1 ゴミ山と追放
「たった今からお前は仲間じゃねェ!」
「え?」
「え、じゃねえよ。わからねえなら逆から言ってやろうか? ェねゃじ間仲お前今から……」
バガン、と。
いかめしい顔の大男――マドルギスが丸テーブルを殴った。
何事かと一瞬しんとした冒険者組合のロビーに、割とすぐ王都らしい喧騒が戻ってくる。
「お前お前ッ、お前ェエエエ! トラッシュハルトお前ホンットにゴミだよなァ! オレのオレのオレのォオオ! お前なんかをギルドに入れちまったオレの気持ちがわかるかァ!? あァ!?」
この茹でダコみたいな男は、Cランク冒険者ギルド『魔怒流接吻』のギルドマスター。
俺の上司だ。
だった、と言ったほうが今は正確かもしれない。
「わからねえだろうなァ。お前、ホントにゴミだもんなァ。なんでオレはゴミと話してんだ? 3年連続Bラン昇級試験に落ちちまうようなド底辺冒険者だから、酔ってもねえのにゴミに管巻いちまう情けねえおっさんになっちまったってのか、オレはァ? あァ?」
目の前のかんしゃく玉に代わって話をまとめると、こうなる。
――俺はギルドを追放された。
もう少し詳細をまとめると、俺をギルドに加えたのはマドルギス自身だ。
お前はすげえ奴だァ、仲間になってくれ、と三日三晩付きまとわれ、俺は押し切られる形で加盟した。
それが半月前のこと。
マドルギスがそこまでお熱になったのは、俺のスキルが関係している。
《スキルコレクト/神与収集:ランクS》
スキルなんて大半の人間が持っているが、Sランクとなると1万人に1人だ。
Sランクスキル持ちの中には、軍隊とタイマンを張れる者や1000年先の未来を見通せる者もいる。
要するに、人智を越えた超人。
冒険者のトップ――Sランカーたちも、みんな高位のスキルを持っていると言われている。
「お前がSランスキル持ちっつゥから採用したのによォ! なんだお前はァ? カレー味のウンコか? おいしそうな匂いさせてオレを騙しやがってクソ野郎ォ!」
バガン――。
そう、俺のスキルはSランク。
しかし、そこには但し書きがある。
《スキルコレクト/神与収集》はスキルを100個所持できるという能力。
普通1つ、多くても3つなのを考えると破格だ。
ただし、所持できるのは「ゴミスキル」と呼ばれるCランクスキルだけ。
《爪の縦線がくっきり見えるようになるスキル》とか、《足の臭いを3秒間消せるスキル》とか、そんなのを100個持っているとそういうわけだ。
「おい、トラッシュ。ゴミを100個集めたらどうなるかわかるか?」
マドルギスはおもむろに立ち上がると、壁際のゴミ箱を担ぎ上げた。
それを逆さにして俺の頭に叩きつける。
ゴミの雨が降ってきたのは言うまでもない。
「ゴミ山だよ! ゴミ山ァ! お前はオレをこうしたんだよ、糞ったれのゴミカスめェ!」
ゴミを100個集めてもゴミの山になるだけ。
まさしくその通り。
返す言葉もない。
俺には剣の腕も魔法を使う学もない。
完全実力主義の冒険者という業界では、俺自体がゴミってわけだ。
「出ていけ、このゴミ山野郎!」
マドルギスと仲間たちは青筋と中指を立てて去っていった。
「……さて」
俺は気を取り直す感じで一声上げて、帽子と化したゴミ箱を脱いだ。
散らばったゴミを集めて放り込む。
周囲の視線が痛い。
たぶん、みんな笑っている。
「……」
こうして、パーティーを追い出されると、故郷の村から追放されたときのことを思い出す。
飢饉と竜害が重なって、人の数と食い物の数の帳尻が合わなくなった。
誰を追い出すかで揉めに揉め、白羽の矢が立ったのが俺。
ご大層なスキル持ちだから、村から出てもやっていけるだろうと親からも見放され、王都までえっちらおっちらやってきた、結果がこれ。
俺は今、王都惨めな奴ランキングの上位10人にランクインしているに違いない。
でもな……。
俺がゴミなら、俺をポイする奴は不法投棄バカ野郎だコノヤロー。
どいつもこいつもヤな感じだ。
(もういっそ山賊にでもなってやろうか)
と、黒い俺がささやいた。
それを白い俺が聞き流している。
末期だな。
「はあ」
上げる顔のない俺には下を向いてゴミを集めるのが性に合っているのかもしれない。
ほら、この汚れた靴下なんて穴のあき方が俺そっくりだ。
ハハ……。
「あ、あの! わたしは素敵だと思います!」
いつの間にか、目の前に人がいた。
少女。
それも美がつくタイプの。
華奢な肩幅、枝な手足。
生まれたての小鹿を擬人化したみたいな子で、髪は純白。
夏の日射しを10秒浴びたら溶けるか枯れるかしてしまいそうな子だった。
しかし、空色の瞳はまっすぐで強い。
「あなたは自分で散らかしたわけでもないのに、ゴミを片付けていますっ! わたし、とっても素敵な人だと思いました!」
今にも泣きそうな顔でそう言われた。
俺がこっぴどく追い出される一部始終を見ていたらしい。
「手伝いますっ!」
と、手が汚れるのも気にせず、ゴミをかき集めている。
なんていい子なんだ……。
俺も泣きそう。
「ありがとう」
おかげで俺の荒んだ心は浄化された。
俺の顔した山賊が街道沿いの茂みでゴミみたいに朽ちずにすんだのは、すべてこの子のおかげだ。
もうちょっと冒険者を続けてみるか。
そう思った。
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