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しかし彼女には気になる点があった。
勇者ミレディはたっぷり武器を吟味した後、投剣用の短剣を購入し、結局一人で武器屋を出て行った。
他の仲間はどうしたのか。
武器の買い換え、新調といったことが目的なら、パーティの仲間と一緒にするのではないか。
勇者の主武器は勇者の剣だが、副武器として短剣を購入したとすれば、ミレディがここにいた理由は説明できる。しかし武器の新調なら、仲間と一緒の時機に行うのが素直のように、セシリアには思えた。
これはいかに。
尾行を続けると、ミレディは仲間と合流した。
たった一人の仲間と。
確かマーカスといったはず。勇者パーティは、前回会ったときより明らかに人数を減らしていた。
いや、まだ判断するには早いかもしれない。さらに別行動中の仲間と合流するのではないか。
しかし。
「勇者様。とうとう二人だけの一党になってしまいましたな。改めて寂しさを感じます」
「言わないでマーカス。あんなカスどもは、最初から勇者の仲間にふさわしくなかったのよ」
確定した。勇者パーティは何らかの事情で人数が減っていた。そして、きっと補充もままならない。
それはなぜか?
セシリアにはその理由が分かる。カイルのパーティに何度も高圧的に接し、のみならず最終的にはいずれも敗れたのが、勇者の求心力を失わせたのだろう。
カイルの勇者たちに対する手厳しい方針は、意外なところで勇者を追い詰めていた。
彼女はミレディに多少の申し訳なさを感じつつも、カイルへ報告に向かった。
カイルは報告を聞いて答えた。
「僕たちが気に病むことじゃないね」
まったくもってその通りではあった。カイルの考えでは、勇者の剣の売り払いも、四大魔道具を譲渡しなかったことも、正当性のあるものであった。
そしてそれは、カイルだけでなく、少なくとも過半数の人間は同意するであろうものであった。
特に彼と同じ冒険者は、勇者の剣を手間賃なしで譲渡することや、四大魔道具をなんの理由もなく引き渡すことには、カイルがしたように異議を発するものであろう。
世界は善意だけでは成り立っていない。
「それは、そうだが」
しかしセシリアは、ミレディの寂しそうな背中を現に見ている。同情の念が湧くのは仕方のないことだった。
「いいかいセシリアさん。勇者がパーティの編成もままならなくなったのは、彼女の自業自得というものだよ。きみもミレディの横暴は見てきたよね?」
「それは、まあ」
「僕も鬼じゃないから、どうにもいかなくなったであろう勇者ミレディに、同情はするよ。でもそれ以上は何かしてやる義理もない。自業自得だし、それ以上に僕たちは勇者の協力者でもなんでもない。勇者一党と冒険者とでは、存在意義が全然違うのは知っているよね?」
「それは知っているつもりだ」
「だったら気にしないほうがいいよ。僕たちがしなければならないことは、勇者に対しては何一つない。僕が追放されたことの意趣返しとかじゃなくて、本当に何も助ける必要はない。そうだよね?」
「まあ、そうだな……それもそうだな」
セシリアは浅くではあるがうなずいた。
「うむ、分かった。私たちはあくまで勇者とは別の一党だ、気にする必要もないな……」
「よし。その通りだよ、気にする必要はない」
カイルは確信とともに言い切った。
翌日。三つ目の四大魔道具をどう探すか、カイルらはいつもの貸し会議室で話し合う。
だが。
「やっぱり王都で情報収集から始めざるを得ないと思うんだ。だって情報が一番集まるのは王都だもん。外国を除くと」
「人の多いところには情報も多いですからな。人が少ないところは色んなものが少のうございます」
「外国の大都市も情報は多いと思うが、なんの手がかりもなしに、いきなり移動して異国で聞き込みをするのも、違う気がするしな」
いつもの方法に落ち着きそうだ。
しかし。
「まあそれしか思いつかないのは確かだけど、工夫が足りない気がする」
「工夫とおっしゃいましてもな」
カイルはこのルーチンワークをどうにかしたかった。
「四大魔道具は国内にあるとは限らない。実際、アルトリア帝都の例はそうだったよね。王都よりも、もっと国際色豊かなところに行って、異国の噂もつかめるのが理想ではあるね」
「しかし、それだと滞在費がかさみませぬか。金策が多かれ少なかれ必要になるのでは、と」
「そうなんだよね。そこで王都の中の『異国広場』で露店を巡るのはどうだろうか」
異国広場とは、外国の行商たちが集まる広場である。中央露店街などよりは規模が小さいものの、近くに駐在外交官たちの公館があり、異邦の者たちが集まりやすい環境にある。
なお言語の心配はない。この国周辺はかなり広範囲に言語の共通化が進んでおり、なまりや多少の方言はあるものの、話が通じないということはまずない。まして異国広場の行商となれば、商売をするこの国の言葉を覚えるのは必須事項といえる。
「異国広場かあ。でも、別の国に四大魔道具があるとも限らないんだよね」
「そうだね。国内の動向も探る必要がある。つまり手分けだね」
カイルは腕を組む。
「とにかく四大魔道具はどこに潜んでいるか分からないからね。網の目は狭く深くとか絞り撃ちというより、なるべく広範囲に拡げる必要がある」
「なるほど。確かにいまの段階では、情報のありかを絞りようがないからな」
「左様。それがしも同意でござる」
セシリアとアヤメが同意する。
「よし。広くくまなく情報集めということで方針は決まったね。じゃあ――」
「待ってほしい。カイル殿、勇者のことは」
セシリアが遠慮がちに意見を発しようとする。
「勇者? ミレディたちはもう僕らとは関係ないじゃないか」
「それは、そうだが……」
「ああ、逆恨みのおそれとか?」
「ああ、まあ、それも……もう少しミレディ殿たちには、優しく接すべきではないか」
どうやら彼女はミレディを可哀想に思っているようだ。カイルの見る限りでは。
憐れみをもって接する必要はない、と、カイルは当初から一貫して考えていた。が、逆恨みでかかってこられてはたまらない。それは確かであった。
「むむ。そうだね、勇者が何か仕掛けてきたら厄介だからね。なにせ相手は勇者の看板を背負っている。嫌がらせに勝っても、下手に痛めつけるのは信望を失うことになりかねない」
「いや……もう相手からは仕掛けてこないと思う。仲間も減っているようだしな。そうではなくて、その」
「なんだ、歯切れが悪いなあ」
言いつつも、カイルは彼女が言いたいことをすでに汲んでいた。
「まあいままでの接し方が強引だったのは確かだよ。それは反省する。もうちょっと血の気を抑えて接することにする。相手から突っかかってこなければだけど、まあ、その危険もないか」
「……どういうこと?」
「イマイチ話が見えませぬな」
困惑するレナスとアヤメに、カイルは説明した。
「というわけで、勇者一党は崩れかかっているみたいだ」
「そんなことになっていたなんて」
二人とも少なからず衝撃を受けたようだ。
「まあ、もう僕たちが交差する余地は多分ない。そっとして、ほっとけばいいよ」
「うーん……そうだね……」
「そうするしかないですな」
とりあえずは納得する二人。
「よし。じゃあ早速情報収集の手分けについてだ。異国広場と、中央露店街、酒場街、あとは……」
彼らは分担の詳細を決め始めた。




