第一章・・・螺旋
果ての見えない空を飛ぶ鳥は、本当に幸せなのだろうか。
あの籠の中で暮らす鳥は、本当に不幸なのだろうか。
答えは、誰に問うても返ってはこなかった……。
足元に転がるそれを、男はまるでボールのように蹴った。
拳ほどの大きさのそれは二、三回転がると、脆く割れた。
「あ〜ぁ…また割っちゃった。悪いんだけど、その頭蓋骨を片しておいてくれない?
踏んで割ったら片付けるのが面倒だからさ。ほら、この部屋ってケーブルだらけだからね」
「分かりました。」
淡々とした女の声。男が微笑を漏らす。
床には無数の蛇のように、大小さまざまな太さのコンピューターケーブルが埋め尽くしている。
男は二つのキーボードを叩きながら、同時に5つのモニターに目を通す。ホログラムの画面の数値は目まぐるしく変わるが、彼はそれに動じない。
這いつくばるケーブルは、部屋の中央の水槽へと繋がっている。
薄碧の溶液が満たされている円柱の水槽。その中には小さな心臓がいくつものケーブルに繋がり、ゆっくりと脈打っていた。
小さく嘆息を吐くと、男は手を止めた。
「さて…。僕はここでゆっくりと観察させてもらおう。未来が生まれる日を楽しみにしているよ」
そう呟くと、モニターを閉じた。
* * *
太陽は姿を隠した。理由は誰一人として知らない。
全ての命あるモノを見守る太陽。
人々は太陽に尋ねた。
「どうして姿を隠しているのですか?」
太陽は答えた。
「それは、悲しい事が多すぎるからです」
「でも、貴方がいてくれないと私たちは困ってしまいます」
「では、私と血を同じくする人がこの扉を訪ねてくれたら、私は姿を現しましょう。
それまでに、悲しい事は消えていると願って……」
そう言って太陽は、人々にわらった。