第5話 正体、見破ったり。
※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。
ご理解の上でお読みください。
1
村の集会所の前、陽が傾きかけた頃。ヴラスは、村人たちを前に立っていた。
「聞いてほしい! あの役人たちは偽物だ!」
唐突な言葉に、ざわつく声があがる。
「何を言い出すんだ、ヴラス……」
「冗談言ってる時か? 次の納め日も近いってのに」
ヴラスは深呼吸をひとつして、持っていた一枚の紙を掲げた。
「この紙、俺が読んだんだ。ユウに教えてもらった読み方で……がんばって、時間もかかったけど……」
誰かが笑いそうになりかける気配を感じたが、ヴラスはそのまま言葉を続けた。
「書いてあったのは命令なんかじゃなかった。“月曜はお掃除〜、火曜はお洗濯〜”って、あの歌……」
沈黙。誰もがその旋律を思い出していた。子どもの頃に歌った、あの懐かしい民謡。
「じゃあ、紙に書かれてたのは……」
「民謡……だと……?」
ヴラスは何度も頷いた。
「前に言ってた命令の紙も、たぶん同じだ。つまり、あいつらは、村から作物を奪うために“命令”を偽装してたんだ!」
村人たちの顔に、徐々に怒りと驚きが入り混じった表情が浮かんでくる。
「じゃあ、あいつら……本当に役人じゃ……」
「待てよ、もしかして、あれが……“魔女”ってやつなんじゃねぇのか……?」
老人のひとりが、震える声で言った。
「昔から言われてるだろ? 強い魔核を持って生まれた女は化け物になるってやつだ。姿を変えて人を騙す……そういう伝承が、前からあった」
その言葉に、村のあちこちで囁きが交わされる。
「魔女……」
「まさか、本当に……」
ヴラスは唇を引き結んだ。
民謡を印刷して「命令書」と偽り、何度も村から食糧を奪っていった女たち。
それが、言い伝えだけの存在だと思っていた「魔女」なのだとすれば――
その時、誰かが叫んだ。
「来たぞ! 例の役人たちだ!」
村人たちが一斉に顔を上げ、遠くから歩いてくる二人組の女の姿を見た。
ヴラスの心臓が、強く脈打つ。
――本当に、あれが“魔女”なら。
今度こそ、逃してはならない。
2
例の二人組の女の役人が、いつも通り村の中央に姿を現す。
制服を纏い、威圧的な態度も変わらず。だが、村の空気は違っていた。
「お上からの命により、今月分の作物を納めていただきます」
村人たちは動かない。誰も籠を抱えてこない。
沈黙の中、子どもが泣く声だけが響いた。
「どういうつもりですか? 出し渋ると、お上に逆らうことになりますよ?」
「その“命”とやら……また“水曜はお洗濯”って書いてあんだろ?」
老人が皮肉っぽく言い放つと、村人たちの間にどよめきが走る。
「……ふーん、そういうこと」
片方の役人がぽつりと呟いた。
「もう誤魔化せないかあ」
もう一人が笑いながら答えたその瞬間。
二人の身体がぐにゃりと溶けるように崩れ、どろどろと混ざり合っていく。
「なっ……!?」
村人たちが息を飲む中、混ざり合った肉と黒い靄がねじれ、形を変えていく。
赤黒く膨れた身体、顔は歪み、三つの目と裂けた口。背中には瘴気を撒き散らす翼のようなヒレ。
馬までもが変貌し、巨大な多足の魔獣となって吠え猛る。
「よくもまぁガキが文字を読めたわねえ……ヴラスだったっけ?」
「坊やと家庭ごっこでもしてたのかしら?」
重なったような声が響く。
それはもはや“二人”ではなかった。
一つの巨大な異形、“魔女”と呼ばれる存在がそこに立っていた。
「うわああああっ! 逃げろッ!!」
村人が悲鳴を上げた瞬間、魔女の腕が伸び、家屋をなぎ倒す。
農具の納屋が爆音と共に吹き飛び、畑が踏み荒らされる。
「や、やめろ……やめてくれぇっ!!」
ヴラスが叫び、立ち向かおうとするも――
「おとなしくしな、ガキ」
魔女がそう囁くと、ヴラスの体がふわりと浮かび、空中で拘束される。
何本もの黒い鎖が腕と脚を締め付け、彼はまるで見せしめのように吊るされた。
「や……やめろッ! みんな……!」
だが声は空しく、家屋が倒壊し、作物が潰され、悲鳴が四方八方から響く。
「なあに、ほんのちょっと“お仕置き”よ。あたしたちがどんなに手間かけたか、分からせてやらなきゃ」
しかしヴラスの訴え虚しく、魔女は村を蹂躙していく。
誰かが泣いていた。
誰かが叫んでいた。
それを、ヴラスは宙から見下ろすしかできなかった。
(……ユウ……どこだ……!)
