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◆26

◆26


 それから数日、勇者ミレディのことなど忘れていたころ。

「耳寄りな情報がありまする」

 恒例の貸し会議室で、報告したのはアヤメ。

「おお、成果が出たんだね」

「まあ成果といえば成果ですが、なんというか四大魔道具を得られる確証はないと申しますか……」

「じれったいな。早く説明してよ」

「では」

 いわく。

 アルトリア帝国、帝都よりずっと西、ベネミラーノという都市で商売をしている「ギヨーム商会」の当主が四大魔道具の一つ「電光の杖」を持っているという。

「なるほど。だけど持っているってだけじゃ、譲ってもらえるかどうか分かんないよ」

「まあまあレナス殿。この話には続きがありまする」

 ギヨームは最近、困りごとを抱えている。ベネミラーノ北部の支店で働く奉公人たちについて、そろって仕事の能率が下がっているという。

「仕事の能率が……?」

「左様。ほかの支店なら一日でこなせる仕事量が、北部支店だと三日はかかると」

「その原因は?」

「ギヨーム殿は俸給が低いことだと考えておられるようで、一度、一斉賃上げを行ったらしいのですが……改善しなかったようで。これ以上の賃上げも経理上できないと」

「経営が苦しいのかな」

「苦しいとまでは申しませぬが、ここ最近、徐々に収入は下がってきているらしいですな。こちらの表をご覧くだされ」

 アヤメは公開情報である勘定表を見せた。

「なるほど……確かに徐々に下がっているね。こっちの表を見る限りでも、減資とか社債発行とか、あまりいい状況じゃないね」

「北部支店の業績不振も、商会全体に影響しているものとみられまする。そこで提案でございまするが」

 カイルらがギヨームに北部支店の立て直しの秘策を授ける代わりに、電光の杖を頂く。

「まあ……そうくるとは思ったけど、そう上手くいくかなあ」

「どうせ商人たちに電光の杖という物騒なものは不要とみまする。それにギヨーム殿とは里にいたころの人脈で間接的につながっております。たどっていけば、ひとまず交渉の場から門前払いはされぬものと」

「おお。でも商いの経営には僕、あまり詳しくないけど」

「カイル殿はこの一党をきちんと『経営』しているではありませぬか。素質はあるのではありませぬか」

「褒めても何も出ないよ」

「なんの。とはいえ、ギヨーム殿から電光の杖を譲り受けぬと四大魔道具集めが進まないのも事実。とりあえず行って、現場を見て、商会の当主殿に助言するしかありますまい」

「上手くいけばいいけどもさ」

「カイル殿らしくありませんぞ。困難がなんであれ、我らはそれを乗り越えるしかありませぬ。ここで芋を引いていては、四大魔道具は集まらぬものと。それが冒険者の本質である以上、名誉のためにガツガツと貪欲に動くしかありますまい」

「それもそうだね。ベネミラーノか」

 カイルがあごをなでると、レナスやセシリアも反応する。

「行くしかないと思うよ。せっかくアヤメさんがギヨームさんへの人脈を持っているんだし。この幸運を活かさない手はないよ」

「私も同感だ。他の冒険者ならギヨーム殿と会うだけでも厳しいと思うぞ」

 カイルはしばらく机を見つめつつ黙っていたが、やがて顔を上げた。

「そうだね。次の目的地はベネミラーノにしよう。アヤメさんはギヨーム殿に連絡を取って、その上でみんな旅の準備を。僕はスキマ時間に、商業経営について少しでも勉強するよ」

「了解!」

 しかし経営術か、とカイルは弱ったようにつぶやいた。


 数日後、ギヨームに連絡を取った一行は、いつものごとく乗合馬車でベネミラーノへと向かった。

「今回は戦いとかなさそうだね。よかったよかった」

「その代わり、経験のない難題を何とかしなくちゃならないからね。僕だけじゃなくて、みんなにも協力してもらうよ。方策は一人より二人、二人より三人だ」

「はいはい。まあカイル君が結局解決するんだろうけどね!」

 レナスがけらけらと笑う。

「笑い事じゃないよ。戦いに一党が団結して向かうみたいに、今回の難題にも心を合わせて向かわないと」

「理屈は分かるのでござるが」

 アヤメが口をはさむ。

「なんというか、こういうものはカイル殿なら独力でどうにかしそうな気がするのは同意でござる」

「ああ、私もそういう気がする」

「もう、みんなしてお気楽だな……」

 カイルは閉口した。


 やがて都市ベネミラーノについた一行は、事前連絡の通り、昼過ぎにギヨーム商会本部を訪ねた。

 番人にも連絡は届いていたようで、すぐに応接間に通された。

 そしてやってきた当主ギヨーム。

「いやはや、アヤメ様がまさか、四大魔道具を二つ制覇したカイル様のお仲間だったとは」

「恐縮です」

 アヤメから聞く限り、ギヨームには冒険者の経歴はないはずだが、カイルらが四大魔道具を半分押さえていることは知っているようだ。

 これが噂というものか。カイルは口の中でつぶやいた。

「で、早速ですが商売の話をしてもよろしいですかな」

「ええ」

 話が早い。助かる、とカイルは思った。

 聞いた話は、概ねアヤメと同じだった。北部支店の能率が上がらない。賃上げをしたのだがそれでも捗らない。

「それをカイル様方には解決していただきたく……。冒険者としての独自の目線があれば、また見える道筋も違うのではないかと思うのです」

「それはそうかもしれませんが、私は商業に慣れた者と歩調を合わせたく存じます」

「……なるほど。その点は考慮いたしましょう」

「もう一つで恐縮ですが、今回の報酬となる電光の杖を一目見たいと思っております」

「おお、お安い御用で」

 ニカッと笑うと、ギヨームは使用人を呼んで持ってこさせた。

「こちらですな。電光の杖、一商人が持つには少し物騒すぎる代物ですな。ある日、いつの間にか物置にあったようなのです」

 伝説によれば、魔王にも対抗しうる雷電を操れるのだそうだ。

 魔王だけでなく、広く戦闘の主軸となると思われる。

「アヤメさん」

「間違いなく本物でござる」

「よし。分かった」

 彼女の素早い鑑定に、彼はうなずく。

「見せていただきありがとうございます。私たちも冒険者の端くれ、報酬たる四大魔道具がきちんとしていないと不安になるものでして」

「お気持ちは分かりますぞ。わしも代金回収なり問屋、卸からの納品なりは確実に行わないと不安ですな」

「そうでしょう。その辺は冒険者より商人のほうが繊細でしょうね」

「ハハ、冒険者も冒険中のささいな判断が生死を分けるものでしょう」

「それもそうですね。ハッハッハ」

 和やかな空気。

「ところで私たちも、現場となる北部支店を見回りたく存じます」

「おお、現場主義ですな。供をつけましょう。それも商いに精通した者を。最低限見られたくないところはありますので、供の者の制止には従っていただければ幸いですが」

「もちろんです。私もここへ来る道中に考えておりましたが、問題の根本はおそらく機密の中にはないものと思います」

「ほう。まあ、見回っていってくだされ」

 ギヨームは、おそらく本心から、ニコニコと笑った。



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