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◆03

◆03


 結局、冒険者ギルドの関与と審判のもと、大々的に観衆を集めて一騎討ちを行うこととなった。

「カイル君、人を集めて行う必要はなかったんじゃあ……。カイル君が負けたら少なからず笑い者になっちゃうし、セシリアさんが負けても、それはそれでなんか可哀想だよ」

 対し、カイルは答える。

「僕が負けて恥をかいても、もともと僕の風評なんか底値だよ。なんせ勇者一党を追い出されたんだから。そしてセシリアさんも似たようなものだよ。ゴロツキ相手にあわや好き放題されるところだったんだから」

「でも……」

「それに、金策は大事だよ」

 彼の得意顔に、レナスは交渉を思い出し、頭を抱える。

「確か、勝ったほうが賞金をもらえるんだっけ」

「そう。観戦券を冒険者ギルドは売って、ギルドの取り分を差っ引いた分は勝った側が総取りする。ギルドのゴードンさんと話した通りだ」

「まさか仲間だけじゃなくて、金策までするつもりだったなんて……てっきりセシリアさんを乗り気にするための条件だとばかり。しかもカイル君が勝たないと意味が無いし」

「そう。僕が勝たないと意味がない。だけど僕には失うものがないのも事実だ。たとえばレナスを賭けて勝負するわけではないからね」

「そう……かなあ?」

「そうだよ。失うものがないなら、思い切って高い条件を付けるのも一策だ。それに」

 カイルは続ける。

「【司令】と【主動頭首】でいくぶん感覚が良くなった僕の見立てでは、勝てる」

 セシリアは、おそらく中級ほどの戦闘系の天性を持っている。それが何であるかは分からないものの、カイルの持っている天性、【司令】と【主動頭首】ならばそれを上回れるという確信が、彼にはあった。

 特に【剣客】を活かし、木剣を得物として勝負に出れば、勝算は充分。

「セシリアさんが他に強力な天性を持っている可能性は?」

「十中八九、ない。それほど顕著な天性なら、僕の観察で見つかるはずだ」

「【鑑定士】でもないのに?」

「それでもだよ。現に中級相当の天性には気づけたんだから」

「むむ……」

 レナスはひとしきりうなった後、ため息を吐いた。

「一つだけ。無理はしないでね。カイル君は私の大事な頭首なんだから」

「もちろん。僕としても大怪我とかを負うつもりはないよ」

「大丈夫かなあ」

 鮮烈な夕焼けの空を、カラスがのんきに飛び回っていた。


 仕合の当日がやってきた。

 観覧場所は見物客でごった返している。あの中に直接の当事者ではないレナスもいるはずだ。

 どうやら冒険者ギルドが集客に張り切っていたようだ。カイルは負けた場合の恥を考える……でもなく、賞金がたんまりもらえるであろうことに、一瞬だが思わず口の端が動いた。

 しかし皮算用はいけない。気を取り直して、彼は持参した木剣を握る。

 一方、セシリアは。

「長柄は有利だからな。念のため」

 穂先を丸めた短槍を持っていた。

 槍。セシリアの天性は【槍使い】系統なのだろうか?

 いや、とカイルは心の中で首を振る。

 長柄は有利だからな、というセシリアの言い方に注目するなら、彼女は槍以外にも複数の武器を使えて、その中から槍を選んできた、というように思える。

 つまり彼女の天性は、武器に関して万能の、【武芸者】系統なのではないか、と予測が立つ。

 もちろん、【武芸者】ではなく、武器使いの天性を複数持っている可能性もある。しかしカイルの研ぎ澄まされた直感に従う限り、天性は一つで、武器に関して万能のものであるように思えた。根拠はないが、底上げされた勘がそう告げている。

 となれば。

 ――他に武器を隠し持ってるおそれがあるか。

 彼は素早く彼女を観察する。

 と、彼女はその警戒心に気づいたのか。

「おっと、他の武器は隠し持っていない。天地神明にかけて誓う」

「むむ」

「そのような真似をするほど、私は卑怯ではない。見くびってもらっては困る」

 その表情は真剣そのもの。何かをごまかしているようには見えない。

「分かりました。大変失礼をいたしました」

 彼は頭を下げる。

「さて」

 と、それまで黙っていた、ギルドから派遣された立会人が口を出す。

「勝負は一対一。武器は非殺傷性であれば自由。勝敗は先に急所を突いたほうの勝ち。可能であれば寸止めで行う。勝負の条件はこれでよいですかな」

「同意します」

「同意する」

 二人はうなずいた。

「では双方、棒を置いてある位置につきなさい」

 二人とも、定位置に立つ。

 あまたの戦いを経験してきたカイルだったが、【司令】と【主動頭首】が発動している状態の戦いは初めてだ。

 それに、【武芸者】、中級程度の万能の天性持ちを相手にするのも、地味に今回が初めてである。

 しかし、それでも勝つしかない。

 せっかく手が届きかけているのに、ここで仲間候補を逃すわけにはいかない!