3
森の中――
ユウは倒木の陰を覗き込むも、害獣の姿は見えなかった。
「……逃げられちゃった。」
しょんぼりと肩を落とし、泥のついた靴を引きずるようにして歩き出す。
とぼとぼと森を抜け、村の入り口に差し掛かったその時だった。
――風が熱い。
――煙の匂い。
「……!」
ユウの目に飛び込んできたのは、燃える畑と崩れた家屋。
悲鳴、怒号、泣き叫ぶ声。
そしてその中心――宙に拘束されるヴラスと、その前に立ちはだかる異形の化け物。
「あ……っ」
ユウの喉が鳴った。
異様な体躯、ゆらゆらと揺れる触手のような髪。
三つの目と裂けた口、まとわりつく黒い瘴気。
――それは人ではない。
「あら、帰ってきたの?」
魔女がユウに目を向ける。
「ちょうどいいわ。見せてあげようかしら、“人間の本性”ってやつ」
ユウは無言で一歩踏み出す。
ナイフを抜き、手の中で構える。
「やだ、まさかそれで戦うつもり?」
魔女が肩を震わせて笑う。
「ねぇ、知りたい? あたしが何のためにこんなことしてたか」
「……」
「“異国のお高い化粧品”。あんた知らないでしょうけど、ものすごく高いの。
肌が透けるみたいに見えるし、ほっぺが薔薇みたいに染まるのよ? 宝石なんかよりずっと価値あるの。
あたし、それに見合う女なんだから当然でしょ?」
ユウの眉がわずかにひくつく。
怒りではなく、戸惑いともつかぬ感情が胸を締めつける。
魔女はなおも嗤う。
「そうやって、ちょっと脅して、ちょっと奪って、それでいい思いできるならやるでしょ?
何が悪いの?」
「……っ」
ユウが走り出す。
一直線に、ナイフを魔女に向けて振り上げ――
「遅い」
魔女の腕がうねり、空気を裂いてユウをはじき飛ばす。
「坊や、身の程を知りなさい?」
地面に叩きつけられ、ユウは呻きながらも立ち上がる。
腕が震え、ナイフは土に落ちる。
(……力が……足りない)
その時――
主人公の意識の中で、何かが起動する感触が走った。
――「買い物」機能を、解放します。
4
焦げ臭い風が吹き抜ける。
倒れたユウは、震える指で泥の中からナイフを拾い上げようとする。
だが――その時、意識の奥底に直接響く声が届く。
(ユウ、聞こえるか? 君に力を貸したい)
「……っ!」
その声は、ユウが持っていたスマホだった。
(…君が戦いたいなら、ぼくが武器を出せる。何が必要だ?)
ユウは、短く答えた。
「遠くからでも、魔核を壊せるやつ……近づけない」
(了解。君だけの武器を出す)
空気が震える。
ユウの目の前に、光の粒子が集まり、形を成す――
細身で黒鉄色のスリングショット。
弾丸は硬質な魔力の結晶。黒曜石のように光る。
(“スレイ・ライン”。狙いは外さない)
ユウは無言で受け取り、深く息を吐く。
魔女の背後、泥の中から突き出た宝石のような「魔核」がかすかに輝く。
ユウは、しゃがみ込み、狙いを定める。
……空気が静まる。
……鼓動が、遠ざかる。
そして――
ピシィンッ!
