表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/24

◆24

◆24


 しかし彼女には気になる点があった。

 勇者ミレディはたっぷり武器を吟味した後、投剣用の短剣を購入し、結局一人で武器屋を出て行った。

 他の仲間はどうしたのか。

 武器の買い換え、新調といったことが目的なら、パーティの仲間と一緒にするのではないか。

 勇者の主武器は勇者の剣だが、副武器として短剣を購入したとすれば、ミレディがここにいた理由は説明できる。しかし武器の新調なら、仲間と一緒の時機に行うのが素直のように、セシリアには思えた。

 これはいかに。

 尾行を続けると、ミレディは仲間と合流した。

 たった一人の仲間と。

 確かマーカスといったはず。勇者パーティは、前回会ったときより明らかに人数を減らしていた。

 いや、まだ判断するには早いかもしれない。さらに別行動中の仲間と合流するのではないか。

 しかし。

「勇者様。とうとう二人だけの一党になってしまいましたな。改めて寂しさを感じます」

「言わないでマーカス。あんなカスどもは、最初から勇者の仲間にふさわしくなかったのよ」

 確定した。勇者パーティは何らかの事情で人数が減っていた。そして、きっと補充もままならない。

 それはなぜか?

 セシリアにはその理由が分かる。カイルのパーティに何度も高圧的に接し、のみならず最終的にはいずれも敗れたのが、勇者の求心力を失わせたのだろう。

 カイルの勇者たちに対する手厳しい方針は、意外なところで勇者を追い詰めていた。

 彼女はミレディに多少の申し訳なさを感じつつも、カイルへ報告に向かった。


 カイルは報告を聞いて答えた。

「僕たちが気に病むことじゃないね」

 まったくもってその通りではあった。カイルの考えでは、勇者の剣の売り払いも、四大魔道具を譲渡しなかったことも、正当性のあるものであった。

 そしてそれは、カイルだけでなく、少なくとも過半数の人間は同意するであろうものであった。

 特に彼と同じ冒険者は、勇者の剣を手間賃なしで譲渡することや、四大魔道具をなんの理由もなく引き渡すことには、カイルがしたように異議を発するものであろう。

 世界は善意だけでは成り立っていない。

「それは、そうだが」

 しかしセシリアは、ミレディの寂しそうな背中を現に見ている。同情の念が湧くのは仕方のないことだった。

「いいかいセシリアさん。勇者がパーティの編成もままならなくなったのは、彼女の自業自得というものだよ。きみもミレディの横暴は見てきたよね?」

「それは、まあ」

「僕も鬼じゃないから、どうにもいかなくなったであろう勇者ミレディに、同情はするよ。でもそれ以上は何かしてやる義理もない。自業自得だし、それ以上に僕たちは勇者の協力者でもなんでもない。勇者一党と冒険者とでは、存在意義が全然違うのは知っているよね?」

「それは知っているつもりだ」

「だったら気にしないほうがいいよ。僕たちがしなければならないことは、勇者に対しては何一つない。僕が追放されたことの意趣返しとかじゃなくて、本当に何も助ける必要はない。そうだよね?」

「まあ、そうだな……それもそうだな」

 セシリアは浅くではあるがうなずいた。

「うむ、分かった。私たちはあくまで勇者とは別の一党だ、気にする必要もないな……」

「よし。その通りだよ、気にする必要はない」

 カイルは確信とともに言い切った。


 翌日。三つ目の四大魔道具をどう探すか、カイルらはいつもの貸し会議室で話し合う。

 だが。

「やっぱり王都で情報収集から始めざるを得ないと思うんだ。だって情報が一番集まるのは王都だもん。外国を除くと」

「人の多いところには情報も多いですからな。人が少ないところは色んなものが少のうございます」

「外国の大都市も情報は多いと思うが、なんの手がかりもなしに、いきなり移動して異国で聞き込みをするのも、違う気がするしな」

 いつもの方法に落ち着きそうだ。

 しかし。

「まあそれしか思いつかないのは確かだけど、工夫が足りない気がする」

「工夫とおっしゃいましてもな」

 カイルはこのルーチンワークをどうにかしたかった。

「四大魔道具は国内にあるとは限らない。実際、アルトリア帝都の例はそうだったよね。王都よりも、もっと国際色豊かなところに行って、異国の噂もつかめるのが理想ではあるね」

「しかし、それだと滞在費がかさみませぬか。金策が多かれ少なかれ必要になるのでは、と」

「そうなんだよね。そこで王都の中の『異国広場』で露店を巡るのはどうだろうか」

 異国広場とは、外国の行商たちが集まる広場である。中央露店街などよりは規模が小さいものの、近くに駐在外交官たちの公館があり、異邦の者たちが集まりやすい環境にある。

 なお言語の心配はない。この国周辺はかなり広範囲に言語の共通化が進んでおり、なまりや多少の方言はあるものの、話が通じないということはまずない。まして異国広場の行商となれば、商売をするこの国の言葉を覚えるのは必須事項といえる。

「異国広場かあ。でも、別の国に四大魔道具があるとも限らないんだよね」

「そうだね。国内の動向も探る必要がある。つまり手分けだね」

 カイルは腕を組む。

「とにかく四大魔道具はどこに潜んでいるか分からないからね。網の目は狭く深くとか絞り撃ちというより、なるべく広範囲に拡げる必要がある」

「なるほど。確かにいまの段階では、情報のありかを絞りようがないからな」

「左様。それがしも同意でござる」

 セシリアとアヤメが同意する。

「よし。広くくまなく情報集めということで方針は決まったね。じゃあ――」

「待ってほしい。カイル殿、勇者のことは」

 セシリアが遠慮がちに意見を発しようとする。

「勇者? ミレディたちはもう僕らとは関係ないじゃないか」

「それは、そうだが……」

「ああ、逆恨みのおそれとか?」

「ああ、まあ、それも……もう少しミレディ殿たちには、優しく接すべきではないか」

 どうやら彼女はミレディを可哀想に思っているようだ。カイルの見る限りでは。

 憐れみをもって接する必要はない、と、カイルは当初から一貫して考えていた。が、逆恨みでかかってこられてはたまらない。それは確かであった。

「むむ。そうだね、勇者が何か仕掛けてきたら厄介だからね。なにせ相手は勇者の看板を背負っている。嫌がらせに勝っても、下手に痛めつけるのは信望を失うことになりかねない」

「いや……もう相手からは仕掛けてこないと思う。仲間も減っているようだしな。そうではなくて、その」

「なんだ、歯切れが悪いなあ」

 言いつつも、カイルは彼女が言いたいことをすでに汲んでいた。

「まあいままでの接し方が強引だったのは確かだよ。それは反省する。もうちょっと血の気を抑えて接することにする。相手から突っかかってこなければだけど、まあ、その危険もないか」

「……どういうこと?」

「イマイチ話が見えませぬな」

 困惑するレナスとアヤメに、カイルは説明した。

「というわけで、勇者一党は崩れかかっているみたいだ」

「そんなことになっていたなんて」

 二人とも少なからず衝撃を受けたようだ。

「まあ、もう僕たちが交差する余地は多分ない。そっとして、ほっとけばいいよ」

「うーん……そうだね……」

「そうするしかないですな」

 とりあえずは納得する二人。

「よし。じゃあ早速情報収集の手分けについてだ。異国広場と、中央露店街、酒場街、あとは……」

 彼らは分担の詳細を決め始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