「よろしい。では――勝負、始め!」

 カイルは一気に集中し、大地を蹴り、勢いよく攻撃を仕掛けた。


 電光石火のはじめの一撃は、しかしセシリアにすんでのところで防がれる。

「なっ!」

「ぐぐっ!」

 驚いた様子を見せたのは、一撃を仕掛けたカイルだけではない。セシリアもまた、カイル、もとい【司令】と【主動頭首】がいかに強力な天性かを思い知ったのだろう。

「カイル殿の天性のうち武術系は【剣客】だけだったはず……それがここまでになるとは」

「いまの僕の一撃が防がれるとは思いませんでしたよ」

 先手必勝、最高の時機に、最高の太刀筋で入れたはずだった。

 きっとセシリアは、中級相当の【武芸者】天性のみに頼らず、日頃から鍛錬をしてきたのだろう。武術系上級の天性持ちには及ばないまでも、その修業がいかに苛酷だったかはうかがい知れる。

 もっとも、それでもカイルの一撃目を防げたのは運の要素もあったようだ。

 彼が上級の天性【剣聖】に勝るとも劣らないような撃ち込みをし続けているうちに、徐々に状況は傾いていった。

 木が削れて粉が飛ぶ。間合いを取ったり、急速に距離を詰めて打ちかかったり。

 一見互角に見えるが、見る者が見れば、セシリアの手首がしびれ、力が徐々に弱まっていたり、彼女の額に大粒の汗が出ていたりしてることが見て取れるはずだ。武器だけで見れば長柄のセシリアが有利のはずだが、完全にカイルがそれを力と技で覆している。

 そして彼女の変化は、最も間近で見ているカイルにも把握できた。

「せいっ!」

 彼女が焦って繰り出した、大振りの一撃。

 その隙を、彼は見逃さない。

「そこだ!」

 あやまたず彼女の首元で、木剣が止まる。

「そこまで! 勝負あった、カイル殿の勝利!」

 勝負に見入っていた観衆は、戦いの終わりとともに歓声を上げた。


 セシリアは素直に頭を下げた。

「いや、素晴らしい。まさに私の完敗だった」

 とはいえ、カイルが勝ったのは日頃の鍛錬というより、強力な複数の天性に頼ってのことだったから、彼は彼で少しばかり後ろめたさを感じた。

 しかし、約束は約束である。

「で、仲間になっていただけると」

「無論だ。仲間の指輪を所望する。カイル殿の強さは、私を大きく超えるものだった。その行く末を見てみたい。これは私の、希望的観測に近い直感だが、きっと貴殿は大きなことを成し遂げる」

「むむ……僕はただ勇者一党を追い出されただけの半端者ですよ」

 謙遜。しかもカイル自身もこれが謙遜であると自覚している。

 そもそも全ての力を底上げする天性というだけでも強力なのに、それが実質二つも備わっているのだ。大きな成果を、例えば四大魔道具の獲得を目指すに決して不足はないだろう。

 実際、カイルはその天性であっさりとセシリアに勝利した。このまま経験を積んで、剣術の腕と天性の双方を少しずつ成長させられれば、いつか大きな何かを成し遂げられる。

 それが天性に恵まれただけだと罵る人間がいたとしても、成し遂げられるもののほうがきっと大きい。

 カイルは天性を駆使して、大きな業績を目指す。

 そして勇者パーティを追い出されたのは、不名誉ではあっても、好転の可能性がある転機であった。いまのカイルはそう思っている。

 ともあれ、【司令】としても、またパーティの強化という観点からも、ある程度の粒である仲間は、野生動物が徒党を組まない人数程度には必要だ。

「改めて自己紹介しよう。私はセシリア。天性は【武芸者】だ。天性こそ中級で……【武神】ではないが、鍛錬で日夜鍛えている。主に荒事で役に立てるつもりでいる。これからよろしく頼む」

「こちらこそ、頼れる仲間が来てうれしいです。はい、仲間の指輪」

 セシリアは指輪をつけると、その感触に驚いたように。

「これが【司令】の効果か。身体だけでなくて、世界の見え方が変わった気がする」

「僕も初めはそう思ったものです。だんだん馴染んできますよ」

 かくして、カイルは二人目の仲間として、戦いに向いているセシリアを一党に加えた。



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