一発目。
魔力弾が空を裂き、魔女の背に突き刺さる。
「なにっ――!?」
魔核にひびが走る。
途端に、そこからバチバチと紫色の電流が走り、魔女の身体を這う。
「坊や……ッ、貴様ァァッ!!」
魔女が振り返る――が、遅い。
ユウは、再び弾をつがえ、低く言い放つ。
「“異国のお高い化粧品”なんて、いらないよ!」
二発目。
今度は、魔核の中心へ――直撃。
バチバチバチッ!!
全身を走る電流。
魔女はのけぞり、髪が逆立ち、絶叫する。
「嘘……こんな子どもに……負ける、なんて……ッ」
言葉が最後まで出ることはなかった。
魔核が砕け、全身が眩い光に包まれる――
ドォォン!!!
破裂音と共に、魔女は爆発し、泥の中に残骸も残さず、消えた。
黒くうねる瘴気は空へと昇り、風に溶けるように消えていった。
……静寂。
ユウは武器を手に、ひとつ息をつき、その場に座り込んだ。
背後から、走り寄ってきたヴラスの声がする。
「ユウ……! おまえ……魔女を……やったのか……?」
ユウは、ただ小さくうなずいた。
5
村は静まり返っていた。
納屋の柱は折れ、畑の土は踏み荒らされ、民家の屋根には煙がくすぶっている。魔女の爆発は、まるで嵐のように村を呑み込み、そして消えた。
村人たちは広場に集まり、ぽつりぽつりと声を漏らしていた。
「……あれが、魔女……だったのか……」
「ずっと、作物だけ持ってくだけだと思ってたが……」
「高級な……化粧品だと? そんなもんのために……」
悔しさと安堵が入り混じったような空気の中で、誰かがぼそりと呟いた。
「……これだから、女ってのは……」
その場に重い沈黙が落ちる。
が、誰も言い返さない。ただ、不快だけが残った。
そんな空気を裂くように、馬の蹄の音が村の奥から響いた。
「失礼するわよ!」
現れたのは、濃い紺の制服に身を包んだ本物の役人二人。
ひとりは長身できりっとした顔立ち、もうひとりは小柄でまだあどけなさの残る従者風の女性。
「このあたりで“魔女の魔核爆発”の痕跡が観測されてね。急いで来たんだけど……あらまあ、もう片付いてるじゃないの」
焼けた地面と黒く焦げた草を見下ろし、長身の役人が呟く。
「……あなたがやったの?」
ユウがうなずくと、役人の顔が驚きにわずかに揺れた。
「……あなたが仕留めたのね。あの魔女、まさか役人を名乗って好き勝手に作物を奪っていたなんて……。各地から不審な徴収の報告があって、私たちもずっと調べていたの。まさかこんな形で尻尾を掴むことになるとはね。――坊や、あなた、よくやってくれたわ」
「……坊やって呼ぶなよ」
ユウは少しむっとした顔で言う。
役人は小さく笑い、背後の従者に何かを手配するよう指示を出したあと、ユウに正面から向き直った。
「都へ来てもらえるかしら。魔女討伐の正式な感謝状を出したいの。それに、いろいろ話を聞かせてもらいたいし——」
ユウは少し考えてから、うなずいた。
「うん。行く」
それを聞いて、役人は満足げにうなずいた。
一方その頃、ヴラスはまだ広場の端にいた。
壊された小屋を眺め、何もできなかった自分の手を見つめている。
その視線の先にいるユウを見て、拳を静かに握った。
(……また、行っちまうんだな。お前は)
空はもうすぐ夜になろうとしていた。
けれど地面には、まだ魔女の濁した黒い痕が残っていた。