見せつけてやる。


「??? え? 何?」


 はぁ? まだ気付かない? いや、ありえないって。


「髪。髪切ったんだけど」

「そうなんだ?」

「いや、そうなんだ? じゃなくって。今までと全然髪型違うでしょ?」

「そうか?」


 はぁ? 何言ってるの、こいつ。


「ほら、髪の梳き方とか、シルエットとか、違うでしょ?」


 何が悲しくてここまで説明しないといけないの?

 でもこっちも意地だ。絶対に分からせないと気が済まない。


「??? 女子の髪型なんて分からないよ」

「分かって下さい」


 奴が携帯を取り出した。何やら操作して、私の顔の横にやる。

 何やってるの?


「あーあー、違うな。ちょっとだけ違う」


 やっと分かったか。

 何なの、こいつの鈍さ。想像を遙かに絶するんだけど。


「みこー、こっち見て笑って」


 ん? 何?

 とっさに笑みを浮かべる。客商売なので、どんな状況でも笑顔になれるのだ。

 

 パシャッ


「じゃ、また明日」

「え? 今何したの?」

「いや、別に」

「いやいやいや、私撮ったでしょ?」

「そうかな?」

「そうだよ、ちょっと見せてよ」


 奴から携帯を奪い取る。

 あ、やっぱり私だ。さっきの撮りやがった。

 じゃあ、その前見てたのって?

 あ、やっぱり私だ。大口開けてあくびしている。アングル的に奴の席から斜め後ろの席の私を撮ってる。

 次も私だ。しかも寝顔だ。よだれ垂らしてる。もたれかかってるのってバスのシートだし、これは遠足の時のだ。

 おいおい、やめて下さいよ。ストーカーですか? こいつは。

 あ、次は違うな。部活の写真だ。

 ざっと見たところ、二十パーセントの確率で私だ。

 うーん、微妙な数字だな。

 奴を見ると、わざとらしく横を向いて口笛を吹いている。


「これ、何ですか?」

「別にいいだろ」

「盗み撮りとかマジで勘弁して下さい」

「もうしないってー。ちゃんとしたの撮れたからなー」


 ああ、そうか。今ちゃんとしたの撮ったもんね。

 携帯を取り返される。


「また髪型変えたら言ってくれよなー、アップデートしないといけないから」

「うん分かった。ちゃんと言うし」


 そのまま奴は帰って行った。

 まったく、写真が欲しけりゃいつでも撮らせてやるのに。

 ん? それもおかしいな。

 そもそも何で奴が私の写真を欲しがるんだ?

 奴が何を考えてるのかさっぱり分からない。


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